第41話 誕生日と後輩ちゃん
六月十七日。今日は後輩ちゃんの誕生日。
土曜日なので、俺は早起きして朝ごはんの準備と誕生日パーティの準備をしている。今日は楓と裕也もお祝いに来るらしい。
朝ごはんの準備ができたら俺の寝室のドアが開き、パジャマ姿の後輩ちゃんが目を擦りながら出てきた。眠そうで目が半分閉じている。
「おはよう後輩ちゃん」
「……おはよう………ごじゃいましゅ…」
後輩ちゃんが半開きの目でボーっとしながら挨拶を返してくれた。
「誕生日おめでとう」
「……ありがとう………ごじゃいましゅ…」
半分夢の世界にいる後輩ちゃんはトボトボと顔を洗いに行った。
俺はその間にご飯や味噌汁を準備する。今日は和食にしてみた。
今日は後輩ちゃんの好きな物ばかりにする予定だ。
後輩ちゃんがボケーっとしたまま座った。目はまだ半分閉じていて寝癖も酷い。
普通の人なら、パジャマを着替えなさい、とか、ちゃんと起きなさい、と言う所だけど俺は気にしない。
後輩ちゃんは休みの日の朝が弱い。パジャマを着替えたとしてもボーっとしたままなので、すぐにご飯をこぼしてしまう。
そうなったら再び着替えないといけないからパジャマのほうがいいのだ。
それに、ボーっとしている後輩ちゃんを密かに愛でているから、ちゃんと起きろとも言いたくない。無防備なところがグッとくる。
「………いただきましゅ」
後輩ちゃんがご飯を食べ始めた。一口食べるごとに目が開いていき、顔が幸せそうになる。この顔を見ただけで作った甲斐があった。
後輩ちゃん、いつも美味しく食べてくれてありがとう。
▼▼▼
ピンポーン!
午後。お昼ご飯も食べた後、家のチャイムが聞こえた。
俺は後輩ちゃんの枕役を一旦止めて、玄関に行って訪問者を出迎える。
玄関を開けるとバカップルがいた。楓と裕也だ。
「やっほーお兄ちゃん! 来ちゃった♡」
「颯、来ちゃった♡」
なんかムカッとした。
俺は黙って玄関を閉めようとするが、勘のいい裕也が脚でブロックする。
俺は一瞬扉を開けて裕也が油断したところで全力で閉める。
当然裕也の足が思いっきり挟まれた。ガンっと痛々しい音がする。
「っ!?」
声にならない悲鳴を上げて片足でぴょんぴょんしている。相当痛かったのだろう。裕也は涙目だ。
「ちょっとお兄ちゃん! ユウくんを痛めつけていいのは私だけなんだから!」
そう言った楓は俺が挟んだ足とは反対の足を思いっきり踏みつける。
裕也が脚を押さえてしゃがみ込んだ。楓に踏まれて恍惚としている。
裕也はドМか…キモイ。でもイケメン…死ね。
「さっさと入れ! 後輩ちゃんがソワソワして待ってるぞ!」
「ソワソワしてません!」
リビングから顔を出していた後輩ちゃんが俺に大声で反論していた。
言うだけ言うとヒュッと顔がリビングに引っ込んだ。
「あはは! んじゃ、お邪魔しまーす!」
「お邪魔しまーす!」
楓と裕也が元気よく挨拶して、靴を脱いで家に上がる。
というか裕也の復活早っ! いつの間に復活したんだ!?
楓と裕也は二人仲良く密着して座った。ピンク色のラブラブオーラをまき散らしている。見てるだけでイラッとする。腕を組んで手を恋人つなぎ。
俺と後輩ちゃんの前だから遠慮していない。今にもキスしそうだ。
リア充爆発しろ!
