第21話 魔族討伐・VS偽シリル

 広間の中に広がった小悪魔レッサーデビル死針の蜂ディリテグラホーネットが一斉に攻めて来る。

 小悪魔達は口に魔力を溜め、魔力弾を撃ち、死針の蜂は尻に魔力を込め、その先から針を一斉に飛ばしてきた。


「シリル!クレア!伏せろ!」


 シリルはすぐさま屈み、クレアはアルマの背へと深く伏せると、アルマの周りから、一気に炎の弾が放たれる。

 そして全ての攻撃を打ち落とし、行くぞとクレアに声をかけ、その集団へと突っ込んでいく。

 アルマが本気で魔力を放てば、周辺の魔族程度、一撃で全て吹き飛ばせたであろうが、洞窟が崩壊する可能性、下の魔力を吸う謎の水、何より今後の敵がどの程度なのか不明である事。

 それらを考慮し、思い切り魔力を放てず、片っ端から倒す方法しか選べなかった。


 アルマが魔力で炎を吐きながら突っ込み、相手の攻撃を全て打ち落としていく。

 魔力の差により、相手の攻撃諸共、小悪魔達も打ち落とす事が出来たが、とにかく数が多く、かつ死針の蜂はその程度では、倒れていなかった。

 そして、休みなく全方位から攻撃が来る。

 しかしその攻撃を、クレアが上で剣を振り切り落としていた。

 アルマは敵の群衆に突っ込みながら、どんどんと倒していく。

 クレアはそのアルマに届きそうな攻撃と、アルマが打ち漏らした敵を、全て切り落とす。

 初めてアルマは、シリル以外の人間と連携をして戦っていた。

 クレアの戦闘を修業の間ずっと見ていた為、クレアの実力を把握し、信頼してこのような戦い方をしていた。

 クレアもそれを分かっており、信頼を向けてくれたアルマに、喜びを感じつつ、それに応える為、全力で確実に全ての攻撃と敵を切り落とす。


 しばらく魔族達の殲滅をしていると、アルマは、シリルが魔力を溜めている事に気付く。


『シリル撃つな!洞窟が壊れるぞ!ここがどこなのか分からないんだ!』

『ああーッ!!分かった!!クソー!!』


 念話でなんとか止めたが、シリルはどうやら、死針の蜂達に邪魔され、苛立っているようだった。


『小悪魔程度であれば問題ないが、とにかく虫嫌いのシリルの事だ。本当に虫が視界に入るのが嫌なのだろう……。』


 念話の返答からアルマは、そんな事を考え、なんとかしてやりたいと思うが、何せ数が多く、全ての攻撃は撃ち落とせない。

 かといって、シリルの傍にいけば、余計攻撃が集中してしまうため、そういう訳にもいかず、とにかく周りの魔族達の殲滅を急ぐ。


 小悪魔達は、離れて魔力の弾を撃っていたが、自分達の魔力弾が全て防がれ、全く効いていない事に気付いたのか、直接攻撃に来た。

 アルマはそんな小悪魔達はお構いなしに、攻撃を避けつつ、空中を駆けまわり、死針の蜂を次々に倒していく。

 代わりにクレアが、その小悪魔達を切り落とす。。

 魔法が付与されている剣の力により、魔力を込めれば、風の斬撃を飛ばす事が出来る。

 ある程度それで撃ち落とし、さらに向かって来た者を、直接剣で切り落としていく。

 瞬く間にアルマとクレアは、小悪魔達、そして死針の蜂達を倒していく。

 すると突然、離れた所にいた死針の蜂達が、集まり、共食いを始める。


「アルマ殿!死針の蜂達が共食いをしているぞ!?」

「ああ。理由は分からないが、あまりいい予感はしない。あそこを先に潰す!」


 アルマは急激に速度を上げ、共食いをしている死針の蜂達の元へと向かう。

 すると大量の小悪魔達がそれを阻止しにかかる。

 アルマは、特大の炎吐き、さらにクレアがそこに風の斬撃を加え、威力を上げる。

 しかし尋常ではない数の小悪魔達の肉壁により、なかなかその小悪魔達を抜けない。

 小悪魔達も、無抵抗で壁になるだけな筈がなく、魔力弾を続々と撃って来る。

 それを全て迎撃しながら、次々と倒していく。

 そしてようやく、死針の蜂が見えたと思ったが、そこにいたのはただの、死針の蜂ではなかった。

 それを見るとアルマは、一度距離を取る。

 相手の力量が読めないまま、小悪魔達に後ろに回り困られると厄介と考えた為だ。


「あれは……もしや……。」

「女王蜂だろうな。」

「まさか共食いで進化するなんて!聞いた事がないぞ!!」

「虫型はこれだから気持ち悪い。シリルが嫌う気持ちも分かるな。」


 そこには一際大きく、脚は全て鋭い鎌のようになっており、クレアですら一目でわかるほど、禍々しい魔力を放つ死針の蜂がいた。





 シリルは偽のシリルと対峙し、再び同時に突っ込む。

 まるでシリルの攻撃を模範するように、同じ様な攻撃をして来る。

 シリルが炎を放てば、偽者も炎を放ち、シリルが蹴りを放てば、偽者も放つ。

 力は拮抗しているようだった。

 しかしシリルは、徐々に劣勢になっていく。

 自分と同じように攻めて来る相手に、攻めあぐねていた。

 さらに何度か組み合ううちに、シリルの魔力は徐々に相手に奪われていたのだ。

 相手は魔力吸収の能力を保持していたが、微量だったため、シリルはその事に気付くのが遅れた。

 小さな差ではあったが、こちらの攻撃は魔力を吸収され、相手はほとんどダメージを受けず、吸収された分、相手の攻撃を相殺し切れず、こちらはダメージを受ける。

 その差が打ち合えば打ち合う程、明確になっていく。


 さらに、周辺の死針の蜂達が邪魔だった。

 大半はアルマ達が引き付けつつ撃退しており、さらに攻撃も防いでくれていたが、この広間全体に広がるほどの数であり、さすがのアルマ達ですら、シリルを全てから守る事は出来ていなかった。

 シリルは攻撃を喰らう事はなかった上、小悪魔達程度であれば、偽者との闘いの余波で近付くことすら出来ずにいた。

 しかし死針の蜂達は、小悪魔達よりも強く、余波にも影響されずに突っ込んで来る。

 死針の蜂達に対処をしていると、その隙を付き、偽者に攻撃される。

 元々虫嫌いであるシリルは、ちょこまか視界に入り、かつ邪魔をしていくる死針の蜂達に、とてつもない苛立ちを覚える。


『気持ち悪いー!うっとうしいーー!!』


 シリルはあまりにも苛立ち、一瞬の隙をついて、距離を取り、魔力をぶっ放そうとするが、アルマは魔力が異常にシリルに溜まり始めた事に気付き、死針の蜂達や小悪魔達と戦闘中にも関わらず、念話でシリルを制した。

