第11話 からかい上手?の後輩ちゃん

 

 俺は後輩ちゃんの家の大掃除が終わった。後は干してある洗濯物を乾いたら取り込んで畳むだけ。他の掃除は全て終わった。


 ふぅ。綺麗になった。



「先輩! お疲れ様です!」



 俺の家に戻ると後輩ちゃんが笑顔で言ってくれた。


 やっぱり後輩ちゃんの笑顔は可愛い。これだけで大掃除をした甲斐がある。


 そして、お茶を注いでくれた。流石の後輩ちゃんもペットボトルから注ぐことは出来る。



「ありがと後輩ちゃん」



 俺はお茶を飲む。作ったのは俺だけど、後輩ちゃんに注いでもらっただけで美味しく感じるのはなぜだろうか?


 ただ単に掃除で疲れているだけかもしれないが。



「先輩! どうぞ!」



 お茶を飲み終わった俺に後輩ちゃんが言った。何故か太ももをポンポンと叩いている。


 俺はどうしたらいいんだ?



「あの? 後輩ちゃん?」


「掃除が終わった先輩を癒すのが私の仕事です! ほらほら! 膝枕してあげます!」



 ポンポン膝を叩いている。


 膝枕? 後輩ちゃんの太ももを枕にしろと? 確かに憧れるけど、とても恥ずかしいんだが!



「ほら早く!」



 後輩ちゃんが急かすようにポンポン太ももを叩いている。そして、何故かハッとした。そして何故かニヤリと笑った。


 あぁ……これは絶対俺を揶揄ってくるやつだ。



「もしかして先輩は生足がいいんですか? 今日の私はズボンだから嫌なんですか? もう! 早く言ってくださいよ! さ、流石の私もちょっと恥ずかしいですが、仕方ありません。先輩のためです」



 そして、何故かズボンのボタンやチャックに手をかけ始める。俺は猛烈に焦る。



「ちょっと後輩ちゃん! 何やってんの!?」


「え? 先輩のためにズボンを脱ごうかなと。下着になるのは恥ずかしいですが、先輩はそっちのほうがいいんでしょ?」


「いやいやいや! 脱がなくていいから! そのままでいいから! 脱がないでくださいお願いします!」



 俺は土下座する勢いで後輩ちゃんにお願いする。


 後輩ちゃんの下着姿を見たら流石に俺もどうなるかわからない。まだ暗くなっていないのに、あんなことやこんなことをするのはちょっと……。



「ふふふ。顔を真っ赤にして焦る先輩は可愛いです。じゃあ、早く寝てくださいな」



 後輩ちゃんが余裕の表情で太ももをポンポン叩いている。


 くそう。ニヤニヤ笑っている後輩ちゃんの顔が可愛すぎてムカつく。悔しい。今度言われたら脱げって言ってやろうかな。そしたら後輩ちゃんも焦るはず。


 そう考えながら俺は後輩ちゃんの太ももを枕にした。



「おぉ……!」


「どうですか?」


「すげー最高」


「そうですか。よかったです」



 後輩ちゃんが嬉しそうに俺の頭を撫でてくれた。何かとても安心する。


 後輩ちゃんの太ももはとても柔らかかった。そして、温かい。良い香りもする。


 なんで女の子っていい香りがするんだろう? 後輩ちゃんの香りは甘くて落ち着く。リラックス効果がある。思わず頬ずりしたくなる。頬ずりしてしまったけど。



「ふふふ。先輩が子供みたいに甘えてきます」


「う、うるさい!」


「いいんですよ。私の前くらい甘えてください。私が可愛がってあげますから。私なしではいられなくしてやります!」



 もう既になってるよ、ということは言ってやらない。後輩ちゃんなしではいられないなんて、俺は後輩ちゃんに絶対言わない。言うもんか!


