第30話 〇〇と〇〇〇と俺と後輩ちゃん
中間テスト。それは学期の中旬に行われるテストである。
俺たちにその中間テストが近づいてきた。俺はテストに向けて勉強中である。
まあ、俺は留年したから去年経験しているけどね。復習みたいなものだから気にする必要はない。
留年最高!
「うわぁ…先輩が『留年最高!』とか思ってますよ。ちょっと引きます」
「後輩ちゃん俺の心を読まないで。あと、引かないでくれません?」
隣に座って同じく勉強している後輩ちゃんがドン引きしていて、俺はちょっと傷つく。
いいじゃないか。留年なんてメリットはそれくらいしかないんだから。去年のテストも見せてあげてるでしょ。
「それは助かりますが」
「後輩ちゃん! ナチュラルに心の中を読まないで!」
「先輩がわかりやすいのが悪いんです!」
何故かドヤ顔の後輩ちゃん。とても可愛い。
紺色のノースリーブワンピースを着た後輩ちゃん。とても可愛い。
可愛いしか言葉が出てこないな。うん、可愛い。
「それにしてもテストですかぁ……先輩! 勝負しませんか?」
「勝負?」
後輩ちゃんが悪戯っぽく目を輝かせている。
俺はちょっと警戒する。こういう顔の後輩ちゃんは何か思いついたときの後輩ちゃんだ。
「テストの合計得点で競いましょう!」
「勝った人は何するんだ?」
「相手を襲います」
「却下!」
「では、負けた人が襲います」
「却下! 却下! きゃ~っか!」
どうして襲ったり襲われたりしないといけないんだ。
最近の後輩ちゃんはグイグイ迫ってくる。いざという時は気絶しちゃうくせに。
「では、先輩が勝ったら私がお風呂に突撃してあげます。私が勝ったら先輩が突撃してください」
「そんなこといつでもしてやるぞ。今日は一緒に入るか?」
「なぁっ!? せ、せせせせせせせ先輩とお風呂………」 バタン!
後輩ちゃんは想像したのか、顔を真っ赤にして目をまわしてしまった。バタンと後輩ちゃんが倒れる。
倒れてもいいように準備していたから後輩ちゃんはどこもぶつけていない。何とか抱き留めることができた。
あ~あ、冗談だったのに。というか、後輩ちゃんから言い出したことだぞ。後輩ちゃんは初心すぎる。まあ、そういう所も可愛いんだけど。
数分して目が覚めた後輩ちゃんが真っ赤になりながら俺から離れていく。
「せ、せせせせせせせせせせせせせせせせ先輩!? おおおおお、お風呂…!?」
「そんなに警戒しなくても冗談だから」
安心したような残念なような複雑な表情をしている後輩ちゃん。
そんなに急ぐことないだろ。ゆっくりでいいんだゆっくりで。
「えー、コホン! 先輩のヘタレ」
「ちょっと待て後輩ちゃん! なぜ俺はヘタレと言われないといけないんだ! そもそも気絶してしまうくらい初心な後輩ちゃんが悪いと思うんだが!?」
「ヘタレ」
「冗談だったけど、珍しく俺から攻めた気がするんだが?」
「ヘタレ」
「後輩ちゃんが気絶したから…」
「ヘタレ」
「………………なんかすいませんでした」
だから後輩ちゃんに見つめられるのは弱いんだって! なぜか謝りたくなるから止めてくれ!
「えー、コホン! さて、勝負のご褒美は何にしましょうか?」
後輩ちゃんが咳払いして話を進める。
気絶したことも俺がヘタレ認定されたこともなかったことにするようだ。
「刺激が少ないやつでお願いします。ヘタレの俺に配慮してください」
「ふむ。では、負けた人が勝った人にキスをする、というのはどうでしょうか?」
後輩ちゃんがしばらく悩んで提案した。俺も少し悩む。
「キスかぁ。場所はどこでもいいという条件ならいいぞ」
「流石ヘタレの先輩。とことんヘタレますねぇ」
うっさい。俺がヘタレなのは放っておけ。
それに、唇にキスするならもっとロマンティックな雰囲気の時にしたいだろ?
テストの勝負のご褒美または罰ゲームでするのはちょっと違うかなぁと思っているし。
「まあ、乙女の先輩だからロマンティックな雰囲気の時に唇にキスしたい、なんて思っているんでしょうけど」
「なぜバレてる!?」
「先輩の考えなんか全てお見通しです!」
後輩ちゃんが得意げに胸を張っている。
そんなに俺ってわかりやすいのか? 今度裕也に聞いてみるか。
座っていた後輩ちゃんがなぜか四つん這いになった。
だからその体勢は止めてくれ! 服の中が見えるから!
