第32話 六月と後輩ちゃん
六月。六月は梅雨の時期である。しかし、まだ梅雨に入っていない。
俺は家のリビングで仰向けになって本を読んでいた。途中まで読んでいたのだが、今は全く本の内容が頭に入ってこない。
なぜなら、後輩ちゃんが俺の身体を跨いでが仁王立ちしているからだ。
「どうしたの、後輩ちゃん?」
俺は仕方なく後輩ちゃんに問いかけた。
今日の後輩ちゃんは白と黒のワンピースを着ている。
スカートの丈が短いので、後輩ちゃんの生足に視線が吸い寄せられる。そして、スカートの中が見えそうで見えない。
とてももどかしいが、そのもどかしさがいい。見えそうで見えないのがドキドキする。
「えーっと、話を始めたいところですが、先輩が食い入るように私の太ももや下着を見ているので、もう少し待ってあげます」
「それはありがたいですが、下着は見えていませんよ」
後輩ちゃんが顔を少し赤くして、困ったように首をかしげる。そして、スカートのすそを摘まんだ。
「見せましょうか?」
「いやいや! 見えそうで見えないところがいいの! 男心をくすぐられるから!」
「ふむ。先輩がだんだん欲に忠実になってきたのは良いことです。ですが、私には男心はわかりませんね。はい。サービスタイムは終了です」
あぁ…後輩ちゃんが座ってしまった。折角のサービスタイムが……続いているぞ?
「後輩ちゃん後輩ちゃん! どうして俺の上に座ったの?」
「気分です!」
「せめてもう少し別の場所に座ってくれる?」
「嫌です!」
後輩ちゃんが楽しそうに俺の身体の上で軽く弾む。
後輩ちゃんの身体が動かされるたびに、俺の敏感なところが刺激されてしまう。
やばい。本当にやばいから! 興奮するから!
ただでさえ後輩ちゃんはスカート丈が短いワンピースを着ている。後輩ちゃんの白い艶めかしい生足に視線が吸い寄せられる。
脚を立てて座っているため、太ももの内側の際どいどころまで露わになっている。
「わかったわかった! 座ってていいから動かないで! そして脚を立てないでください!」
「はーい! ……………(チッ! 先輩の理性はどうなっているんですか!?)」
「ん? 何か言った?」
「いいえ。何にも」
後輩ちゃんが輝く笑顔で答えた。
俺の見間違いかな? 一瞬だけ後輩ちゃんの顔が悪女のような顔になった気がしたんだが。俺の気のせいか。
「それで? 後輩ちゃんが言いたいことってなんだ?」
「それはですね、六月になったということです! 六月と言えば何を思い浮かべますか?」
「後輩ちゃんの誕生日」
俺は即答する。何を隠そう6月17日は後輩ちゃんの誕生日なのだ。
後輩ちゃんの名前は葉月だが、決して八月生まれではない。六月生まれの葉月ちゃんなのだ。
昔、俺は八月生まれと思い込んでいて、七月に誕生日を尋ねたらもう過ぎていたという事件があった。
あの時は大変だった。一週間くらい後輩ちゃんが拗ねていたから、ご機嫌取りに苦労しました。
俺の際どい所に座っている後輩ちゃんは、俺の答えを聞いて何かを思い出すように遠くを見ている。そして、ポンッと手を打った。
「あぁ! そういえば、私の誕生日があるんでした!」
「忘れてたの!?」
「はい。綺麗さっぱりと!」
「まあ、いいや。それはそうと後輩ちゃん、誕生日プレゼントは何が欲しい?」
「んっ!」
後輩ちゃんが何かを指さしてくる。指さした先にあるのは…………。
「洋服? 洋服が欲しいのか?」
後輩ちゃんはふるふると首を横に振る。そしてまた指をさす。
「んっ!」
「やっぱり洋服を指さしているじゃないか」
「先輩? わかっていますよね?」
後輩ちゃんがにこやかに笑った。
こめかみに青筋が浮かんで、声に怒りがこもっている気がするんだが、気のせいだろうか?
「誕生日プレゼントは先輩が欲しいです」
「却下!」
「先輩の初めてが欲しいです」
「却下! 却下却下却下!」
「むぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
後輩ちゃんが可愛らしく唸っている。そして、駄々をこねる子供のように身体を動かす。
お願い止めて! その動きは危険だから! 動きとか刺激とか本当に危ないから!