 俺は後輩ちゃんの顔が見れなくなって目を瞑った。


 頭が優しく撫でられる。とても気持ちいい。



「後輩ちゃんのほうが俺なしではいられないんじゃないか? 俺がいなかったら後輩ちゃんは死んでるぞ」


「何当たり前のことを言っているんですか? 私は先輩に依存してますよ。先輩依存症です。ずっと前から先輩なしではいられませんよ」


「なぁっ!?」



 俺は思わず驚きの声を上げてしまった。


 後輩ちゃんに軽く反撃したら全力のカウンターが飛んで来た。


 目を開けたら後輩ちゃんと目が合った。思いっきりニヤニヤしてる。



「どうしたんですかぁ~? 可愛いお顔が真っ赤っかですよぉ~?」


「う、うるさい!」



 俺は再び目を瞑った。そして、後輩ちゃんに言う。



「後輩ちゃんも顔が赤かったぞ」


「………………………………………………うるさいです」



 俺たちはしばらく無言だった。


 その間俺は後輩ちゃんがどんな顔をしていたのか知らない。ずっと目を瞑っていたからだ。


 後輩ちゃんが俺の頭を撫でながら声をかけてきた。



「先輩先輩! 手!」


「て?」


「手!」


「て?」


「手ですよ手! おててです!」


「おてて? あぁ! 手か!」



 俺は後輩ちゃんが何を言っているのかわからなかった。


 目を開けたら後輩ちゃんが自分の手をアピールしていた。ブンブン振っている。


 俺はどうしたらいいんだ? 後輩ちゃんに俺の手を差し伸べればいいのだろうか?


 訳がわからず後輩ちゃんに手を差し出したら嬉しそうに握ってきた。



「後輩ちゃん? 俺の手がどうかしたのか?」


「ん? ただ私が先輩と手を繋ぎたかっただけですよ?」



 可愛く首をかしげる後輩ちゃん。


 くそう。可愛いじゃないか!


 後輩ちゃんが嬉しそうに俺の手をにぎにぎしている。



「先輩の手って綺麗ですね」


「そうか? 後輩ちゃんの手のほうが綺麗だぞ」



 後輩ちゃんの手は真っ白ですべすべしている。触り心地がいい。ずっと触っていたい。


 あれ? 後輩ちゃんの様子がおかしい。



「後輩ちゃんどうした? 何か固まってるぞ」


「っ!? べ、別に先輩に褒められても嬉しくなんかないんだからね! ち、違うんだからね!」


「なぜにツンデレ? それにタメ口だし」


「いやー、ツンデレならタメ口でしょう?」


「まあそうだが。固まっていたのは演技だったのか?」


「もちろん演技です!」



 後輩ちゃんが俺の瞳をまっすぐに見てくる。


 後輩ちゃんが必死で誤魔化したり嘘をついたりするときは真っ直ぐに見てくる癖がある。どうやら演技というのは嘘らしい。そうじゃないかと思ってたけど。


 後輩ちゃんが俺の手をしげしげと見つめ、何を思ったのか急に手の甲にキスしてきた。



「ちゅっ♡」



 俺の手の甲に後輩ちゃんの柔らかな唇の感触があった。



「なっ!? なななななななななななななななななななななぁっ!?」


「ふふふ。先輩驚きすぎですよ。ちゅっちゅっちゅっ♡」



 後輩ちゃんが俺の反応を面白そうに見ながら何度もキスをする。そして、後輩ちゃんが俺の手に自分の頬をくっつけた。後輩ちゃんの頬はモチモチして柔らかい。



「この前誰かさんがおでこにキスをしてきましたからね。お返しです」


「くっ! やるじゃなかった……」


「ふむ。こうしてしてみると私、キス魔みたいです。沢山したくなります」


「えっ!?」


「というわけで、いつでもいいですよ! いつでもお待ちしてます。私はするよりもされるほうが好みなので! ほらほらカモーン!」



 後輩ちゃんが盛大に煽ってくる。俺が絶対にしないことをわかってて揶揄ってくる。


 そうか。後輩ちゃんがそういうならしょうがないか。恥ずかしいけどやり返そう。


 俺はムクっとと起き上がる。



「ど、どうしたんですか先輩?」



 俺は表情を変えずに後輩ちゃんの頬にキスをした。



「ふぁぁあっ!?」



 俺は恥ずかしいけど我慢して演技を続ける。


 後輩ちゃんの顎を片手で軽く上向きにする。所謂顎クイだ。



「葉月今すぐ唇を奪おうか?」


「ふぇ?」



 後輩ちゃんの顔がポフンと真っ赤になり、身体がバタリと倒れた。後輩ちゃんは身動き一つしない。



「えっ? 後輩ちゃん? 後輩ちゃん? しっかりして後輩ちゃん! 後輩ちゃ~ん!」



 後輩ちゃんは気絶していました。とても心配したけど後輩ちゃんはすぐに目が覚めた。その後、後輩ちゃんにめちゃくちゃ説教されました。


 なんでも、いきなりかっこよすぎるのはダメらしい。しばらく不意打ちを禁止されました。


 後輩ちゃんが揶揄ってきたからだろ、と思っていたけれど、言い返さずにただひたすら床で正座していました。


 足が痺れた。物凄く痺れた。


 あっ! あぁっ! 後輩ちゃんニヤニヤしないで! 足を触ろうとしないで! あっ! あぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!


 俺は後輩ちゃんに痺れた足をつんつんされました。後輩ちゃんはそれはそれは楽しそうにつんつんしていました。


 いつかやり返してやる!

 

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