第3話

「今日も経営会議があるらしいよ」

社内はその話題で持ちきりだった。俺が働いているこの会社は家庭用ゲーム機の開発をしている。だが、スマホでゲームができる今の時代では、据え置きゲーム機の売れ行きは悪く、売り上げは年々減少している。そこで、コストダウンのために、人員削減の案が出てきている。ここ数日続いている経営会議では、そのことについて上層部が話し合っているのだろう。俺を含めたここに居る全員にリストラの可能性がある。そんな中で仕事を行うことに気が滅入っていた。


「俊介、今日も気合い入れような!」

黒髪で、黒縁眼鏡をかけたこの爽やかな人は霧島部長である。若い頃はプログラマーとして様々なゲームの開発に携わり、家庭用ゲーム機の時代を切り開いていった優秀な方である。

「こんな雰囲気の中、仕事なんてなかなか手につかないですよ」

「そう言うなって、こんな時代でも俺らがつくるゲームを求めている人もいるんだ、その人達のためにも頑張らなきゃ!」

こういう前向きな性格が霧島部長の尊敬できるところだ。お客様のことを考えて、より良いものを開発するためにずっと努力をしてきた人なんだ。

「ところで霧島部長、ここ最近の経営会議は何を話し合っているんですか?」

「主に今後の会社の存続についてだな」

「こんな何日も続く会議もあるんですね」

「まあ、大人の事情だ」

霧島部長はにやりと冗談っぽく笑って会議室に戻っていった。


「ただいま~」

「俊介見て!」

玄関に入るとすぐに美香が走ってきて、首につけた光るものを見せてきた。

「可愛いでしょ~」

「良いじゃん、似合ってるよ!」

美香はネックレスが好きで、毎月お気に入りのブランドから新発売されるものを購入している。値段は結構高いが、毎日家事をしてくれているので特に文句はない。

「ママきれいー!」

「ありがと鈴花、また三人でお出かけする時につけるね!」

三人で夕食を食べたあと、鈴花を寝かしつけてから美香に会社のことを軽く話した。

「ここ最近、会社で誰をリストラするのかの話し合いをしているみたいなんだよ」

「え!そうなの?」

「やっぱりこの時代ゲームの売れ行きが怪しくて、人員削減が必要みたいなんだ」

「そうなんだ~、俊介も可能性はあるの?」

「多分俺は大丈夫だ」

美香の質問に応えた通り、俺がリストラ候補として選ばれることはないと思っている。これまで俺はいくつかのゲーム開発に取り組んできて多少の実績はある。俺をリストラさせるくらいなら、他にそうするべき人材はたくさんいるはずだ。

「それなら良かった!」

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