第10話 大掃除と後輩ちゃん
俺は朝から後輩ちゃんの家に行き、大掃除をしていた。
後輩ちゃんの家はまだ引っ越しをしてきてから十日ほどだけど物凄いことになっていた。
衣服が散乱し、床がほとんど見えない。洗濯されていない。ごみも捨てられていない。食器も洗われていない。宿泊研修の荷物もそのまま。
幸い、食事は俺の部屋で食べているため腐ったものはない。異臭もしていない。
変なにおいを漂わせていたら、後輩ちゃんを床に正座させて説教するところだった。
流石家事能力皆無の後輩ちゃん。俺は呆れ果ててしまった。まあ、後輩ちゃんの脱いだままの下着と寝顔も見ることができたし、俺は満足である。
脱ぎ散らかされた洋服を何回かに分けて洗濯する。
洗濯機で洗われている間に、ゴミを片付け、床を掃除機をかけたり雑巾で拭いたりする。
洗濯機が終わったら、次の洗濯物と入れ替え再び洗濯。干し終わったら、コップなどの食器を洗う。ついでに水回りを掃除。そして、洗濯物を干す。
後輩ちゃんの家のベランダにスペースがなくなったので俺の家のベランダまで洗濯物を干す。
これで結構時間が経って、次はお昼ご飯を作らなければならない。
一回シャワーを浴びて埃を落とし、俺は昼食を作り始める。
「先輩お疲れ様です」
俺が食べ終わったお昼の食器を洗っていると、後輩ちゃんがのんびりと座ったまま言ってきた。
後輩ちゃんは家事には役に立たない。邪魔になるだけだ。だから俺の部屋に避難していた。
「まだ終わってないけどな」
「なんかすいません」
「気にすんな。俺が好きでやってることだ」
俺は家事をするのが好きだ。これは全て俺がしたいからしている。だから申し訳なさそうな顔をしないで欲しい。後輩ちゃんには笑顔でお礼を言われたい。
食器を洗い終わったら洗濯物を取り込む。今日は天気が物凄くいいのですぐに乾いた。まだまだ洗濯物はある。これからまた干さなければならない。
取り敢えず先に洗濯物を畳もう。
「後輩ちゃん、洗濯物は畳めるか?」
「それくらいなら一応できますよ」
俺は後輩ちゃんと洗濯物を畳む。慣れない手つきで洗濯物を畳む後輩ちゃん。お世辞にも綺麗とは言えない。
後輩ちゃんが涙目で俺を見てくる。
「あー、やっぱり俺がしようか?」
「………お願いします………タオルくらいなら畳めますので」
ぐちゃぐちゃの洋服を俺に渡し、後輩ちゃんはタオル係となった。タオルばかり畳んでいく。タオルは何とか畳めている。
しばらくして後輩ちゃんが震える声で言ってきた。
「ごめんなさい……私……何にもできなくて……」
「気にすんな。人には得意不得意があるから」
「でもでも………………」
後輩ちゃんの大きな瞳からポロポロと大粒の涙が零れ落ちる。
別に泣くほどのことじゃないだろ? 家事能力皆無って自慢していた後輩ちゃんはどこに行った?
俺は堪らず後輩ちゃんを抱きしめる。今日の後輩ちゃんは細くて壊れそうな感じがした。
「泣くなよ。今日の後輩ちゃんは混乱したり恥ずかしがったり泣いたり、忙しいな」
「うぅ~……しぇんぱい………きらいにならないでくだしゃい…」
「嫌いになるわけないだろ? 俺がしたいからするんだ」
「………………本当ですか? ………家事が何もできない私のことは嫌じゃないですか?」
「後輩ちゃんが家事ができないのはずっと前から知ってるから。じゃあ、家事では何もできない後輩ちゃんに仕事を上げよう」
「仕事?」
後輩ちゃんが涙で濡れた瞳で俺を見つめてくる。後輩ちゃんを抱きしめているため、顔が至近距離にある。
可愛くて綺麗な後輩ちゃんの顔が近い。
恥ずかしくて顔を背けたいけど、ずっと見ていたい。
俺はどうすればいいんだろう?