 アルマに止められ余計、苛立ちを隠せなくなっていくシリル。

 その間も偽者は、シリルと同じような闘い方で攻めて来る。


 偽者の炎を相殺しつつ、襲って来た死針の蜂の毒針を避け、再び突撃しようとする。

 すると先に偽物が、こちらへ向かって来ていた。

 それに気付くと、シリルは瞬時に飛び上がり、迎撃するため雷を撃つ。

 しかしその時、シリルと偽者の間に一匹の死針の蜂が現れる。

 そしてその死針の蜂の所為で、シリルの攻撃は偽者に届かなかった。

 偽者はシリルの雷撃を喰らった死針の蜂諸共、貫手でシリルを貫く。

 視界が遮られ、もろに喰らってしまうシリル。

 さらに体に纏っていた魔力も相手に吸収され、防ぎ切れず、腹を抉られ、吹き飛ぶ。

 死針の蜂が間に入ったおかげで、心臓からは外れ、さらに魔力で多少防げた為、貫かれはしなかったが、そのダメージは軽くなかった。


 その時、偽者と本物の差が出た。

 本物のシリルであったら、追撃し、再び同じ個所を貫きに行っただろう。

 しかし偽物は、余裕からか、痛み付けたいのか、周りの魔族を止め、にやつきながら、ただ悠然と歩いて近付いてきた。

 そしてその余裕が、シリルに冷静さを取り戻させてしまった。


 シリルは吹き飛ばされ、水飛沫をあげ、地面へと倒れる。

 魔力が吸われる感覚に気付き、すぐさま立ち上がり、再び水面に立つ。

 シリルの腹からは、血が流れ出ていた。

 ここではシリルでさえ、魔法が使えず、腹の傷を治せなかったのだ。

 そんなシリルを見ながら、ゆっくりと近づいて行く偽者。

 腹の傷から血が流れ出ているのを見ると、悦に入った表情を浮かべる。

 しかしその表情は、シリルの顔を見て崩れた。


 シリルは今回の闘いは、序盤は普段と同じく笑顔で闘っていたものの、自分の魔力が吸われ、戦闘の手法はほぼ同じ、そして何より虫の存在により、笑顔は途中で消えていた。

 そして腹の傷を負い、苦悶の表情を浮かべるだろうと思っていた偽者。

 しかしその表情は、笑顔になっていた。

 普段通り、狩りをする時の笑顔だ。

 シリルは今まで闘った事のない相手、そして虫の所為で、完全に冷静さを失っていたが、一度冷静になれば、相手のからくりにすぐ気付き、いつもの調子に戻っていた。


 シリルは、悠然と歩いて来る偽者に突っ込む。

 すると再び同じような動きで、こちらに突っ込んで来る偽者。

 だが偽者は、途中で異変に気付く。

 シリルが最初の一歩目しか水面を蹴っていなかった事、そして右手に込められている魔力の量が、今までの比ではなかった事。

 何回も繰り返された行動により、異変に気付くのが遅れ、慌てて偽者は両腕を前に出し魔力を込め、守りの姿勢に入る。

 しかし膨大な力に吹き飛ばされ、シリルの拳を防いだ腕は折れ、壁に叩きつけられる。

 その瞬間、勝敗は決した。


 偽者を吹き飛ばしたシリルは、そのまま追撃をするため勢いよく偽者に突っ込む。

 偽者はあまりの威力に、未だ態勢を立て直せずにいた。

 シリルは魔力を込め、炎に変換した拳で、連打を浴びせる。

 偽者も瞬時に対応しようとしたが、もはや手遅れだった。

 最初の数打は防げたが、怒涛の連打にどんどんダメージが蓄積される。

 もはや魔力吸収すら、出来ずにいた。

 一気に魔力を放出して、脱出を試みようとするが、その瞬間頭を掴まれ、逆に魔力を流し込まれる。

 偽者は叫び声を上げる。

 無理矢理頭に魔力を流し込まれ、激痛が走った。

 すると徐々に偽者はシリルの姿を保てず、体が大きくなっていき、その姿は悪魔デビルへと変貌したのだ。

 だがその変貌すら、シリルには関係なかった。