後輩ちゃんは気にせず俺に近づこうとするが、スカート丈が長いワンピースなので上手く四つん這いで歩けない。
面倒くさくなった後輩ちゃんはスカートをたくし上げ、四つん這いで俺に近づく。
後輩ちゃんの白い太ももが艶めかしい。
固まっている俺に後輩ちゃんが後ろから抱きしめてきた。後輩ちゃんから抱き締めてくるのは珍しい。
俺の背中に当たる胸の感触が気持ちいい。
「後輩ちゃんの胸が当たってる」
「当ててるんです! どうですか? 気持ちいいですか?」
後輩ちゃんが胸をふにふにと俺の背中に押し付けてくる。いや、”ふにふに”よりも”ふにょんふにょん”か?
後輩ちゃんの胸は平均よりも大きいからとても柔らかい。大変気持ちいいです。
「興奮します?」
俺の肩から覗き込んできた後輩ちゃんが、後ろから俺のことをじっくりと見ていた。顔ではない。もっと下のほう。詳しく説明すると俺の股のところ。
「ってどこ見てるんだ!?」
「あはは…どこでしょう?」
後輩ちゃんは笑って誤魔化す。
腕を俺の首にまわし、顔をくっつけてきた。俺の頬と後輩ちゃんの頬が触れ合う。頬にも柔らかな感触がして、猫のようにスリスリと頬ずりされる。
「……先輩…唇にキスするときは好きって言って欲しいです」
「後輩ちゃん?」
後輩ちゃんの声は、恥ずかしさと愛しさと期待が込められていた。でも、壊れそうというか、少し脆さを感じる。
「先輩の気持ちはわかってます。先輩だって私の気持ちを知っていますよね?」
「……まあな」
「私は面倒くさい女です。先輩に依存してしまうくらい精神的に危ない女です」
後輩ちゃんの声が弱々しくなる。よく見ると手も震えている。
「すみません。でも、時々急に不安になるときがあるんです」
俺は震えている後輩ちゃんの手を優しく握った。後輩ちゃんの手が細くて冷たい気がした。
「安心しろ。キスするときは、後輩ちゃんが気絶するくらい沢山キスして沢山好きって言ってやる。不安になったら所かまわず俺に抱きつけ。この前の体育祭みたいに」
ちょっと揶揄う感じで言ったら、後輩ちゃんの手に温もりが戻った。
もう震えていない。
後輩ちゃんが俺の耳元で囁いた。
「今のは告白って捉えてもいいですか?」
「あっ! 今のは無し! 違うからな!」
焦っている俺を見て後輩ちゃんがクスクスと笑い始める。
よかった。後輩ちゃんは何とか安定したみたいだ。後輩ちゃんが不安になる原因は俺がヘタレているせいでもある。
早く告白したほうがいいのか?
「先輩。私は面倒くさい女です。私の精神の安定のために告白しようとしないでくださいね。前にも言った通り、本当に好きで好きで堪らなくなった時に好きって言ってください」
「なぜ心を読む?」
「先輩の顔に全部書いてあります」
今の後輩ちゃんは俺の横顔しか見えないはずなんだけどなぁ。頬をくっつけたままなので横顔もほとんど見えないはずだ。
なのに俺の考えがわかるなんて後輩ちゃんは超能力者か?
「先輩、
後輩ちゃんが優しく囁いてきた。
「○○ってなんだ?」
「『さ行のう段』と『か行のい段』が言えないので○○と表現してみました。早くこの二つの文字を言わせてください。というか、私に沢山囁いてください」
「もう少ししたらな。じゃあ、俺は○○○だぞ」
「○○○ですか?」
「○○の最初に”大”という文字が付く」
「そうですかそうですか。先輩は私のことが○○○ですか!」
後輩ちゃんが嬉しそうに俺に頬ずりし、身体を弾ませ胸を押し付けてくる。
後輩ちゃんは超ご機嫌だ。
「ごめんな。もう少し待っててくれ」
「私のほうこそごめんなさい。先輩は先輩のペースでいいですよ。私はゆっくりとお待ちしてますね。時々こうして甘えます」
「時々?」
「………………頻繁です」
「頻繁ねぇ」
「…………ほぼ毎日です! ほぼ毎日甘えてますよ! 何か文句ありますか!?」
「いえいえ。文句ありませんよ」
後輩ちゃんが俺の身体を後ろから優しく抱きしめている。
俺も後輩ちゃんの温もりを感じながら手を優しく握っている。
最近はほぼ毎日後輩ちゃんの温もりを感じている。この温もりが恥ずかしくて嬉しくて心地よくて愛おしい。このままずっと離したくない。
テスト勉強をしていたはずなのに、いつの間にか抱きしめられている。
どうしてこうなったのだろう? まあいいか。もうしばらくだけこのままでいよう。
「先輩……○○ですよ」
「俺も○○だよ」
俺たちはしばらく、抱きしめたり、抱きしめられたりした。
この日を境に、俺たちはよく○○や○○〇と言うようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます