第20話 ホラー映画と可愛い先輩

 

 夜。映画鑑賞の準備が整った。飲み物や軽食も準備してある。


「いやー楽しみだな! なぁ颯?」


 鈴木田先輩が先輩の肩を抱いてニコッと笑っている。先輩は嫌そうにその手を振り払った。


「なんでお前がいるんだ!」


「なんでって呼ばれたから。なあ楓ちゃん? ぐほっ!」


 楓ちゃんが鈴木田先輩の鳩尾に拳を叩きこんだ。捻りが加わっている。身体が折れ曲がった鈴木田先輩の後ろに楓ちゃんが素早く回り、コブラツイストを仕掛ける。


「だってお母さんにはお父さんがいるし、お兄ちゃんには葉月ちゃんがいるから、私だけ寂しいなぁって。だから呼んじゃいました。ユウくんもお泊りだよ」


 楓ちゃんがニッコリ笑って先輩に説明している。鈴木田先輩は悲鳴が出ないほど痛いらしい。ギブアップをアピールしているが、楓ちゃんは無視している。


「まあ、言いたいことは分かったけど……ギブアップを要求してるぞ」


「ん? 何のこと?」


「う、うわぁ。裕也ご愁傷様」


 にこやかな楓ちゃんの笑みに先輩が引いている。鈴木田先輩の顔が青くなってきた。私も少し手助けしようかな。


「楓ちゃん、もう少し体重を後ろにかけたほうがいいよ」


「こう?」


「そうそう」


 楓ちゃんが少し体重を後ろにかけたことで完璧なコブラツイストになった。鈴木田先輩の顔が真っ白になる。少しだけ嬉しそうなのは気のせいかな? そして、先輩が私をドン引きした目で見てくる。


「後輩ちゃん……なんてことを」


「おかしなこと言いました? これで完璧なコブラツイストです。ほら鈴木田先輩も嬉しそうですよ?」


 鈴木田先輩の顔は白いけど、とても嬉しそうな顔をしている。新たな扉が開いてしまったのかな? まあ、楓ちゃんと鈴木田先輩のこのやり取りはいつも通りだから気にしなくていいか。

 先輩が鈴木田先輩に祈るように手を合わせて、テレビの前に移動した。私も先輩についていく。

 ソファには先輩のお父さんとお母さんが仲睦まじく座っていた。手を繋いだりしてイチャイチャしてる。いいなぁ。私もあんな風な夫婦になりたい。


「楓ちゃんたちは?」


「イチャイチャしてる。母さんと父さんはいつも仲いいな」


「いえーい!」


 小学生にも見える先輩のお母さんがピースしている。先輩が呆れてソファに座った。私も勇気を出して先輩の膝の上に座った。


「こ、後輩ちゃん!?」


「きょ、今日はこうしたい気分なのです! い、嫌ですか?」


「嫌じゃないけど」


 よかった。嫌って言われたら少しショックだったかも。先輩がおずおずと私のお腹に手をまわしてきた。私のお腹を撫でたり、ふにふにと触ってくる。先輩はお腹が好きなのかな? このまま先輩の手を服の中に導いたらどんな反応するかな? 今は……無理! 今度してみよう。

 私がいろいろ悩んでいたら楓ちゃんと何事もなかったかのように復活した鈴木田先輩がソファに座った。先輩が、復活はやっ、と呟いたのが聞こえた。


「じゃあつけるよ」


 楓ちゃんが操作してDVDが再生し始めた。

 わくわく! 先輩はどんな反応するのかなぁ! わざわざ逃げられないように先輩の膝の上に乗ったのだ。ふふふ。楽しみだなぁ。

 オープニングはいかにも恋愛映画って感じ。カップルがイチャイチャしてる。

 先輩が気を緩めてる。そして突然……


「きゃーーーーーーーーーーー!」


 カップルが襲われる。定番だよね。そして当然……


「きゃーーーーーーーーーーー!」


 女の子のように可愛らしい悲鳴を上げる先輩。あぁ…可愛い。混乱している先輩がキョロキョロと私たちの顔を見渡してくる。私たちは全員先輩の反応を楽しんでいる。私は当然スマホで録画している。


