第10話 ギルドと依頼
シリルが支度を終え、しばらくするとクレアが起きた。
「すまないシリル殿、寝坊した。」
「んーん。大丈夫だよ。それよりおはようクレア。」
「あ…ああ、おはよう。急いで支度する。」
そう言うと昨夜と同じく、向こうを向いてくれと頼むクレア。
そして急いで着替え、剣や防具、道具を用意する。
「よし行こう!」
「うん!」
今日はまずギルドに行き、宿の受付と依頼を確認しに行くとのことだった。
ギルドに着き、入るのに躊躇するクレア。
昨日の事件がどのように広まっているか、不安だった。
このギルドは、人が多いわけではない。
フィンはあのキャラなので、目立ち、かなりの人が知っている。
そのフィンが殴られているのだ、話題になっているのは確実だろう。
こんなに早く問題は起こしたくはなかったが……そう考えていると、シリルに入らないの?と言われ、我に返り、扉に手を掛ける。
中へ入ると、昨日くらいに人がいた。
依頼が貼り出されている掲示板を眺める者、カウンターで依頼を受けている者、ロビーにある机で談笑する者、色々な者達が集まっていた。
クレアとシリルが入ると、一斉に視線が集まった。
少し動きが止まり、息をのむクレア。
何人かはすぐまた視線を外し、興味を失くしていたが、大半の者はクレア達を見ていた。
するとその中から何人かの男達が、こっちに近寄って来た。
構えるクレア。
ただ、その男達から出た言葉、予想だにしていない言葉だった。
「おう!おはよう!クレアと、その師匠!元気か?」
「あ、クレアの師匠か!おはー!」
「相変わらず変な仮面してるー。」
どうやら昨晩、風呂場にいた面々のようだった。
シリルは師匠じゃなくてシリル!と言い返していたが、周りの男達はお構いなしに茶化して、笑っていた。
その後も、おはようや仮面外してみて!などと、意外に気さくに話しかけられる。
クレアは逆に驚き、呆けていた。
もっと責められたり、色々聞かれると思っていたが、皆、特段変な質問もせず、挨拶だったり、軽口を叩くだけだった。
何人かは遠巻きに見ていたが、大半の者は友好的だった。
「クレア?受付はあっち?」
シリルにそう言われ、呆けていたが我に返るクレア。
目立ってはいたが、悪目立ちはしてない事に疑問を覚えつつも、気を取り直し、受付へと向かうクレア。
「おはよう。宿の受付をしたいのだが……。」
「あら、クレア。おはよう。シリル君もおはよう。」
「おはよう!えっと……オロビア!」
「覚えていてくれたの?でもおしい!オリビアよ。」
「そうだ。」
「今日もお顔隠しちゃってるのね。でも見た目は冒険者らしくなって、格好いいわよ。」
「ありがとう!」
受付に立っていたのは、クレアの昔馴染みの【オリビア】だった。
彼女は、ギルドの受付だったようだ。
「宿の受付って事はシリル君ね?昨日はどうしたの?」
「私の部屋に泊めたんだ。」
「クレアぁ。ダメよ?そんな事したら。」
「ああ。すまん。買い物をして――」
「可愛くて、襲いたくなっちゃう気持ちは分かるけど、お持ち帰りなんて。」
「んなっ……違うわバカ!泊まる場所がなかっただけだ!」
「大丈夫?シリル君。何かされたら、私の所においでね?」
「何かって?」
「する訳ないだろ!シリル殿も気にしなくていい……!」
「冗談冗談。」
笑って誤魔化す、オリビア。
シリルに、お持ち帰りって?と聞かれ、知らなくていい!と答えるクレア。
「それで、シリル君の受付ね。こっちでやっておくわ。あなたは、ギルマスのお部屋へどうぞ。」
「ギルマスの……?何故だ?」
「さあ?理由は聞いてないけど、大方昨日のフィンを殴った事じゃないかしら?」
「……あ、ああ。そうか。ちなみに、その事で聞きたいのだが――」
「はいはい。もっと色々聞かれたり、責められたりすると思った?」
オリビアはクレアが聞きたい事は、分かっていたようだった。
「ああ。だが来てみたら、皆シリルに挨拶したりと、嫌厭される事はなかった。」
「ええ。それはあそこにいる人達……とグラントに感謝ね。」
「……どういう事だ?」
「ええ。昨日、シリル君をお風呂に連れて行ったでしょ?」
「ああ。」
「その時にどうやらあの人達も、居合わせたみたいでね。グラントと一緒に、シリル君と話したって言ってたの。それで、結局殴られたフィンが悪い!っていう話になって、それであんな感じに。今朝本当は、もう少しピリピリしていたのよ?」
「……それだけで?」
「実際フィンの発言は、本当に良くなかったしね。それにグラントも、フィンが悪いって言ってたらね。みんなの憧れグラント様だもの。」