「そう仕事だ。掃除が終わったら疲れた俺を癒してくれ。これならできるだろう?」
「疲れた先輩を癒す…………そうですね……それならできそうです!」
後輩ちゃんがやっと元気を出してくれた。やっぱり後輩ちゃんの笑顔が一番好きだ。
俺たちは名残惜しいけど、洗濯物を畳むために離れた。
後輩ちゃんの温もりと香りがまだ腕の中にある。
今さらとても恥ずかしくなって後輩ちゃんの顔を見れない。
俺は洗濯物に集中しようと黒いものを手に取った。それは後輩ちゃんの下着だった。
「こ、こここここ後輩ちゃん! ご、ごめん!」
俺は咄嗟に後輩ちゃんに下着を投げつけてしまった。
まだちょっと涙目の後輩ちゃんはクスクスと笑いながら俺に下着を投げ返してくる。
「いいですよ、先輩。私の下着を思う存分見てください」
「後輩ちゃん!? 女子高生だよね!? 恥じらいを持ってくれる!?」
「あー、先輩ならいいですよ。もうどうせ朝に見られましたし、ただの布切れです。下着で先輩が欲情して私を襲うならそれはそれで嬉しいですし。というわけで、これからも下着の洗濯もよろしくお願いします。洗濯前の下着をどうしようが先輩の自由です。匂いを嗅ぐなり舐めるなりおかずにするなり好きにしてください。ついでに私の身体も好きにしてください!」
後輩ちゃんは恥ずかしそうだけど冗談を言っている雰囲気はない。本気で言っている。
「何言ってんだ!?」
「何って先輩のおかずの話…」
「わかった! わかったからそれ以上言うな! わかったよ。後輩ちゃんの下着も洗濯するが、俺は何もしないからな! 絶対何もしないからな!」
「それはフリですか?」
「ちげーよ!」
後輩ちゃんはよくわからん。でも、ありがたく後輩ちゃんの下着を洗濯しよう。
今日も後輩ちゃんにお願いしたけど、いろいろと大変だったからな。俺ができるならそのほうが効率的だ。
畳み終わったら二人で後輩ちゃんの家に戻しに行った。
「うわぁ! 入居当時みたいに綺麗です! すごいですね!」
綺麗になったリビングを見て後輩ちゃんが驚いている。
俺はジト目を向けるが後輩ちゃんは一切俺のほうを見ない。
「………まだ引っ越してきて十日くらいだよな?」
「さあさあ! 洋服を仕舞いましょう!」
話を逸らした後輩ちゃんに苦笑しながらタンスに入れたりハンガーに掛けたりする。
まだまだ洗濯物はあるからな。頑張ろう。
俺はサクサクと新しい洗濯物を干す。今日の天気なら夕方には乾くだろう。太陽の日差しは強いし、風も吹いている。洗濯日和だ。
「もう掃除は終わったんじゃないんですか? まだするとこあります?」
綺麗になったリビングで、ぐてーっと横たわっている後輩ちゃんが干し終わった俺に問いかけてきた。
俺は掃除道具を持ち替えて後輩ちゃんに答える。
「もちろんあるぞ! トイレとお風呂だ!」
「っ!? だ、だめです! そこはダメです! 汚いですから!」
後輩ちゃんがガバっと起き上がった。何故か焦ったように俺を引き止めようとする。
「汚いから掃除するんだろ?」
「ち、違います! 私は汚していません! デリカシーの問題です!」
「後輩ちゃんの下着も見たんだぞ。俺は気にしないが」
「私は気にします!」
「でも、後輩ちゃんも俺の家のトイレは使うだろ? そこも俺は掃除しているんだが?」
「そ、それはそうですけど………」
後輩ちゃんの勢いが弱まった。ここはチャンスか?
「で、でも、お風呂にはいろいろと落ちてるかもしれませんし……」
「毛のことか?」
「っ!?」
後輩ちゃんの顔が真っ赤になる。
さてさて、後輩ちゃんは何の毛を想像しているのだろうか。どこの毛のことだろうな。
後輩ちゃんの考える毛については予想はついているけど、俺は違う毛のことを言ったぞ。
「後輩ちゃんの髪の毛は長いからな。掃除しないと詰まるぞ」
「っ!? 毛って髪の毛ですか!?」
「当たり前だろ? 後輩ちゃんは一体どこの毛を想像したんだ?」
俺はニヤニヤしながら後輩ちゃんに聞いてみる。
「っ!? 先輩のばかぁ!」
後輩ちゃんが顔を真っ赤にして俺の身体をポカポカ叩いてくる。
痛い。痛いから。まあ、後輩ちゃんの可愛い姿を見ることができたから痛いけど我慢するか。
結局、後輩ちゃんが排水口の髪の毛を取った後で俺が掃除することになった。
流石の後輩ちゃんもトイレとお風呂は綺麗にしていた。
その後、最初の頃は恥ずかしがっていた後輩ちゃんも、掃除を重ねるにつれて慣れていき、結局排水口の髪の毛を取ることも俺がすることになったのだった。
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