第27話 看病してくれた後輩ちゃん

 

 俺はすっきり目が覚めた。


 昨日の熱の辛さはない。まだ鼻が詰まってと咳き込む感じはあるけど熱はなさそうだ。汗を掻いた不快な感じもない。


 俺はもう少し惰眠を貪ろうと、いい香りがする抱き枕を抱きしめる。


 抱き枕と目が合った。


 パッチリ二重の大きな瞳が心配をそうに俺の様子を伺っている。



「コホッコホッ……後輩ちゃんおはよう……ズピ」


「おはようございます先輩。身体の調子はどうですか?」


「熱はなさそうだよ。咳が出て、鼻は詰まってるけど……ズピッ」


「そうですか。安心しました。でも、今日まで休んだほうがいいですね」


「あっ! 学校! コホッコホッ」



 俺はハッとなる。


 昨日は月曜日ということは今日は火曜日。思いっきり学校がある。


 ベッドのわきに置いてある時計を確認すると午前8時を過ぎている。


 今から急いで準備をしても遅刻するだろう。


 って後輩ちゃんは学校行かなくていいのか!?



「そんなに驚かなくてもいいですよ。もう既に学校には連絡済みです。私も看病ということで休みました」


「はぁっ!?」


「先生方も笑って許可してくださいました」



 だろうな。あの学校は自由なところがあるから。


 自由なのに出席日数だけには厳しいんだよな。テストで赤点とっても合格するまで追試をするのに。


 なんで出席日数だけ厳しいのだろうか?



「はーいせんぱーい! お熱を測りますよー!」



 後輩ちゃんがもぞもぞと俺の腕の中で動いている。


 後輩ちゃんはパジャマではなかった。ずっと前に起きて俺の様子を見てくれていたのだろう。


 後輩ちゃんから体温計を受け取ろうと思っていたら、何故か後輩ちゃんの顔が目の前にある。


 おでことおでこがくっついていて、後輩ちゃんの甘い吐息が俺の顔にかかる。


 後輩ちゃんの息はミントの香りがした。



「ふむ。熱はなさそうですね。あっ…熱が上がってきました。まだ風邪ひいているんじゃないですか?」



 いや、それは風邪のせいではない。キスしそうなほど超至近距離で見つめてくる後輩ちゃんのせいだ。



「こここここここ後輩ちゃん!?」


「はい。可愛い可愛い後輩ちゃんです」


「何やってんの!?」


「お熱を測っています」


「体温計は!?」


「ありますよ」



 後輩ちゃんがスッと手を動かして、手に取った体温計を見せてくる。


 なんで体温計を使わなかった!? いや、とっても嬉しいけど!


 あっ寝起きの俺、口臭くないかな?



「いやーカップルの看病イベントではこれが定番じゃないですか。おでこで熱を測るシーン。よく風邪を引いた彼女に彼氏がするんですが、今回は逆でしたね。流石乙女先輩。昨日もしたかったんですが、先輩が辛そうなので止めました。でも、今ならしてもいいかなぁって。どうでした? ご感想は?」


「………………滅茶苦茶嬉しくて恥ずかしくて体が熱いです」


「ふふふ。そうですかそうですか。熱が引いたら体温計でしっかり測りましょうね」



 後輩ちゃんの顔も赤いけど俺は指摘しないことにした。


 それで、いつまでこの体勢でいるのだろうか? なかなかおでこを離してくれない。


 おでこをくっつけたまま後輩ちゃんが聞いてくる。



「先輩。食欲あります?」


「あるな。物凄くおなか減った」



 今にもお腹がグルグルと言いそうなくらいお腹が減っている。


 昨日はお昼ご飯を食べた記憶はあるけど、晩御飯を食べた記憶はないな。


 やっと後輩ちゃんの顔が離れた。



「レトルトのお粥があるので作りますね。今日は卵粥です! ご飯の前にシャワーでも浴びます? 昨日結構汗かいていましたよ。それとも身体を拭きますか? また私がお手伝いしてもいいですよ」


「コホッコホッ。あぁーシャワー浴びようかな………………ちょっと待て。今また手伝いしようかって言ったよな? またってなんだ!? 俺、いつの間にかパジャマが変わってるし! もしかして後輩ちゃん……ズピッ」



 恐る恐る後輩ちゃんを見ると、何かこう、肉食獣が舌なめずりをするようにチロリと唇を舐めた。とても艶美な雰囲気でゾクゾクする。



「ふふふ……先輩の身体はご立派でした、と言っておきましょうか」


「えっ…?」


「ふふふ……嘘ですよ。嘘ですけど。先輩が勝手に脱ぎ始めたからびっくりしちゃいましたよ。もしかして記憶がないんですか?」



 後輩ちゃんが何かを恐れるように俺に聞いてくる。


 ん? 今ちょっと後輩ちゃんの言葉がおかしかったような気がするけど。


 嘘の嘘?


 まあいいや。熱が出てた俺は何かしたのか? もしかして、ズボンを後輩ちゃんの前でズリ下げたとか? いやいやまさかな! そんなことしたら………後輩ちゃんは気絶するよな? 大丈夫だったか?



「覚えてないな。昼ご飯を食べたことは覚えているんだけど、その先は全く」



 後輩ちゃんがホッと安心している。


 えっ? 本当に何したの? 俺がしたの? それとも後輩ちゃんがしたの? 怖いんだけど!



「では、シャワーを浴びてきてくださいね。もし私に洗ってほしかったら遠慮なく言ってください。私の身体を使って身体の隅々まで丁寧にじっくりねっとりと洗ってあげます」



 後輩ちゃんが大人っぽい妖艶な表情でウィンクしてくる。



「ズピッ………………いつかな」



 俺も男だ。断ることなどできない。でも、今すぐは無理だ。だから保留する。



「いつでもお待ちしていますよ。先輩が私を洗ってもいいですから!」



 そう言うと、後輩ちゃんがベッドから降りて、寝室を出てキッチンに向かった。


 後輩ちゃんは耳まで赤くなっていたのは見なかったことにする。


 まったく! 病み上がりにそんな誘惑するな! 熱が上がるだろうが!


 俺の体調が万全だったら危なかったかもなぁ。それくらいさっきの後輩ちゃんは魅力的だった。


 俺は、はぁ、と深く呼吸した。


 ベッドから後輩ちゃんの強い香りがする。とても安心する良い香りだ。


 俺はようやく寝室の様子を確認した。



「ん? この滅茶苦茶適当に床に投げ捨てられている布団とシーツは? もしかして俺の? じゃあこれは?」



 クンクンと嗅いでみると後輩ちゃんの匂いしかしない。


 これは後輩ちゃんの布団か。汗を掻いたらしいから、後輩ちゃんのベッドから持って来てくれたのか。


 おかげで後輩ちゃんに包まれているみたいでよく寝られました。まあ、本当に後輩ちゃんを抱きしめて寝ていたみたいだけど。


 俺は現実逃避を諦めて部屋の現状を直視する。


 タオルが何枚か床に放置され、俺のタンスは泥棒にあったみたいに滅茶苦茶。特にパンツのところが酷い気がするのは気のせいか? 空のスポーツドリンクのペットボトルも置いてある。


 いやちょっと待て! なんか勉強机の引き出しまで漁られた感じがあるんだけど!


 まあ、後輩ちゃんに隠すようなものはないからいいか。


 漁られたタンスから着替えを取り出すと、俺は決意した。


 ご飯食べたら掃除をしよう! そして頑張ってくれた後輩ちゃんを可愛がろう!

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