第13話 買い物デートと後輩ちゃん
俺は今、後輩ちゃんと買い物デートしている。
と言っても、ただの日用品や食料品を買いに来ただけだ。意外とすぐになくなる。
特に四月から後輩ちゃんが引っ越してきて、ほとんど二人暮らしになったら消耗が早い。二人分の量がまだよくわからない。
「ふんふふふーん♪」
後輩ちゃんがご機嫌そうに鼻歌を歌って俺の腕に抱きついている。
後輩ちゃんの柔らかな胸の膨らみが俺の腕に当たっている。お年頃の俺はそのことを黙って密かに楽しんでいる。
「後輩ちゃん、楽しそうだな」
「ふふふ。楽しいですよ。先輩が一緒ですからね!」
不意打ちは止めて欲しい。後輩ちゃんの笑顔が可愛くてドキッとしたじゃないか!
自分の発言に気づいた後輩ちゃんが恥ずかしがっている姿も可愛い。俺の好きな人はどれだけ俺を惚れさせれば気が済むのだろうか?
俺たちはお互いを意識しながら買い物を続けていく。
「ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ………ちょっと多くないですか?」
俺がかごに入れた野菜を見て後輩ちゃんが聞いてきた。
「そうか? 肉じゃがのあとにカレーにしようかなって」
「なるほど! 納得です!」
「おっ! レタスが安い。ベビーリーフも。サラダにするか」
俺はレタスとベビーリーフの状態の良いやつをかごに入れる。後輩ちゃんがいるから食べ物にも気をつけないと。
「果物はどうする?」
「りんご食べたいです!」
「了解」
りんごもかごに入れながら進んでいく。
次はお肉だ。鶏肉、豚肉、牛肉などたくさんのお肉が並んでいる。よく見れば羊肉もある。部位も様々。
今回の目当ては牛肉だ。
「お肉は……」
「ちょっと高い国産? それとも安い海外産ですか?」
「国産かな? やっぱり食べるなら美味しいほうがいいだろ?」
「そうですね。それに食事は大切ですからね。まあ、海外産も美味しいですけど」
後輩ちゃんが状態のいい牛肉を手に取って俺の持っているかごに入れた。
後は冷食をいくつかと最後に後輩ちゃんに必要なものだ。それはレジに近いから最後でいいだろう。
俺たちが冷食コーナーへ向かっていると、パチンという弾けるような何かが切れた音がした。
音がしたほうを見ると、後輩ちゃんの一つに纏められていたセミロングの黒髪がファサッと広がった。
「あっ! 髪ゴムが切れちゃいました。しょうがないですね」
「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。ここにゴムってあります? 髪ゴムってすぐに切れちゃうんですよね。もう残り少ないです」
「後で見てみるか」
俺は後輩ちゃんの髪に視線を吸いよせられながら買い物を続けていく。
なんで髪型が違うだけで雰囲気が変わって見えるんだろう。髪を一つに纏めている後輩ちゃんは元気な感じがする。そして、髪を下ろしている後輩ちゃんは清楚で大人っぽく感じる。
髪が結ばれていたことで少しクルンとしているところがまたいい! いつもより綺麗だ。
俺が見惚れていたら後輩ちゃんが視線に気づいた。可愛らしく首をかしげている。
「先輩どうかしましたか? 私の顔に何かついてます?」
「いや、何でもないぞ! 少し考えごとをとしていただけだ」
「そうですか」
後輩ちゃんが俺の心の中に気づかなかった。バレたかと思った。俺はホッとしながら買い物を続ける。
冷凍食品も選び終わった。後は最後の後輩ちゃんに必要な物だけだ。ぶっちゃけると女性の生理用品。俺はよくわからないから後輩ちゃんのあとに続く。
「へぇーたくさんあるんだな」
俺はかごを持ちながらキョロキョロとする。全く寄ったことがないから新鮮だ。
「そうですよ。昼用と夜用もありますし、吸収力や肌ざわりなどメーカーによっても違いますからね。私はこれとこれです」
後輩ちゃんがいくつか手にとってかごに入れた。よし。覚えておこう。後輩ちゃんが買えないときは俺が買わないといけないからな。恥ずかしいけど。
「意外と多いな」
「そりゃ先輩の家にも置きますから。いちいち自分の家に戻るなんて嫌ですよ」
「それもそうだな」
後輩ちゃんが俺の腕をとる。そして引っ張られる。
「次はゴムを見に行きましょう!」
そして連れていかれたのは近くのコーナー。カラフルな箱が並んだりしている。明らかに髪ゴムがあるようなコーナーではない。
「ゴムって避妊具かよっ!」
俺のツッコミに後輩ちゃんが恥ずかしそうに視線を逸らす。
「ま、まぁ、私も興味ありましたし……恥ずかしいですけど、一人よりは二人のほうが恥ずかしさが軽減されるかなぁっと………」
「あんまり変わらないと思うが……というか後輩ちゃんと来ると気まずいんだが……」
「い、いいじゃないですか! 大切なことなので」
顔を赤くしながら後輩ちゃんが棚を見ている。まあ、俺も初めてこのコーナーに来たから興味はある。
へー、沢山種類があるんだな。ローション付き? ゴムの匂い軽減? 使用期限も結構長い。他にも精力剤やローションまで売ってある。
「せ、先輩………一応買っときます?」
「お、おう。使用期限も長いからな………念のため買うだけ買っとくか」
念のため、そう、念のためだ。肉食系の誰かさんにいつ襲われてもいいように買っておくだけだ。それにいざという時の勉強用だ。練習しとかないと使えないからな。
俺はいろいろ言い訳しながら確認して、かごに入れた。
後輩ちゃんと一緒に選んで買うとかめちゃくちゃ恥ずかしい!
