第34話 Sと乙女と先輩

 

 先輩が私の寝室から出てきた。Gを退治してくれたらしい。


 あんな生物絶滅すればいいのに。


 奴のことはもう忘れよう。今は先輩を労ってあげなきゃ。



「先輩お疲れ様です」


「それほど疲れてないけどな。一センチも満たないくらい小さかったし。それに、すぐに出てきてくれてからな」


「それにしては出てくるまでに時間がかかりましたよ?」


「…それは…その……えーっと……」



 何故か先輩が言い淀んだ。何か疚しいことがあるのかもしれない。


 ハッ! まさかっ!?



「もしかして、私のベッドにダイブしてたんですか!? 私の匂いを堪能して…」


「違うわっ!? 俺は後輩ちゃんじゃないから! 心を落ち着けるのに時間がかかっただけだから! というか後輩ちゃん! 最近俺と一緒に寝てるだろうが! 匂いだけじゃなくて柔らかさも温もりも毎日堪能してるから! ………あっ」


 ほうほう。先輩は私の匂いも柔らかさも温もりも堪能しているのか。


 良いことを聞いてしまった。これからも先輩と一緒に寝よう。


 これから暑くなるから薄着で寝てもいいかな? 先輩を誘惑してやる。


 でも、先輩と一緒に寝ると、私って数秒で寝ちゃうんだよな…。


 先輩はリラックス効果がある。マイナスイオンとか出してないよね?



「そうですかそうですか。毎日存分に堪能してくださいね♡」


「…………ありがたくそうします」



 ふふふ。先輩も男の子だから欲には忠実だ。


 最近はだんだんと積極的になってくれてる。先輩が襲ってくれるのも時間の問題だ。


 早く襲ってくれればいいのに!


 先輩が顔を赤らめ、話題を逸らすかのように私が脱ぎ捨てた服を拾い始める。



「籠に入れろっていつも言ってるんだけどな」


「あはは…つい…」



 脱ぎ捨てるのが気持ちいいんだよね。何か自由って感じがする。


 まあ、ぶっちゃけ面倒くさいだけなんだけど。


 先輩が脱ぎ捨ててあった私の白い下着を手に取る。


 先輩…それをどうする? どうする? それは昨日着けてた下着ですよ。それを隠れてポケットに…なんてしないのが先輩なんだよね。してもいいのに。


 というか、全くの無反応なのは傷つくんですけど!



「先輩先輩! その下着は昨日のやつですよ!」


「…そうか」


「興味は?」


「ないな」


「では、今着けてるのがいいですか? 脱ぎますよ?」


「いらん!」



 先輩が面倒くさそうに答えてくる。


 ほうほう。私ちょ~っと怒っちゃったかも。興味ないなんて、私、傷ついちゃった。傷物にされちゃったんだけど。これは先輩に責任を取ってもらわないと!


 さて、何をして先輩を困らせようかな?


 私が誘惑する方法をいろいろ考えていたら、突然先輩が悲鳴を上げた。



「きゃぁあああああああああああああああああああああああ!」



 私は先輩の悲鳴にビクッと驚いた。


 先輩が手に持っていた私の服を放り投げて、びっくりして固まっている私の背中に抱きついてきた。


 え? えっ? なに? なになに? 一体何事!?



「せ、先輩!?」


「はわわわわ……」



 私の背中に顔を押し付けて震えている。


 何この可愛い生物! 先輩が私を盾にしているけど、可愛いので許す!


 それにさっきの悲鳴も可愛らしかったなぁ。


 流石、乙女の先輩! 現役女子高生の私よりも可愛らしい!



「えーっと、乙女先輩? 一体何があったんですか?」


「……Sだ」


「S? 私ってそんなにサディスティックな笑みを浮かべてましたか? ふむ。Sの私とMの先輩ですか………………これはこれでありですね」


「ない! ないから!」


「では、Sの先輩とMの私。私……実は先輩相手ならちょっとMなので……少し乱暴にされたい…です」



 きゃー! 言っちゃった言っちゃった!


  実は私ってMなんだよね。先輩を揶揄うのも楽しいけど、やっぱり先輩にリードされて激しく求められたいタイプです。


 特に、本気モードの先輩がいいなぁ。あの姿の先輩なら何をされても許す!


 まあ、いつもの先輩でも許しちゃうんだけど。


 先輩が私の背中からスッと顔を出してきた。



「それってマジ?」



 先輩が真面目な顔だ。幸い引かれてはないみたい。


 これで引かれてたら私立ち直れなかったかも。


 優しくて私のことが大好きな先輩は引くことはないけどね。



「マジです」


「……覚えとく」


「そうしてください」


「………………って違ぁぁあああああう! そっちのSじゃなぁああああい!」



 うわっびっくりしたぁ。


 先輩が急に近くで大声出すんだもん。私の身体がビクッてした。


 先輩が顔を青ざめ、また私の背中に顔を押し付けて震え始める。



「先輩どうしたんですか!? ホラー映画を観た時みたいに震えていますよ。私を悶えさせるつもりですか!?」



 先輩が私の背中に顔をグリグリ押し付けながら、先輩がさっき飛び上がったところを震えながら指さした。


 うん、先輩が可愛い! 小っちゃな子供みたい!