「…………そうか。」
「そう。それにフィンは、もう20歳。対するシリル君は、強くてもまだ子供。火を見るよりも明らかでしょ。ついでに、私が可愛い子よって言っといたわ。」
強くてもまだ子供というのは、風呂で一緒だった面々がわざわざ広めてくれたのだ。
殴った威力や、仮面をしてたり、格好もおかしかったが、20歳と子供の喧嘩と改めて考えると、シリルを責めるのは違うと思う者が多かったようだ。
「そうか…。それは、迷惑かけたな。すまん。助かった。」
「そこはありがとう、でしょ?まあ私は大した事は、言ってないけどね。あの人たちには、今度お礼してもいいかもね。」
「そうだな。ありがとう。それで……その……フィンは大丈夫だったのか?」
クレアは殴った場面は見ていたが、その後は全く知らなかった。
ただ吹き飛ばされていたので、怪我はしていたろうと思ったのだ。
「んー……とりあえず、怪我は治ったけど、なかなかひどかったのよ?肋骨折れてたんだから。他の冒険者の人が、回復魔法してくれたから、もう平気だと思うけど。」
「…………すまん。」
「まあ、あなたが謝る事じゃないわ。でもシリル君?あなたは、ちゃんとフィンに、謝ってあげてね?」
「なんで?」
「フィンはあなたが殴ったから、大怪我をしたの。」
「ん?あいつが悪いんだよ?クレアに迷惑かけた事は、謝った。」
シリルはクレアに迷惑をかけた事は、自覚していた。
アルマの指示に背き、クレアの仲間を殴ってしまった。
それによりクレアが他の仲間から、良く思われない事は分かっていた。
自分の事を助けてくれたクレアが、そんな事になるのは申し訳ないと思ったのだ。
だからクレアには謝れた。ただ、フィンに謝るのは理解出来なかった。
シリルの中で、彼は最低の発言をしていた。シリルが殺そうと思うくらいに。
更に皆、彼の発言は間違っていた、と言っていた。
ならば何故謝る必要があるのか。そうシリルは考えていた。
「そうじゃなくてね。昨日のフィンの発言は、確かに間違ってた。でも、それを止めるだけなら、そんなに強く殴る事もないでしょ?やり過ぎて、ごめんなさいって。」
「分かんない。」
「だかね、えっと――」
「はぁ……。この件は、私が説明しておく。」
「……そうね……その方がいいわね。お願いね。今回はなんとかなったけど、このままなら、次はどうなるか分かんないわよ。」
「分かっている。」
シリルが普通の子供なら、まだしもいかんせん強過ぎる。
本当に人を殺しかねない。
クレアは少し頭を抱え、先行きを案じる。
そうして、オリビアとの会話も一段落し、二人はギルドマスターの部屋へと向かう。
前回と同じく、一度ノックをし、名を名乗り、部屋へと入る。
相変わらずハドリーは机に向かい、書類を書いていた。
「おはようございます。クレア、シリルさん。そして、アルマさん。」
「おはようございます。ハドリー。」
「おはよう!」
「ああ。」
アルマは今日は、影の中から出ず、そのまま答える。
「さて、クレアに話があるのですが、シリルさんをロビーで一人待たせるのは不安なので、よろしかったら廊下の椅子でお待ちいただけませんか?」
「廊下で?」
「ええ。そんなに時間は、かかりませんので。」
「ん。分かった。」
そう言い、シリルは大人しく廊下へと出る。
書類を一度まとめ、横に置き、改めてクレアと向き直るハドリー。
「今日お呼びしたのは、お察しかと思いますが、フィンの件ですね。」
「…………はい。」
怒られると思い、少し顔が曇るクレア。
今日はソファーへと座らず、机の前でまるで、怒られている時の子供かのように、立つクレア。
「グラントが上手くやってくれたようで、事無きを得ましたが、下手をすれば、冒険者達と敵対関係になるところでしたよ?」
「……止める事が出来ず、申し訳ありません。」
「まあ、確かにフィンも問題はありましたけども、少々やり過ぎですね。」
「…………はい。」
「ちなみに、何故シリルさんが殴ったのかは、ちゃんと聞きましたか?」
「昨日あの後、外に出てから聞きました。」
「それで殴った理由は、納得がいくものでしたか?」
「はい。確かにやり過ぎではありましたが、ただ、納得出来る理由でした。」
「そうですか。……まあ、ならいいでしょう。次からは、こういう事が起こらないように、対処しておいて下さいね。」
「え……?あ、はい。」
あっさりとした返答に、驚くクレア。
そんなクレアを分かってか、あえて質問するハドリー。
「どうしたんですか?そんな呆けた顔をして。」
「えと……いや、もっと怒られるかと…。」
