第21話 自棄になった後輩ちゃん

 

 ゴールデンウィークがあっという間に終わってしまった。


 俺は連休がトラウマになった。


 なんでホラー映画を観るんだよ! この世からホラー映画なんて消えろ!


  あの後も後輩ちゃんが時々ホラー映画を混ぜてきたし。後輩ちゃんなんか嫌いだ! 冗談ですけど。


 そういえば夜は後輩ちゃんを抱き枕にして寝てたなぁ。温かくて、いい香りがして、とても柔らかくて……これ以上考えるの止めよう。


 俺は学校が終わり、自室で制服を着替えている。


 今日は裕也が用事があるらしく車で迎えに来ていて、俺も乗せてもらったのだ。だから今日は帰りが後輩ちゃんよりも早い。


 シャツのボタンを外していたら玄関のドアが開く音がした。パタパタと走る音がする。


 後輩ちゃんが帰ってきたのか。


 シャツを脱ぎながら考えていると、寝室のドアが勢いよく開いた。そして、後輩ちゃんが勢いよく入ってくる。



「先輩のベッドにダ~イブッ!」



 制服姿の後輩ちゃんが俺のベッドにダイブした。そして、顔を俺の枕に埋めている。顔をこすりつけて匂いを嗅いでいる。臭くないのか?


 俺は驚きで固まっていた。現実逃避で考え事をする。


 そういえば、よくベッドから後輩ちゃんの香りがしていたけどこういう事なのか。だから後輩ちゃんは教室から一番に飛び出して帰っていたのか。



「あぁ~先輩の香りがする~! いい香り! 毎日これが楽しみです~!」



 後輩ちゃんが俺のベッドに潜っていく。


 そして、寝返りを打った後輩ちゃんと目が合った。



「あれ?」


「よ、よう後輩ちゃん。おかえり」


「ただいまです」


「早かったな」


「先輩こそ早いですね………………はぁっ!? 先輩!? 何で!? 何で先輩がいるんですか!? 私、一番に教室を出て直帰しましたよ!」



 俺に気づいた後輩ちゃんがカッと目を見開いた。


 俺は気まずくて後輩ちゃんから目を逸らす。



「裕也の家の車に乗せてもらった」


「そうですか。あの、えっと先輩? 全部見てました?」



 恐る恐る聞いてきた後輩ちゃんの質問に目を逸らしたまま頷いた。


 後輩ちゃんが、うぅ~うぅ~、と唸り始める。



「こ、後輩ちゃん? 俺はいいと思うぞ。俺もしたくなる時があるし」


「先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた先輩に見られた」



 後輩ちゃんが壊れた。目が虚ろのまま息継ぎなしでブツブツと呟いている。


 ちょっと怖い。



「後輩ちゃん?」



 俺が声をかけると壊れた後輩ちゃんが元に戻った。恥ずかしそうに顔を赤らめながら何かを覚悟した表情になる。そして、ガバっと布団を蹴り飛ばした。



「さあ先輩! 私を煮るなり焼くなり犯すなり好きにしてください!」



 いやいや。俺は後輩ちゃんを煮るつもりも焼くつもりもないから。特に三番目のやつは一番ないでしょ。


 後輩ちゃんが堂々と大の字で寝ている。



「さあ! 犯してください!」


「いやいやいやいや! そんなことしないから! あと後輩ちゃん。スカートが全開してるぞ」



 後輩ちゃんのスカートが捲れ上がり、白い肉付きのいい太ももと白い下着が見えている。


 眼福です。艶めかしくて扇情的な光景に興奮してしまいます。


 後輩ちゃんが勢いよくスカートを直して、顔を赤くして目に涙を浮かべて睨みつけてくる。



「見ました?」


「いや……」



 はい。がっつり見ました。俺の脳内に永久保存されました。



「絶対見ましたよね!? 私のピンクの下着!」


「白だろ…………あっ!」



 ベタな問いかけに引っかかってしまった。


 後輩ちゃんが、むぅ~、と唸り声を上げている。



「先輩……ハンムラビ法典って知ってますか?」


「知ってるけど」



 バビロン第一王朝のハンムラビ王が発布したのだったと思うけど。『目には目を歯には歯を』で有名なヤツ。世界史で勉強した。


 でも、なんで突然ハンムラビ法典?



「そうですか。目には目を歯には歯を、パンツにはパンツを」



 後輩ちゃんがゆらりと起き上がる。前髪で後輩ちゃんの目が見えなくて怖い。


 いや、パンツにはパンツをってなんだよ!



「私の下着を見られたからには先輩のも見させていただきます!」



 後輩ちゃんが飛び掛かってきた。俺のズボンを脱がそうとしてくる。俺は制服を着替えている途中だったためベルトも外してある。


 俺は必死に抵抗する。



「こら後輩ちゃん止めろ!」


「嫌です! 見られたから先輩のも見させてもらいます!」


「やめろ! 痴女に! 痴女に襲われるぅ~!」


「痴女って失礼な! 私は処女です! ヴァージンです! 生娘です!」


「い~やぁ~!」


「むふふふふ。よいではないか~よいではないか~!」


「あ~れ~ってならないからな!」


「チッ! ほら早く脱いでください!」


「後輩ちゃん! 今は、今は本当にまずいから! 今だけは止めて!」



 本当に今だけは止めて欲しい。今はバレていないけれど、ズボンを脱がされたらバレてしまう。


 今俺は、さっきの後輩ちゃんの姿を見て興奮してしまっているのだ。



「ほら先輩手が邪魔です!」


「後輩ちゃん今は止めて! あぁっ…!」



 俺は後輩ちゃんにズボンを脱がされてしまった。



「ほうほう。黒のボクサーパンツ………………あれ? これって?」



 後輩ちゃんの目の前のボクサーパンツにテントが張っている。


 見られた。後輩ちゃんに見られた。あと数分したら落ち着いたのに。


 もう死にたい…………。



「えっ? あれっ? 先輩? これって…」



 後輩ちゃんが俺のパンツと顔を交互に見てくる。


 そして―――



「ひゃっ!?」  バタリ!



 徐々に理解して真っ赤になっていった後輩ちゃんは限界を迎えてパタリと気絶した。


 俺はしばらく動くことが出来なかった。落ち着いた俺は何とか気を取り直して、気絶した後輩ちゃんを俺のベッドで寝かせた。


 その後、起きてきた後輩ちゃんと俺の間にとても気まずい雰囲気が流れていた。


 俺はもう吹っ切れたけど後輩ちゃんが顔を赤くしてよそよそしかった。でも、俺のことをよく見てきた。


 俺は後輩ちゃんに一言言いたかったことがある。


 後輩ちゃん…俺の股間を凝視するのは止めてください。

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