「えっ? えっ? なにこれ? え? あれっ?」


「ふふふふふ」


 私は笑い声が抑えられない。逃げないように先輩の手をギュッと握る。顔を真っ青にした先輩が涙を浮かべている。


「こ、こここここ後輩ちゃん!? ま、まさかこれは……………」


「はい! ホラー映画です!」


 今の私は最っ高に輝いた笑顔を浮かべているんだろうな。先輩の顔が真っ白になった。そして、逃げ出そうとするが私が膝の上に乗ってるし、手を掴んでいるため逃げられない。


「こ、後輩ちゃん離せ! 俺は部屋に戻る!」


「………先輩…本当にいいんですか?」


 恐る恐る言った私の声を聞いて先輩の動きが止まった。楓ちゃんと鈴木田先輩が私を援護してくれる。


「お兄ちゃんいいの? こういう時って出るよ」


「一人のやつが真っ先に狙われるよな。颯頑張れよ~」


 二人の言葉を聞いて先輩が私をぎゅうっと抱きしめてくる。私の肩のあたりに顔を押し付けてきた。先輩の熱い息を洋服越しに感じる。

 その時、テレビの画面から大きな音と悲鳴が上がった。その音に驚いて先輩が悲鳴を上げる。


「いやぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!」


「はぁん……先輩可愛すぎ……私癖になりそうです……」


 先輩がガクガクと震えている。あぁ…可愛い。先輩可愛すぎ。でも、顔が見れないのが残念だ。


「ここここここここここ後輩ちゃん。ちょっとどいて! 逃げないから!」


 私は渋々先輩の脚の上からどいた。先輩の横に座った瞬間、先輩が倒れ込んできて私の太ももに顔を押し付けてきた。


「ひゃぅっ!」


 え? うそ!? いきなり! いきなりですか!? みんながいるのに!? 

 私は慌てたけど、ただ怖がった先輩が顔を押し付けてきただけだった。耳を必死で押さえている。さっきは私を抱きしめていたから耳を塞げなかったみたい。

 私はスマホで怖がる先輩の写真を撮った。そして、先輩の頭を優しく撫でる。


「本当に先輩は可愛いんだから」


 ガクガクと震えて私の太ももに顔を押し付けている。今日は薄い服を着ているから先輩の息がくすぐったい。場所が場所だから。あれ? もしかして、私のあんなところの匂いが先輩に………? 恥ずかしい、恥ずかしいけど先輩はそんな余裕ないんだろうなぁ。私ちょっとガッカリです。

 ちょっと複雑な気持ちになった私は先輩に悪戯をすることでいろいろと発散しました。背中や首を触るたびに先輩が悲鳴を上げながら私の太ももにグリグリと顔を押し付けてきた。いろいろな意味でちょっと気持ちよかったです。

 先輩は映画終わるまでずっと私の太ももで顔を隠していました。おかげで私の太もものところが先輩の息で湿っていました。私は先輩の息でちょっと変な気持ちになりました。

 映画が終わった後も先輩は私から離れようとしませんでした。寝る準備を終えてから先輩がベッドに入ると、ベッドの横をポンポンと叩いた。


「なんですか?」


「一緒に寝る」


 ちょっと幼児退行した先輩がベッドをポンポン叩き続ける。えっ! 本当にいいの!

 私は緊張しながら先輩のベッドに入り込むと先輩が抱きついてきた。そして、そのまま私は待っていたけど、そういう事は一切来なかった。しばらくしたら、すうすうと先輩の寝息が聞こえてきた。


「えぇー何にもなしですか……」


 安心したようなガッカリしたような複雑な気持ちになる。少し期待していたけれど、今日のところは可愛い先輩に免じて許してやろう。

 そして夜中、トイレに行きたくなった先輩が私を起こした。怖いから一緒について来てほしかったらしい。幼児退行した先輩が涙目でおねだりしてきた。可愛かったから許す! 可愛い先輩を見て一瞬で眠気が吹き飛んでしまった。

 先輩とトイレに向かった時、廊下で女性二人の嬌声が聞こえたのは気のせいだろうか?

 私たちはお互いに抱きしめ合いながら再び眠った。明日は先輩と愛し合えますように。


 しかし、連休中先輩は夜を怖がり、一切そういう事はしなかった。

 先輩のヘタレ!

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