廃墓地
廃墓地があった。いや、もはやそれは「かつて墓地だった場所」というほうが正しいありさまだった。
誰も訪れなくなり、誰も葬られなくなった墓は、文字が読めないほど剥げているものや、風化して崩れているものがほとんどだった。
初めてそこへ訪れた夜、私は奇妙な音を聞いた。最初はそう思ったのだが、よく聞いてみると、それは声だった。
「さぁぁん……ゃくううぅ…………きゅっ……じ…………ごぉ……」
ともすれば風がうなる音のようにも聞こえる、喉の奥から出そうとしてもうまく出すことのできないような、苦しげな声を聞いたのである。
あたりには、声を発するような生物も物体もまったくない。
それは夜の間、不定期に何度も聞こえてくる。
それは高い声であったり、低い声であったり。叫ぶような声であったり、囁くような声であったり。つまり、一つのものが発しているのではないようなのである。
次の日も、その次の日も、夜にその「声」は聞こえた。
初めてそこを訪れてから百日以上が経ったある夜、その声に変化が現れた。
様々な性質の声が聞こえる点は変わらない。違っていたのは、その内容だった。
この頃には、聞こえてくる声のパターンはかなり掴めていた。
――サン、ビャク、キュウ、ジュウ、ゴ
という語のパターンが、どうやらその声たちの一致するところのようだった。
その最後の「ゴ」の部分が、ある夜から「ロク」という語に変化したのである。
そして、さらに日を経ると、「ロク」は「ナナ」に変わり、「ハチ」になった。
それは一年おきに現れる変化のようだった。
そのような微小な変化を繰り返す中、我々の調査により、二つの事実が判明した。
一つは、この惑星の知性体が滅んでから、約四百年が経過しているらしいということ。
もう一つは、「ゴ」や「ロク」といった語が、この星にかつて存在していたある民族の間で使われていた数字であるらしいということ。
夜の廃墓地で誰にともなく語りかけている声は、この星にいたかつての知性体が、自らが滅んでからの時を数えているものなのかもしれない。
(クシャルトリコ星・辺境宇宙調査隊員の雑記から抜粋)
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