第31話 ご褒美のキスと後輩ちゃん

 

 中間テストが終わって一週間。ようやく全てのテストが返却された。


 テストの合計点数で後輩ちゃんと勝負している。でも、まだ一つも点数を教え合っていない。全部返却されてから教え合うことになっている。


 家に帰るとニコニコ笑顔の後輩ちゃんが座っていた。



「おかえりなさい。テストが全部返却されましたね」


「ただいま。そうだな。返却されたな」


「キスする準備は出来てますか?」


「ほうほう。結構よかったみたいだな? でも、後輩ちゃんこそキスする準備は出来てるのか?」



 俺がニヤリと笑うと後輩ちゃんの笑顔が引きつった。


 さて、どうなるかな? 俺も結構よかったけど、後輩ちゃんは頭がいいからな。もしかしたら負けているのかもしれない。


 俺はキスしようがされようがどっちでもいい。


 でも、後輩ちゃんはされるのは良くても、するのはどうなんだろう? 初心な後輩ちゃんはキスできるのか?


 そんなことを考えながら、俺は制服を着替えたり手洗いうがいをしたりした。


 全ての準備が終わった後、後輩ちゃんの対面に座る。


 後輩ちゃんは少し緊張しているようだ。さっきの俺の言葉で余裕がなくなったらしい。



「えーっと先輩? テスト良かったんですか?」


「ん? まあ、普通だな」


「くっ! 先輩の普通は普通じゃないんですよね。今回の勝負は大丈夫かな? 私勝ったよね? うん、勝ったはず! 勝ってたらいいなぁ……」



 後輩ちゃんが自問自答している。不安そうだ。



「よしっ! さっさと合計得点を言いましょう!」



 後輩ちゃんはあっさりと切り替えた。潔い。


 今回のテストは九科目行われた。全て百点満点。だから九百点満点中何点だったかで勝負する。



「同時に言うのか?」


「はい。”せーのっ!”って言ったら同時に言いましょう。では、覚悟はいいですか?」



 緊張気味の後輩ちゃんが俺の瞳を見つめてくる。


 俺はゆっくりと頷いた。


 家に帰宅するまでに覚悟は決めた。もうどうなってもいい。



「せーのっ!」


「855点」


「855点です!」



 俺たちは沈黙する。


 ん? 俺の頭がおかしくなっていないよな? 後輩ちゃんの口から俺と同じ点数が聞こえた気がした。


 俺は855点。一科目平均95点だ。そして、後輩ちゃんも855点。


 同点か。



「先輩も855点? これってもしかして……」


「ああ。同点だな」


「負けた人が勝った人にキスをする、というルールでしたが、同点の場合は決めていませんでしたね。どうします?」


「しなくていいんじゃないか?」



 俺は深く考えずに答えた。キスするのは恥ずかしいし。


 でも、後輩ちゃんから何も反応がない。


 後輩ちゃんを見ると、頬を膨らませ拗ねた顔で、むむむ~、と唸っていた。



「こ、後輩ちゃん?」


「なんですか、ヘタレ先輩?」


「拗ねてる?」


「思いっきり拗ねてます」



 ムスッとした顔で後輩ちゃんが言う。俺の答えが気に入らなかったようだ。


 ムスッとした拗ねた表情だが、どことなく残念そうにも感じる。



「ごめん! その……恥ずかしかったから……」


「ふふふ。知ってます」



 後輩ちゃんが拗ねた表情から一瞬で悪戯っぽい笑顔になった。


 どうやら演技をしていたらしい。後輩ちゃんが演技をしていたなんて、全くわからなかった。



「キスをたくさんしてくれたら許してあげましょう!」


「二回とか?」


「少ないです」


「三回?」


「ダメです」


「四回?」


「もう一声」


「五回で勘弁してください!」



 俺は土下座して後輩ちゃんに頼み込む。


 少しの間考えていた後輩ちゃんは結論を出す。



「いいでしょう! 五回で許してあげます!」


「ありがとうございます! でも、後輩ちゃんも一回は俺にしてくれよ。同点だったんだから」


「なぁっ!? そうですか。そうきますか! 同点でしたからね。お互いにキスをするということですか。いいでしょう! やってやろうじゃありませんか!」



 後輩ちゃんが顔を赤くして自棄になったように叫ぶ。


 そして、近づいてきた後輩ちゃんは俺の脚を勝手に動かす。俺はされるがまま、胡坐をかいていた脚を伸ばした。伸ばした脚の太ももの上に後輩ちゃんが座ってくる。


 後輩ちゃんのお尻の柔らかさが脚に伝わってくる。後輩ちゃんが固まっている俺の首に手をまわした。



「チュッ♡」



 俺の頬に柔らかな感触がした。後輩ちゃんがキスしたのだ。



「こ、後輩ちゃん!?」


「よしっ! これでいいですね!」



 後輩ちゃんの顔が真っ赤だ。


 俺も後輩ちゃん以上に赤くなっているに違いない。身体が熱い。


 頬に初めてキスされた。


 後輩ちゃんのキスは、嬉しくて恥ずかしくて幸せな気持ちになった。一瞬だったのがとても残念だ。


 俺がキスの余韻に浸っていると、後輩ちゃんは顔を赤くしたまま目を閉じた。



「さあどうぞ!」



 今すぐキスをしろ、ということらしい。



「もうちょっと後が良かったんだけどなぁ。俺も勇気出すか」



 緊張で身体を強張らせている後輩ちゃん。目を瞑ったまま動かない。


 俺はちょっと悪戯したくなった。俺は後輩ちゃんに五回キスをしないといけないらしいから、全部別々の場所にしてみよう。


 まずは後輩ちゃんの右の首筋。



「チュッ」


「なぁっ!? 先輩どこにしてるんですか!?」



 後輩ちゃんが驚きで目を開ける。


 場所はどこでもいいという条件だったろ? 俺は構わずキスを続ける。


 次は後輩ちゃんの左の首筋。



「チュッ」


「せ、先輩!?」



 次は後輩ちゃんの左の頬。



「チュッ」


「ひゃうっ!」



 次は後輩ちゃんの右の頬。



「チュッ」


「あぅあぅ…」



 最後は後輩ちゃんの前髪をかき上げて額に。



「チュッ」


「ふぁっ!?」



 よし。後輩ちゃんに五回キスしたぞ。


 恥ずかしい。恥ずかしいけど達成感があるな。ヘタレの俺にしては頑張った。頑張ったぞ、俺。


 キスされた後輩ちゃんは顔を赤くしたまま口をパクパクしている。


 恥ずかしさが限界ギリギリのようだ。気絶する一歩手前に見える。


 俺は止めを刺すことにした。



「チュッ」



 六回目のキスは後輩ちゃんの可愛い鼻にした。


 ちょっと目測を誤れば唇にキスすることになったが、何とか可愛い鼻にキスすることができた。



「~~~~~~~~~~~~っ!?」  バタリ



 後輩ちゃんが声にならない悲鳴を上げて気絶した。


 恥ずかしさが限界を突破したらしい。後輩ちゃんの身体から力が抜けて俺にもたれかかってくる。


 気絶した後輩ちゃんは体まで真っ赤にしている。そして、赤い顔はとても幸せそうだ。幸せで顔が緩んでいる。


 この後輩ちゃんの顔が俺にとっては一番のご褒美だな。


 俺は後輩ちゃんが起きるまで、後輩ちゃんの顔を眺め、柔らかい髪を撫でていた。

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