そして何故か、後輩ちゃんが同じ箱をもう一つかごに入れた。
「こ、後輩ちゃん!?」
「こ、これは私の分です。お勉強しとかないと、いざという時に使えないじゃないですか! 何か文句あります!?」
後輩ちゃんが自棄になっている。後輩ちゃんの謎の圧力に気圧された俺はブンブンと首を横に振る。文句なんかあるわけがない。
「さ、さぁ! レジへ向かいましょう!」
顔が赤い後輩ちゃんは俺の腕を掴んで強く引っ張っていく。俺は大人しく従った。
絶対俺の顔も赤くなっているだろうな。
レジでは若いアルバイトの女性とパートのおばちゃんがいた。運よくおばちゃんのほうでレジができた。
おばちゃんが商品のバーコードをピッとしながら俺たちを見て笑いかけてくる。
「あらあら! 仲が良いわね! 新婚さん?」
いやいや。新婚には若すぎるだろ。俺たちまだ高校生なんだが!
「いえいえ。まだですよ。最近同棲し始めたんです」
後輩ちゃんが笑顔で嘘をつく。まだ同棲ではない。半同棲だ。半分だ半分。
パートのおばちゃんが嬉しそうに笑う。
「まぁまぁ! 若いっていいわね」
避妊具の箱を二つ、バーコードを通しながら俺にニヤニヤと笑いかけてくる。
俺は愛想笑いをおばちゃんに返す。めっちゃ恥ずかしい。
「こんな可愛い子を離しちゃダメよ!」
「離すつもりなんてありませんよ」
まぁ!、とおばちゃんが目を丸くする。
俺は自分の言ったことに気づいて思わず後輩ちゃんを見た。後輩ちゃんが顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。顔を俯かせて俺と視線を合わせないようにしている。
こういう時に茶化してくれると少し気が楽なんだが、後輩ちゃんが本気で照れているため余計に恥ずかしくなる。
おばちゃんが俺たちの様子を見て楽しそうに笑っている。
「初々しくていいわね~! 二人とも相手のことを大切にしないとだめよ! いいわね?」
「「………はい」」
俺たちの返事が重なった。俺たちは思わず目を合わせて、恥ずかしさで同時に目を逸らす。
おばちゃんがより一層笑顔になった。
「二人ともお幸せにね!」
お金を払い、レジを離れる際におばちゃんに言われた。俺たちは頷きながらレジを後にする。
気まずい雰囲気が俺たちを包む。
持ってきたエコバックに買ったものを全て入れて帰り始める。
後輩ちゃんが俺の腕に抱きついてくる。
「せ、先輩……家に帰ったら………………」
後輩ちゃんが恥ずかしそうに俺に言ってきた。俺は急激に緊張する。
もしかして……もしかしてなのか………!?
「次はサニタリーボックスを買いに行きましょう!」
「はぁ?」
俺はポカーンとする。
後輩ちゃんがニヤニヤと笑っている。
あれ? もしかして俺、揶揄われた?
「食料品を冷蔵庫に入れてからサニタリーボックスを買いに行きましょう! 買い物デート第二弾です!」
「サニタリーボックス?」
「そうです! 先輩の家のトイレに置いておくやつです。所謂女性に必要なゴミ箱です」
「あ、あぁ! そういう事か! そういえば俺の家にはなかったな」
「私が処理するので先輩は何もしなくていいですよ。置いてあると私が助かります」
「わかった」
女性は大変だなぁ。男の俺にはよくわからないから。同棲すると必要な物がたくさんある。
いや、まだ同棲じゃない。半同棲だ。
それにしても、一瞬期待してしまった。俺は残念なようなホッとしたような複雑な気持ちだ。
「どうしましたかせ~んぱい? 残念そうですよ? 期待しちゃいましたか?」
「う、うるさい!」
「先輩残念でした!」
くそう。後輩ちゃんのニヤニヤ顔がムカつくくらい可愛い。とても生き生きとしている。俺を揶揄っているときの後輩ちゃんは本当に楽しそうだ。
俺が悔しくて顔を背けていると後輩ちゃんが耳元で囁いてきた。
「そういう事は暗くなってからですよ。夜は長いですから」
「えっ!?」
俺が振り向こうとしたら後輩ちゃんが俺の顔を掴んで動かないようにしている。
「私はするよりもされるほうが好みです。いつでもお待ちしていますね」
そして俺の顔は自由になった。後輩ちゃんがどんな顔をしているのか知らない。
俺は恥ずかしくて後輩ちゃんの顔を見れなかったからだ。
俺たちはそのまま無言で歩き続けた。
その後、一旦帰った俺たちは冷蔵庫に買ったものを入れて買い物デート第二弾に行った。
そしてその夜は…………………何もなかった。恥ずかしくて何もできなかった。
次の日の朝ごはんの時に後輩ちゃんにボソッと”ヘタレ”と呟かれた。
いやー、まぁ、その、ね?
ヘタレて申し訳ありませんでした!
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