後輩ちゃんは大惨事が起こる前に動きを止めてくれた。
「まあ、却下されるのはわかっていましたけど。誕生日プレゼントですか。どうしましょう?」
「今年は土曜日だぞ。デートに行くか?」
「家でダラダラしていたいですね。一日甘やかしてください!」
「それでいいのか? いつもと変わらないぞ?」
「いいんですよ。私はインドア派なので。あっ先輩! 先輩の手作りケーキが食べたいです」
「喜んで作るけど」
「やったぁ!」
後輩ちゃんが体を揺らして喜んでいる。
だから動かないでくれません? 俺の理性も限界があるんですけど。
後輩ちゃんが上半身を倒してきた。俺と後輩ちゃんは至近距離で見つめ合う。後輩ちゃんの綺麗な黒髪が俺の顔をくすぐってくる。
髪を耳にかけた後輩ちゃん。どうしてその動作に見惚れてしまうのだろうか?
俺は思わず後輩ちゃんの頬に手を添えて優しく撫でた。
「おぉ! 先輩が積極的です!」
「茶化すな」
「茶化さないと恥ずかしいです」
後輩ちゃんが完全に俺の上に寝そべった。もぞもぞと動いて、恥ずかしさで赤くした顔を俺の胸に押し付けて隠している。
「そういえば、後輩ちゃんは何を言おうとしてたんだ?」
俺はふと思い出したので聞いてみた。
後輩ちゃんが話をしようとして、誕生日の話になったのだ。思い出した後輩ちゃんがガバっと顔を上げる。
「そうです! そうでした! 六月と言えば何を思い浮かべますか?」
「後輩ちゃんの誕生日」
「あぁもう! 私の誕生日のことは忘れてください! いえ、覚えていて欲しいですけど、今は置いておいてください。六月と言えば梅雨! 梅雨と言えばジメジメとした空気!」
「まだ梅雨に入ってないし、外は夏みたいに快晴だけど」
窓の外を見るとギラギラと太陽が輝いている。
外は暑そうだなぁ。最近は天気がおかしい。異常気象だ。
「梅雨と言ったらジメジメとした空気なんです! で、ジメジメとした空気と言ったら………」
「言ったら?」
「そう! ホラーです!」
後輩ちゃんがドヤ顔で言った。
俺は表情が抜け落ちないように必死で表情を作る。少しぎこちないけどニッコリ笑顔だ。
「さぁ~て、後輩ちゃん。頭をなでなでしてあげよう!」
「わーい!」
俺が頭をなでなですると後輩ちゃんは嬉しそうに顔を緩ませる。
よし、このまま誤魔化そう。
しばらく頭を撫で続ける。しかし、幸せそうな後輩ちゃんがハッと思い出してしまった。
「って先輩! ホラーですよホラー!」
少し怒った口調だけど、口元は緩んだままだった。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。今日のご飯は何にする?」
「う~ん……唐揚げ?」
「唐揚げか。わかった。決めてくれた後輩ちゃんの頭を撫でてあげよう!」
「わーい! って二度も同じ手に乗りませんよ!」
チッ! ダメだったか。いけると思ったのに。
「撫でたらダメなのか?」
「………………撫でてください」
後輩ちゃんが頭を差し出した。後輩ちゃんの頭を撫でると幸せそうに顔が緩む。
必死で怒った顔にしようとしているけど、見事に失敗している。
「さて、先輩。話を誤魔化した罰としてホラー映画を観ましょう!」
後輩ちゃんは怒った口調にしたかったのだろうけど、見事に失敗して、とてもとても嬉しそうな声で言った。
ふむ。仕方がない。最終手段を取ろう。
「あ、あれ? 先輩? 脚で私を挟んで何をするんですか? 手も背中に回されて身動き取れないんですが……はっ!? まさかっ!? 私のことを食べる気ですか?」
「残念! こちょこちょだ!」
俺は身動きが取れない後輩ちゃんの身体をくすぐる。今までに見つけた後輩ちゃんの弱点を執拗にくすぐっていく。
「あはははははははははは! あはははははは! あははははははは! ひぃ~~っ! や、やめてください!」
「ほらほら~! もっとしてやる~!」
「い~~~~や~~~~~!」
部屋に後輩ちゃんの楽しげな笑い声がしばらく続いていた。
俺が手を止めた時には、後輩ちゃんは呼吸困難になっていた。
服は乱れ、肌は紅潮し、汗で髪が濡れている。そして、床でピクピクと痙攣している。
うん、なんかエロい。とてもエロい!
俺は後輩ちゃんの身体を弄れたので大変満足しています。
後輩ちゃん、ごちそうさまでした。
結局俺は、話を誤魔化した罰とこちょこちょをした罰でホラー映画を二本観ることになった。
拒否しようとしてもう一回こちょこちょしたらもう一本追加されました。
こちょこちょしなければよかったと後悔しています。
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