第37話 相合傘と後輩ちゃん
放課後になった。教室がガヤガヤと騒がしくなり、帰宅する者や部活に行く者が元気よく教室を出て行く。
俺と後輩ちゃんはもう既に帰る準備が出来ている。
近くの女子達が挨拶してきた。
「葉月、颯! また明日!」
「葉月ちゃん、颯くん、じゃあね! お幸せに!」
「二人とも! 明日こそ二人の生々しい行為を聞き出すからね!」
「ちょっと! 私たちは何もしてないから!」
「あーはいはい。またな」
最近女子たちが積極的に話しかけてくる。
朝も、おはよう、と言ってくれたり、帰りもこのように挨拶してくれるのだ。
嬉しいは嬉しいけど、さらに男子たちから嫌われてる気がする。
「宅島、またな!」 バシッ!
「颯また明日! 死ね!」 バシッ!
「山田さん、ま、また明日」 バシッ!
「………………」 バシッ! バシッ! バシッ!
痛い。頭や背中を男子から叩かれる。痛い。
男子は俺を叩くことが最近の日課になっているらしい。
嫉妬や殺意などの負の感情を込めて叩かれる。
俺を叩くことで後輩ちゃんや女子から好感度が下がっているのは気づいているのだろうか? まあ、気づいていないだろうな。ご愁傷様です。
「先輩…大丈夫ですか?」
後輩ちゃんが心配そうに声をかけてきた。
「………大丈夫」
「家に帰ったらナデナデしてあげます」
「…………お願いします」
俺は後輩ちゃんの魅力的な提案を拒否することが出来なかった。
俺は恥ずかしくて窓の外を見る。そして、気づいた。
「後輩ちゃん後輩ちゃん…もしかして雨降ってる? それとも俺の目が悪いだけ? 頭を叩かれたからおかしくなったかな?」
「大丈夫ですよ。先輩は正常です。お外は雨ですよ」
後輩ちゃんが頭を撫でてくれる。
嬉しいけど恥ずかしいので家でしてください。お願いします。
「そっか。後輩ちゃん? 傘持って来てる?」
「持って来てませんよ。今日の降水確率0%だったので。誰も持って来てないんじゃないですか?」
だよね。降水確率0%だったのに傘を持って来ている人はいないよね。
どうしようか。このまま帰ると後輩ちゃんがびしょ濡れになってしまう。後輩ちゃんには風邪をひいてほしくない。俺は濡れてもいいか。
俺はリュックに手を入れ、ゆっくりとある物を取り出す。
後輩ちゃんの目が大きく見開かれた。
「先輩……それって……折りたたみ傘ですよね?」
「そうだ。いつもリュックに入れてる」
「流石先輩です!」
「はい、後輩ちゃん。使っていいよ」
「ふむ……」
後輩ちゃんが何やら不満そうに折り畳み傘を受け取った。
そして、教室の中で広げ始める。大きさを確認しているようだ。
大きさがわかった後輩ちゃんは嬉しそうに頷き、俺の手を引っ張る。
「さあ先輩! 一緒に帰りましょう!」
「お、おう」
俺は後輩ちゃんに手を引かれて教室を出て、靴箱に向かう。
靴を履き替えたら後輩ちゃんが傘を俺に差し出してきた。
「後輩ちゃん?」
「先輩が使ってください」
「えっ?」
早く早く、と急かす後輩ちゃんに逆らえず、俺は傘を開いた。
そこに後輩ちゃんがくっつく形で傘の中に入ってくる。
折り畳み傘は二人で入っても濡れないくらいの大きさがあった。
「これは……」
「はい。相合傘です! いやー先輩とやってみたかったんですよね! というわけで、一緒に帰りましょう!」
後輩ちゃんに引っ張られる形で雨の中を歩き出す。
後輩ちゃんが俺の腕に密着しており、雨の中を走り去る男子生徒たちから呪詛がかけられる。
女子も雨の中を走り、制服が透けている。下着の色と形がはっきりとわかる。
「あっ! 透けブラ……。透けブラって手がありましたね。どうしましょう? 私もしたほうがいいですか?」
「後輩ちゃんが風邪をひきそうだからしなくていいです。………………(それに他の男に見せたくないし)」
思わずボソッと呟いてしまった。
後輩ちゃんにも聞こえてしまったらしい。顔を赤らめ、嬉しそうに俺の腕に密着してくる。
後輩ちゃんの柔らかさを感じ、あまい香りが漂ってくる。
「うふふ。そうですかそうですか。先輩はそんなに私のことが好きですか」
