第9話 ”突撃! 隣の後輩ちゃん!”
宿泊研修から帰宅した次の日。今日は土曜日。現在の時刻午前6時。
俺は掃除用のエプロンをつけ、箒や雑巾バケツを持ち、後輩ちゃんの家の前にいる。貰った合鍵でドアを開ける。
ガチャリ!
玄関が開いた。チェーンはかかっていない。
女子高生が一人で住んでいるのにチェーンをかけずに寝ているとは不用心だな。後で後輩ちゃんに説教しておこう。幸い今日はありがたいが。
俺は鍵をかけてチェーンもかけると後輩ちゃんの家に無断で上がる。後輩ちゃんにはいつでも来ていいと許可をもらっているのだ。
俺はリビングに入る。リビングを見た俺が真っ先に思ったのは”汚”だった。
「うわぁ…」
リビングはめちゃくちゃだった。脱ぎ散らかされた衣服が散乱している。下着もあるようだ。
ここ数日、後輩ちゃんが着ていた服が脱いだままそこら辺に落ちている。
ふむふむ。ピンクに水色、白に……なんと黒まで。後輩ちゃんは大人っぽい下着も穿いているんですなぁ。
俺の予想だと、たぶん洗濯されていない。
後輩ちゃんが着ていた洗濯していない下着。ちょっと手に取ってみようかなと思ったけれど止めた。
宿泊研修の荷物も開け広げられたまま放置してある。
ゴミ箱はお菓子の袋などで溢れている。後輩ちゃんは今までゴミ出しをしていないな?
洗面台にはコップなどがそのままで洗われていない。
部屋の空気がどんよりと淀んでいる。
俺は後輩ちゃんの寝室の扉を開ける。寝室も似たような感じだった。幸い、制服はハンガーに掛けられている。
ベッドに後輩ちゃんが気持ちよさそうに寝ていた。すうすうと寝息を立てている。寝ている後輩ちゃんの顔は無防備でとても可愛らしい。少し幼く見える。
後輩ちゃんはサクランボ柄の可愛らしいパジャマを着ていた。少し寝相が悪く、後輩ちゃんの可愛らしいおへそが見ている。
俺はスマホを取り出すと後輩ちゃんにレンズを向ける。シャッター音が鳴らないようにして、寝ている後輩ちゃんの写真を撮った。
少し沢山撮ってしまったのは俺だけの秘密。絶対に後輩ちゃんには言わない。俺も寝顔を撮られたからこれでお相子だ。
写真と撮り終わった俺は、後輩ちゃんの電話番号に電話をかけた。
後輩ちゃんの近くに置いてあったスマホがブーブーと鳴り始める。
「……んっんぅ…………」
後輩ちゃんが起きた。目を擦りながらスマホを手に取って、表示された名前を見て嬉しそうな顔をした。
眠そうな顔で通話ボタンを押した。
「もしもし~? 先輩ですか~? おはよう…………ござい……ま……す?」
寝室に立っている俺と眠そうな後輩ちゃんの目があった。
キョトンと首をかしげて不思議そうな顔をしている。
俺がいることに理解ができていない様子だ。
「おはよう後輩ちゃん。よく眠れたか?」
「あっはい………」
寝癖がついた後輩ちゃんが目をゴシゴシと擦った。
何度も何度も目を擦り、パチパチと瞬かせる。
そして、眠くて半開きだった後輩ちゃんの目がカッと大きく見開かれた。
「なぁっ!? ななななななななななんで先輩がいるんですかぁああああああああああ! えっ! あれっ! ここは私の家だよね? うん、私の家だ。ということは………夜這い? まさか本当に!? あのヘタレの先輩が夜這い!? 待てよ、今は夜じゃないから朝這い? 朝這いってあるの? まぁどうでもいいや……って、えぇぇぇええええええええええええええええええええええええええ!」
おうおう。後輩ちゃんがめちゃくちゃ混乱してる。混乱している後輩ちゃんも可愛い。
ちっ。録画しておけばよかった。
まだ混乱している後輩ちゃんがベッドの上に正座した。
「えっと、不束者ですが、よろしくお願いします? 出来れば優しくしてくださいね? あっ、髪ぼさぼさだ。口くさいかも……」
後輩ちゃんが涙目になっている。そろそろネタ晴らしをするか。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。残念ながら今日はそういう目的じゃないです」
「ふぇ?」
後輩ちゃんが再びキョトンとしている。パシャリ。
後輩ちゃんの写真をゲット。
「”突撃! 隣の後輩ちゃん!”ということで、大掃除に来ました」
「はい?」
「大掃除です」
「おおそうじ……?」
「はい。大掃除です」
後輩ちゃんが少しずつ理解したようだ。顔に納得の表情が浮かぶ。そして、物凄く残念そうだ。
「大掃除、ですか? 私を襲うのではなくて?」
「残念ながら大掃除です。それにしても後輩ちゃん。よく十日ほどでここまで汚すことができるな。宿泊研修の荷物も片付けてないだろ?」
「ギクッ!」
「ゴミ箱を見たが、ゴミ出しもしていないだろ?」
「ギクギクッ!」
「コップも洗っていないし」
「ギクギクギクッ!」
「脱ぎ捨てられた衣服。洗濯してないだろ?」
「ギクギクギクギクッ!」
後輩ちゃんの身体がピクピク動く。そして、スーッと俺から視線を逸らした。
ぼそぼそと言い訳を始める。
「私……家事能力皆無なんですから、しょうがないじゃないですか………掃除洗濯料理……壊滅的なんですから…」
「それを知ってるから今日俺が大掃除に来たんだろ? ということで後輩ちゃん。顔を洗ったりして服も着替えてくれ。俺の部屋に朝ごはんを用意してるから」
「あっ、わかりましたヘタレの先輩」
「後輩ちゃん……言っておくが俺も理性が頑張っているんだからな………可愛いパジャマ姿で無防備な後輩ちゃんを襲わないように必死なんだからな……」
俺の言葉に後輩ちゃんが真っ赤になる。パジャマ姿だったことを思い出して布団をかぶって身体を隠した。
恥ずかしがっている後輩ちゃんも可愛い。だけど、そろそろ掃除を始めないといけない。
「後輩ちゃん後輩ちゃん。出来れば朝ごはんを食べる前に、リビングに脱ぎ捨てられている下着をどうにかしてくれるか? 洗濯していないんだろ? 掃除の代金としてがっつり拝見させていただきました。あぁ、触ってないから安心しろ!」
俺の言葉を理解した後輩ちゃんがプルプルと震え始める。
「ぎにゃぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!」
後輩ちゃんがベッドから飛び降り、奇声を上げてリビングへと突進していった。
「よし。ここには下着がなさそうだし、寝室から掃除を始めるか」
後輩ちゃんが下着を片付けている間に、俺は後輩ちゃんの寝室の掃除を始めた。
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