「葉月ちゃんお誕生日おめでとう!」
「
「ありがとうございます!」
後輩ちゃんが照れてる。照れてる後輩ちゃんも可愛いな。
俺は楓と裕也にお茶を持って来てテーブルに置く。そして、空いている後輩ちゃんの隣に座った。
「お兄ちゃん私たちの前だからって遠慮しなくていいからね! いつものようにイチャイチャしてくださいな」
「するかっ! お前らは俺たちに遠慮しろ!」
「ブーブー!」
「裕也は黙ってろ!」
「お兄ちゃんお兄ちゃん………葉月ちゃんが……」
楓が言いにくそうに俺に言ってきた。
ハッと後輩ちゃんを見ると、瞳を潤ませて残念そうに落ち込んでいる後輩ちゃんがいた。
「…………先輩は嫌なんですか?」
上目遣いでウルウルと見つめてくる後輩ちゃん。
くっ! 可愛い。可愛すぎるだろ! ま、まあ今日は後輩ちゃんの誕生日だし好きにさせてあげるか。
俺は少し下がって自分の足をポンポンと叩く。後輩ちゃんの顔が輝き、俺の足の間にストンっと座ってきた。甘い香りが漂ってくる。
後輩ちゃんは俺の胸を背もたれにしている。最近いつもの体勢だ。
「むふふふ…裕也さんや、二人は仲が良いですなぁ」
「むふふふ…楓さんや、二人は学校でもこんな感じですぞ」
楓と裕也がニヤニヤと俺たちを見てくる。
例えるなら、噂好きの近所のおばさんみたい。二人のニヤニヤはとてもイラッとする。
我慢だ…我慢だぞ俺。こういう時は後輩ちゃんのお腹を触って落ち着こう。
「ひゃう!」
後輩ちゃんが声を上げた気がするが、気のせいだろう。
ふむ、後輩ちゃんを触ると落ち着く。
「裕也さんや、お兄ちゃんが葉月ちゃんのお腹を触っていますぞ」
「楓さんや、これならエッチなこともしていそうですな」
二人が顔を見合わせて、仲良く同時に俺たちに身を乗り出して言った。
「「二人とも! 詳しく教えて!」」
「誰が言うか! このセクハラバカップル! 俺たちは何もしてねぇ!」
「「「ヘタレ」」」
「うっさい! って後輩ちゃんもヘタレって今言ったよね?」
「なんですか、ヘタレ先輩? 二人とも聞いてください! 先輩ったら最近一緒に寝てるのに襲ってくれないんですよ」
「お兄ちゃんって男色? ユウくんなら貸すけど。私、BLが大好物だし」
「違う!」
おいおい妹よ。俺は妹が腐女子だなんて知らなかったぞ。
俺は男好きじゃないから。俺はちゃんと女性が好きだから。後輩ちゃんが好きだから………まだ言わないけど。
彼女に差し出されようとしていた裕也は…それはそれでありかも、って満更でもない顔をしている。
俺の身体にゾワッと寒気が襲ってくる。思わず後輩ちゃんの温もりに縋る。
「颯って不能?」
「違うっ!」
ちゃんと機能するから。衰えていませんから。
後輩ちゃんにバレないようにするのが大変だから。特に朝。
「私で興奮してくれるのはわかってるんですけどね。抱き枕にするだけで何もしないんです」
「それは後輩ちゃんが気絶するからゆっくりと段階踏んでから…」
「「ヘタレ」」
「だからうっさい!」
楓と裕也が息ぴったりだ。流石バカップル。イラッとするのもウザイのも二倍になっている。
落ち着け。落ち着け俺。後輩ちゃんの身体をギュッと抱きしめて、深く息を吸う。後輩ちゃんはいい香り。
はいそこ! 小さく”変態だ”ってドン引きして言わないで! そしたら後輩ちゃんも変態になるから!
よし、落ち着いてきた。話を逸らそう。
「今から後輩ちゃんの誕生日パーティを開催します!」
「イエーイ!」
「フーフー!」
「どうもどうも!」
突然話を逸らした俺に、ノリがいい皆はテンションを上げて盛り上げてくれた。
盛り上がりが最高潮になったところで、一瞬で静寂が訪れる。そして、三人が同時にボソッと呟く。
「「「話を逸らした」」」
うっさい。いいだろ? 話を逸らしたって。
三人のジト目が辛い。特に後輩ちゃんの至近距離のジト目が一番効く。
はいはい、いいですよ。俺はヘタレですよ。後輩ちゃんに拒絶されるのが怖くてヘタレている俺ですよ。だからジト目は止めて頂けませんかね?
こうして、後輩ちゃんの誕生日パーティが始まった。
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