 頭は掴めないサイズになったが、魔力を流したまま、その頭を壁へと抑えつけた。

 そしてそのまま休みなく、もう片方の腕で殴り続ける。

 徐々に悪魔の体が、燃え上がり、消えていく。

 そして最後に右手の魔力を止め、その分を一気に左手から悪魔の頭へと流し込む。

 悪魔は体からどんどんと燃え尽き、最終的に頭が弾け飛び、完全に消え去った。



 シリルが気付いた偽者の特徴。

 それはシリルの魔力の流れを正確に読み取り、行動を先読みしていた事、そして魔力の上限は増えていないという事だった。


 偽者は元々が、魔力吸収と擬態という、特殊能力を持った悪魔だった。

 しかしその条件は、接触しているものという、限定されたモノだった。

 彼の主はその欠点を補うため、実験的にこの魔力を吸収する水場を作り、悪魔へと与え、今回の戦闘に投入していた。

 悪魔はこの下の水溜まりと繋がることにより、その魔力を自分へと吸い上げる事が出来た。

 そして報告を聞き、この三人の中では、シリルが一番強いと判断した為、シリルの魔力を吸収、そこからシリルの魔力の流れを読み取る事により、先読みをしていた。

 さらに主から先の戦闘を聞き、どういう攻撃をしていたかを知っていた事もあり、正確に技まで模写し、かつ相手の姿になる事で、混乱を招こうとしていた。

 

 シリルは敵の思惑通り、闘うにつれ困惑していったが、一度冷静になれば、正確ではないものの、すぐさま大体のからくりを把握した。

 そして何よりも、腹に攻撃を喰らった瞬間、相手は自分の魔力を吸収しているにも関わらず、最初と威力が変わっていない事に気付いた。

 それはシリルの魔力を吸収しているはずだったが、魔力の上限が上がっていないと言う事だった。

 悪魔はシリルの魔力を利用し、ずっと万全な状態に比べ、シリルは徐々に消費していった所為で、相手が魔力を吸収し、力を上げていると錯覚し、気付くのが遅れた。

 魔力の上限を上げるのはとても困難な事であり、普通はそんな事は出来ないとすぐ気付くはずが、シリルはそんな事は知らず、完全に見落としていたのだ。


 だがそれに気付くと、シリルはまず相手に魔力の流れを読ませない為、さらにその事に気付かせない為に、低空でかつ一歩で、相手の懐まで飛び込み、そして普段身体強化や防御の為、体に巡らせている全ての魔力を遮断し、右手に込め、力の限り殴った。

 普段は速さと正確さを重視し、とにかく素早く相手の急所を貫くという行動をするシリルだったが、今回に限っては、単なる魔力の力技だった。

 だがそれにより、相手の不意を突いた上で、一時的に悪魔の魔力を上回り、悪魔は吹き飛び、勝つことが出来た。

 そこからは、普段のシリルだった。

 相手に反撃の隙を与えず、止めを刺す。

 しかも得体の知れない魔族だったため、欠片も残す気はなかった。



 腹を怪我して痛手を負い、魔力の消費も激しかったが、なんとか勝利したシリル。


『勝ったよアルマ!!』


 そう念話で報告しつつ、後ろに振り向くと、シリルはその光景に驚く。

 悪魔に集中していた為、異変に気付くのが遅れたが、途中から死針の蜂の妨害がなかった。

 それは、その上空にいた者の所為だった。

 今まで見た死針の蜂とは比べ物にならない程、大きな死針の蜂が、小悪魔達に囲まれ飛んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狼に育てられた常識知らずの無鉄砲 ありひこ @soniko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