 私は先輩に抱きつかれながら、えっちらおっちら歩いて近づいていく。そして、よーく目を凝らすと、小さな黒い物体がちょこんっと動いた。



「これは………蜘蛛?」



 一センチも満たない小さな蜘蛛が私の脱ぎ捨てた服から這い出してきた。そして、リビングの床をひょこひょこ歩き回る。


 私はこれくらいの蜘蛛なら問題ない。昆虫じゃなくて節足動物だから。


 触るのは無理だけど、眺めるくらいはできる。



「あっ……スパイダーのSか。先輩は蜘蛛は嫌いなんですか?」



 先輩が『蜘蛛』という単語にビクッと反応して、頷く気配がする。


 って先輩! 胸! 私のおっぱいをモミモミしないでください!


 あっやっぱりもっとしてほしいかも。うん、もっとして。



「先輩が珍しいです。どさくさに紛れて私のおっぱいを揉みしだくとは…」


「あわわわ……あわわわわ…」


「……あれ? 先輩聞いてます? というか、私のおっぱいを触っているのに気が付いてます?」


「ふぉぇぇえええええええええ……」


「あっ聞いてない」



 先輩は私の胸を揉んでいることにも気づいていないんだろうなぁ。


 なんだか残念。


 でも、さっきGが出た時の私も似たような感じだったからな。今度は私が頑張る番だ!



「先輩! ちょっと私から離れて窓を開けてくれませんか?」



 先輩が涙目でフルフルと頷き、私から離れて窓を開けてくれた。


 私のしたいことがわかったのか、サッと窓から一番遠いところに逃げる。


 私はいらない紙を取り出すと、小さな蜘蛛を窓の外に誘導する。



「ほらほら、そのまま真っ直ぐ行ってごらん? あっ! ちょっとそっちじゃない! 逆逆! 反対方向だから! お外はあっちですよ~! あぁもう! それっ! ほりゃっ! とりゃっ!」



 私は途中から面倒くさくなって、小さな蜘蛛を紙で転がす。コロコロ転がっていった蜘蛛は窓の外にポーンっと転がり出て行った。


 ふぅ! 一仕事終わり! さぁ~て先輩は……。



「先輩が乙女してる! なんで女の子座りで、涙を流して、襲われた直後みたいに呆然としてるんですか! 可愛いじゃないですか! それに女の子座りは男性はほとんどできませんよね!? 先輩がすると可愛いじゃないですか!」



 まったく、どれだけ蜘蛛が嫌いなんですか。ホラー映画並みに嫌いなんですね。

私、初めて知りました。


 いつもかっこいい先輩が時々物凄く可愛くなるんだよね。


 もう、抱きしめたくなっちゃう! 抱きしめるけど!



「ほらほらよしよし。もういなくなりましたよ」


「うぅ~~~~」



 私が先輩を抱きしめると先輩がぎゅうっと抱きしめてきた。そして、顔をグリグリと押し付けてくる。


 おぉ…先輩が私のおっぱいに顔を埋めている。あのヘタレの先輩が!


 先輩が正気に戻ったらどうなるんだろう? これは楽しみだ。



「なでなで、なでなで」



 パチンッ!  何かが外れる音がした。



「おろ? おっと!」



 先輩の頭を撫で、抱きしめていると、小さく”パチン”と音がして胸のあたりが緩くなった。


 ブラのホックが外れてしまったのだ。


 今日はフロントホックの下着だったから、先輩が顔を押し付けているから外れちゃったのか。


 恥ずかしい、恥ずかしいけど、このまま先輩を抱きしめていようかな。


 今の先輩は幼児化しているから、私は気絶するほど恥ずかしくない。


 よし! このまま先輩が正気になるまでノーブラのおっぱいを堪能させてあげよう! いつも私をお世話してくれてるお礼です。


 十分ほどして先輩が正気に戻る。



「きゃぁあああああああああ!」



 可愛い悲鳴を上げて、乙女な先輩は顔を真っ赤にしながら私から勢いよく距離を取った。


 手で頬を触りながら口をパクパクさせている。私のおっぱいの感触を思い出しているらしい。


 うむ、作戦成功。とても可愛い先輩を見ることが出来ました。


 私を意識してくれたようです。このまま襲ってくれないかなぁ。襲ってくれないよね…。残念。


 結局、その後数日間は、乙女な先輩は私のことを意識しすぎて、話しかけるだけでピクッと反応し、顔が真っ赤になっていた。


 襲ってくれないのは残念だったけど、恥ずかしがる先輩がとても可愛かったです。


 私は、可愛い先輩を愛でるのが癖になりました。

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