第7話 追及される俺と後輩ちゃん
夜。就寝時間が後三十分になった頃、俺たちは少ない自由時間を謳歌していた。
俺は敷かれた布団に横になってボーっとしている。
クラスの男子全員と雑魚寝だ。これはこれで楽しい。
「せんぱい。宅島颯先輩」
クラスの男子から呼ばれた。何故か男子全員が俺を包囲している。
じりじりと近づいてきた。完全に包囲されて俺は逃げられなくなった。
「んっ? なんだ?」
「先輩に聞きたいことがあります」
男子たちは真剣な顔で俺に質問してくる。
何となくわかった。絶対後輩ちゃんに関することだ。
「何でもいいぞ。ついでに敬語じゃなくていいから。俺は留年した馬鹿だし、気にするな」
男子たちが顔を見合わせ頷き合う。
「ゴホン! では、失礼して…颯、山田さんと付き合っているのか?」
やはり後輩ちゃんに関することだった。この質問の答えは決まっている。
「俺と後輩ちゃんは付き合っていないぞ」
「本当か?」
「本当だ」
男子たちが一斉に歓声を上げる。
なぜだ。なぜこの質問だけでこんなに盛り上がれるのだろうか。
「でもでも! 宅島は山田さんと仲が良いだろ?」
別の男子が質問してきた。
「そりゃあな。後輩ちゃんは中学の後輩だし、俺の妹と仲が良いからな。時々家に遊びに来てたし。それで少し仲良くなったぞ」
男子たちから羨ましいという声が漏れる。
「妹?」
「あっ妹はウチの高校じゃないから」
「なるほど。でも仲良すぎじゃないか?」
「同じ中学の知り合いがほとんどいないらしいからな。ちょっと人見知りの後輩ちゃんは必然的に知り合いと喋るだろ?」
「それで宅島ってわけか」
男子たちが、納得した、という風に深く頷いている。
まあ、後輩ちゃんは人見知りじゃなくて男性が苦手なだけだが。なぜか俺は例外らしい。
「颯は山田ちゃんのことをどう思っているんだ? ………好きなのか?」
男子たちがシーンとなり、全員が俺を固唾を飲んで俺を見ている。
「そりゃ好きだぞ。妹みたいだよな、後輩ちゃんって」
男子たちが一斉に安堵の息を吐く。なんだ妹か、という声がちらほらと聞こえてきた。
でも男子諸君。俺が本当のことを言うわけがないだろう?
俺は後輩ちゃんが大好きだ。超大好き。超々大好き。でも、絶対に言うつもりはない。
「じゃあ、俺たちが告ってもいいわけだな」
「それは好きにしたら? ただ、後輩ちゃんは積極的過ぎるのは嫌いみたいだぞ。告白される側も大変らしいから」
男子たちが悩み始める。俺は告白する、と自信げな者、やっぱり止めよう、と諦める者。
見ていて楽しい。
誰かがボソッと呟いた。
「……まず、話しかけにくいよなぁ。あまりにも可愛すぎて」
男子全員が、うんうん、と頷いた。
確かに後輩ちゃんは可愛すぎて話しかけにくい。俺も最初は緊張した。
何故か後輩ちゃんから積極的に話しかけてきたけど。
「まあ頑張れ、恋する青少年諸君!」
「自分は喋れるからって調子に乗るな! 羨ましいぞこの野郎!」
俺に枕を投げつけてきた。俺も咄嗟に反撃する。
それをきっかけにあちこちから枕が飛び交う。
こうして、俺たち男子は枕投げ大会が行われた。
ドタバタと上の階から暴れる音がする。確か上は男子が使っていたはず。
何をしているのかな? 先輩大丈夫かな?
私が考え事をしていると、友達が話しかけてきた。
「ねえ! 葉月ちゃんと宅島先輩って付き合ってるの?」
私にキラキラをした視線が向けられる。私は女子全員に捕まって尋問されている。
私と先輩かぁ。何にもないんだけどね、今のところ。
「付き合ってないよ」
「またまたぁ~! 嘘つかなくていいから!」
いや、本当に付き合ってないんだけど。
「付き合ってないよ。先輩は私の親友のお兄さんなだけ。まあ、高校生になって知り合いが少なかったからね。それで少しお喋り相手になってもらってたの。私、意外と人見知りだから」
女子たちは私の説明に納得していない様子だ。
まあ、逆の立場だったら私も信じないかな。明らかに付き合ってる雰囲気出してるから。
そうでもしないと私が告白されまくって面倒くさいからね。
「それに、先輩と仲良くしてると男子からの告白も少なくなるかなって。私、中学の頃それで不登校になりかけたから。一時期男性恐怖症にもなったし」
少し嫌みに取られるかもしれないけど、これは本当のことだ。
男嫌いの私は一時期不登校になりかけた。助けてくれたのは楓ちゃんと楓ちゃんのお兄さんである先輩。あの頃は二人のおかげで本当に助かった。
「そうなの? だから宅島先輩と喋ってるの?」
「まあね」
「でも葉月ちゃんは彼のことが好きなんでしょう?」
「う~ん……秘密かな?」
私は悪戯っぽく微笑むと他の女子たちが騒ぎ始める。
私は一切好きなんて言っていない。でも、彼女たちはそれで伝わるだろう。
まあ、言わないだけであって、私は先輩のこと大好きだけど。超大好きだけど。超々大好きだけど!
それは絶対に言わない。
「そういえば、昨日食堂で一緒にお弁当食べてなかった?」
「食べてたね」
「おかずを貰ったって聞いたけど」
「卵焼き貰った。先輩って物凄く料理が上手なんだよ。あの卵焼きは絶品だったなぁ」
あの卵焼きを思い出すだけで幸せな気持ちになる。
周りの女子たちが、いいなぁ、って言い始める。
ふふふ。私は先輩の料理を毎日食べているのだ。先輩に胃袋を掴まれているのだ。絶対にそこら辺のお店よりも先輩の料理のほうが美味しい。
女子たちが次々に質問してくる。
「ねぇねぇ! もっと教えて! どんなところが好き?」
もちろん全部です。絶対に言わないけど。
「きっかけは?」
きっかけというきっかけはない。単に一目惚れです。先輩を見た時にビビビッてきた。絶対に言わないけど。
「どこまでしたの? 手を繋いだ? キス? それとも……キャー!」
手を繋いだり、ハグもしたことはあるかな。キスは一昨日おでこにしてくれた。その先はまだ。私はいつでもいいけど。
ヘタレの先輩はなかなか一歩を踏み出してくれない。それはそれで可愛いけど。
こんなことは絶対に言えない。私だけの秘密。
私のクラスの女子たちはあーだこーだ言いながら恋バナで盛り上がる。
私も盛り上がりたいところだけど、対象が私だから盛り上がれない。
恋バナは好きだけど、自分の話は苦手なのだ。
「私だけじゃなくてみんなのことも教えてよ! 私は喋ったからね! はい次! 誰か彼氏持ちの人!」
私はうまく話を逸らすことができた。これで対象が私じゃなくなった。これで私も盛り上がれる。
私たちは就寝時間が来るまで恋バナで盛り上がっていた。
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