「………………俺の好きな人が後輩ちゃんとは言っていない」
「頑固ですねぇ。私はゆっくりとお待ちしていますよ」
俺と後輩ちゃんは二人仲良く相合傘をして雨の中を歩いていく。
こういう時に限って時間が進むのが早いんだよね。
後輩ちゃんとの時間がゆっくり進めばいいのに。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。少しくっつきすぎではありませんか?」
「そうですか? 結局くっつくので離れても意味ないと思いますよ」
「それってどういうこと?」
俺は意味が分からず首をかしげる。
密着している後輩ちゃんが俺に説明してくれた。
「小説やアニメによくありますよね? 相合傘をするカップル。最初はお互い離れています」
「ふむふむ。よくあるな」
「そして、女の子は気づくのです! 男の子の肩が濡れていることに!」
「よくある展開だな」
「先輩もしますよね?」
後輩ちゃんが大きくて綺麗な瞳で俺を見つめてくる。俺は恥ずかしくて目を逸らす。
「たぶんな」
「肩が濡れている先輩。それに気づいた私。チラリと見ても平然としている先輩。私はキュンとしてしまい、恥ずかしいけれど先輩に抱きつくのです! そして、私と先輩は恥ずかしさと嬉しさ、ドキドキなど感じながらくっついて帰宅するのです! ね? 結局くっつくことになりますよ?」
「途中から俺と後輩ちゃんになっていたけど、まあ、言いたいことは分かった」
「ちなみに私は傘で隠しながらキスするのにも憧れています」
「そうか」
俺は周りを確認し足を止める。
俺にくっついていた後輩ちゃんの足も当然止まった。
不思議そうに見つめてきた後輩ちゃんの頬に俺は軽くキスをした。触れるだけの優しいキス。もちろん傘で周りから見えないように隠している。
やってみたけど想像以上に恥ずかしい。二度としなくていいかな。後輩ちゃんにお願いされたらするかもしれないけど。
「~~~~~~~~~~~っ!?」
キスされた後輩ちゃんはポフンッと爆発的に顔を赤らめ、口をパクパクさせながら動揺している。
キスされたことに頭では理解しているけど、心では理解できないという感じだ。
慌てている後輩ちゃんも可愛い。あっ! 後輩ちゃんがフリーズした。
「後輩ちゃん後輩ちゃん! 起きて! ここで気絶したらダメだ!」
「…ハッ! すみません。ほっぺにキスされた夢を見ていました」
「後輩ちゃん……夢じゃないよ」
「ん~~~~~~~~~~~っ!?」
後輩ちゃんが顔を真っ赤にさせてポコポコ叩いてきた。
痛……くはないけど傘を持ってるから叩かないで欲しい。雨で濡れるから!
少し落ち着いてきた後輩ちゃんがビシッと俺を指さしてきた。
「雨の日は必ず相合傘で帰ることにします! これは命令です!」
「なんで!? まあ、後輩ちゃんの命令ならいいけど…」
「そして、必ずキスしてもらいます!」
「ムリムリムリ!」
「むぅ! 今しましたよね!?」
「………したけど」
「じゃあできますよね?」
「………………」
俺がスッと目を逸らすと、後輩ちゃんが、はぁ、と深い深いそれは深ーいマリアナ海溝よりも深いため息をついた。
そして、梅雨の湿気よりもじっとりとしたジト目で俺を見てくる。
「どうしてこういう時にヘタレるんですか?」
「うぐっ」
「はぁ……いいですよ。じゃあ家ならどうですか?」
「それならなんとか……」
「では、お帰りのチューと行ってきますのチューを義務付けます」
「わかった」
んっ? 何故か行ってきますのキスもすることになってるんだけど。なんで?
まあ、後輩ちゃんが嬉しそうだから仕方がない。頑張ってキスしよう。
こうして、俺は外出した時と帰宅した時に後輩ちゃんにキスすることになりました。
後輩ちゃんは毎回毎回気絶しそうになりながらも、嬉しそうにキスされていました。
でも、後輩ちゃんに言いたいことがあります。
俺たち付き合ってないよね!? 何で新婚夫婦みたいなことしてんの!?
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