第25話 看病イベントと先輩
「ヘックショーン! ズズズ」
「ヘクチ! ズピ」
体育祭が終わった一週間後の夜、私たちは同時にくしゃみをした。そして、鼻をすする。
大きな音で格好悪いくしゃみと可愛らしいくしゃみ。
私の身体がフルフルと震えだす。理不尽だ。理不尽すぎる。
「どうした後輩ちゃん? 体調悪いのか? 身体が震えてるぞ」
「違います。世の中の理不尽について怒っているだけです」
「なんだそれ」
どうでもいいような先輩の態度で私の怒りが頂点に達する。
私は先輩をキッと睨みつけた。
「理不尽です! どうして先輩のくしゃみが可愛いんですか! 何ですか”ヘクチ”って! ”ヘクチ”って何ですかぁ! 女の子よりも可愛いくしゃみじゃないですか! それに鼻をすする音が”ズピ”ですか!? なんで可愛いんですかぁ! 理不尽ですよ乙女先輩!」
「そう言われても……って乙女先輩ってなんだよ!」
「私よりも乙女じゃないですか! 私よりも先輩のほうがヒロインに向いています!」
「そう言われても……ハクチ! ズピ」
先輩がまた可愛らしいくしゃみをした。理不尽だ。理不尽すぎる。
今度は”ハクチ”ですか。そうですかそうですか。女の子に喧嘩を売っていますね。
「風邪でも引いたかな?」
「昨日私と一晩中激しい運動をしていたからですよ」
「そうだな。激しく携帯ゲーム機で遊んでいたからだな」
「私はベッドの上で夜の運動会でもいいんですよ?」
私が誘うように先輩を誘惑するけど、先輩は全く表情を変えずに私の頭にチョップしてきた。
「変なこと言ってないでさっさと寝るか」
「チッ! そうですね。さっさと寝ましょう」
私と先輩は一緒にベッドに向かう。そう。私たちは一緒に寝ているのだ!
先輩は何もしてこないけど。
このヘタレ! 本当に襲ってやろうかな。
結局私は何もせず、先輩に抱きついて眠った。
▼▼▼
翌朝。思いっきり風邪を引いた………………先輩が。
喉は痛み、熱が出て、声を出すのも辛そうだ。
隣で寝ていた私はピンピンしている。
「すまんごうはいぢゃん………………ご飯作れそうにない。ズピッ」
風邪で辛いはずなのに私の心配をしてくれる。先輩はとても優しい。
「気にしないでください。適当に済ませますよ。今日は学校を休まないとだめですね」
今日は月曜日なのだ。先輩が休むなら私も休もうっと。先輩の看病をしないといけないからね。
「流石乙女の先輩。ヒロインが風邪をひく場面なのに先輩が風邪をひくとは。私が治るまで看病してあげましょう!」
何故か先輩の顔が真っ青になる。
これって風邪の影響じゃないよね? 何で嫌そうな顔なの? 取り敢えず、聞いてみよう。
「なんで嫌そうなんですか?」
「ズピッ…だっでごうはいぢゃん…家事能力皆無だから…ズピッ」
「失礼な! 私だってやるときはやるんです!」
先輩に体温計を渡して体温を測ってもらう。38.3度か。少し熱が高い。インフルじゃないよね?
取り敢えず氷枕を用意して、冷却ジェルシートを先輩のおでこにペチッと貼る。
「よし! 先輩は食欲ありますか?」
「ズピッ……ないです」
「わかりました。先輩は大人しく寝てください」
私が先輩の頭を撫でていたら、あっさりと寝ちゃった。ここまで寝つきがいいとは……。
この隙に学校に連絡して、お買い物を済ませないと!
▼▼▼
~お買い物~
▼▼▼
急いでお買い物を終わらせてきた。
買ったのはプリンやゼリー、スポーツドリンクなどなど。
ついでに私の三回の食事も。これで準備万端!
掃除洗濯などいつも先輩がしていることを当然私はしない! したら先輩に迷惑をかけるから! だから大人しく先輩の様子を眺めるだけにする。
先輩の汗を拭ったり、氷枕を変えたり、時々起きる先輩をトイレに付き添ったりした。当然トイレの中には入らない。ドアの前で待機するだけ。
あっという間にお昼を過ぎた。
先輩の寝顔は辛そうだけど見ていて飽きない。ずっと眺めていた。
寝ていた先輩が目を開ける。
「………後輩ちゃん?」
「おはようございます先輩。可愛い可愛い後輩ちゃんですよ」
「……そうだな」
「あら? 先輩が否定しません。まだ熱がありますね。はいはーい。お熱を測りますよ~!」
ふむふむ。37.8度。少し下がったみたい。でもまだ熱がある。
「先輩。食欲ありますか?」
「………少し」
「お粥食べます?」
「………………食べたいけど、後輩ちゃん作れるの?」
「まっかせてください! ちょっと待っててくださいね」
私はお粥を作るためにキッチンに向かった。すぐに出来上がり、先輩に届ける。
私が近づくたびに先輩の顔が強張っていく。
「はいどーぞ」
ゴクリと先輩が喉を鳴らして恐る恐る私の持ってきたお粥を見る。そして、驚きで目を見開く。
「なっ! なんだとっ! 見た目が普通のお粥だと! 後輩ちゃんが料理できるはずがない! いや待て。こういう場合は見た目は美味しそうでも不味いはず……」
「失礼ですね。自分で食べないなら私があ~んしてあげます。それとも口移しがいいですか?」
「………………あ~んでお願いします」
ふむ。今結構悩みましたね。いつか口移しをやってみようかな。
私は先輩の要望通りにあ~んしてあげる。お粥を一口食べた先輩は驚愕する。
だからなんでそんなに驚くのですか!
「………美味しい。後輩ちゃんが作った料理が美味しいだと!? これは夢だな」
「本当に失礼な人ですね。私でもレンジは使えるんですから!」
「………レンジ?」
「はい。レトルトのお粥です。レンジでチンすると完成するお粥です。最後に冷蔵庫の中にあった梅干しを乗せればこの通り!」
いやぁ便利ですね電子レンジ。私は何とか使うことができる。
先輩が、私とお粥を何度も何度も交互に見て、納得の表情を浮かべる。
「なるほど! あぁ~安心した」
「もう! 料理の腕は私が一番わかっているんですからしませんよ。一人で料理したら火事になります! 爆発します!」
私は胸を張って自慢げに言った。私は家事が一切できないのだ! どやぁ。
目玉焼きが紫色になったり、ゆで卵が緑色になるのはなぜでしょうね。ただ焼いたり茹でたりするだけなのに。
Let's poison cooking!
「……自慢するところじゃないと思うぞ」
ジト目を向ける先輩を輝く笑顔で華麗に躱す。
いいんですよ。料理は先輩にお願いしてるから。私はもう諦めてる。
先輩はお粥を三分の一とプリンを半分、スポーツドリンクを飲んで横になった。
「………ありがとな葉月」
「いいんですよ。たまにはゆっくりしてください。先週も私は先輩に助けられたので。私のほうこそいつもありがとうございます」
私は前に先輩にされたように、先輩のおでこに優しくキスをした。先輩の身体が真っ赤になる。熱が上がったみたい。
あたふたと恥ずかしそうに慌てている先輩は物凄く可愛かった。
ちなみに、試しに体温を測ったら39度を超えていた。
先輩、熱を上げちゃってごめんなさい。でも、可愛かったですよ♡
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