「怒られたいんですか?」
「いえいえ!とんでもないです!」
本当に怒られたくないのだろう。
物凄い勢いで、首を振る。
「そうですか。怒ってもいいんですがね。まあ一応は、経緯を聞いていたのでね。あとはクレアが理由を聞いて、納得しているならば、保護者であるあなたに任せようと思っていたので。」
「……はぁ。」
「これで理由を聞いていなかったりしたら、まあ折檻でしたけどね。」
にこりと笑うその顔に、クレアはぞっとする。
だが、保護者として引き受けたのだ。
私がしっかりしていこう、と決意を新たにする。
「お話は、以上です。今日から、依頼を受けるんですか?」
「その予定です。」
「では、頑張ってください。よろしくお願いします。」
「はい。ありがとうございます。失礼します。」
そうして話が終わり、外へと出るクレア。
廊下にある椅子に、ちょこんと座っているシリルを見つけ、声をかける。
「すまない。待たせた。」
「怒られたの?」
「いや大丈夫だ。もっとしっかりしろと言われただけさ。」
「俺の所為?」
「いや、そういう訳じゃないな。まあただ私もだが、シリル殿にも色々と学んで欲しい事がある、という事だ。」
「ふうん、そっか。頑張るよ!」
「ああ、頼んだ。」
フィンを殴った事が、何がダメだったのかは、今度ゆっくりと話そうと考えたクレア。
時間をかけないと、分かって貰えないだろうと。
そして二人は階段を降り、下へと向かう。
オリビアを見ると、どうやら受付で忙しそうだった。
なのでその間に、依頼の掲示板を見に行く二人。
「オリビア忙しそうだね?」
「ああ。この時間は特にな。こうやって、私達のように町に泊まった者は、大体朝方にここに依頼の確認をしに来て、受付で依頼を受けるからな。」
「へえ。それでここが、依頼が載っているとこ?」
「そうだ。この掲示板に、今ある依頼が出てる。」
依頼が貼り付けられている掲示板は、ランクごとに分かれていた。
左側から、B~Gの順番だった。
「Hは一緒に行く人だから、ここに載ってないの?」
「ランクHの事は、覚えていたか。そうだ。必ずD以上の者に付き添うから、彼らが直接受ける事はない。」
「じゃあSとAは?」
「Sは正直、伝説級だ。世界で数名と言われている。もちろん、この町にはいない。私も、旅をしている間、一回も見た事はないしな。」
「へえ。」
「そしてAだが、この町にもいるにはいるのだが、基本的に偉い人やギルドマスターから直接依頼を受ける事が多いのでな、わざわざここを見る事がない。なので、ここを見る者の中で、一番ランクが高いのがBなんだ。」
「なるほど。」
するとふと疑問が、沸くシリル。
「ランクが高い人って、今何してるの?」
赤き猛獣をわざわざ、クレア達が倒しに行った理由が分からなかった。
会話の中で、グラントは他の場所に行っていたのは分かっていたが、そんなに強い人達は、何をしていたんだろう?という純粋な疑問だった。
「ランクAの人は、この町にいるのは一人しかいない。しかも何故か、町の中に、住んでいるわけでもないらしくてな。噂しか聞いたことがないんだ。」
「それでもこの町の人なの?」
「そうらしい。私もよく分からん。あ、でも通り名は有名だ。【戦凶の道化師】と言うらしい。」
戦凶の道化師は通り名以外、ほぼ知られていない。
知っている者がいても、その者達は情報を漏らさないようにしていた。
なので、クレアは本当に全く知らなかった。
「ふうん。Bの人は?」
「Bの人は、この町は二人いる。まずは、グラントの旧友の幻人【ジェフリー】殿。彼は通称、耳長族と呼ばれている精霊使いの種族だ。彼は精霊の力を借りた広範囲探知が得意だから、今は魔獣や魔物が増える原因を探している。なので暫くの間、町に戻ってきていないんだ。」
「幻人!耳長族って聞いたことある!一度も見た事無いけど。」
「機会があれば、会えるといいな。私も会った事があるが、グラント殿の旧友とは思えない程、物腰柔らかく、優しい方だ。ギルドの癒し担当と、言われているくらいだ。」
「そうなんだ!会えたらいいなー!」
「ああ。是非会って欲しい。」
ちなみに、ハドリーも一応は物腰は柔らかいが、癒し担当にならない理由は、丁寧な口調とは裏腹に、そこから感じられる強かさ、物事を見透かしたような発言、何より時より出す、威圧感満載の笑顔によるものだろう。
むしろ、若干恐れられていた。
「もう一人は、【エリアス】だ。あの男は、私は苦手だ。確かに実力はあるのだが、どうも会いたくない。」
「強いの?」
「ああ。悔しいが強いんだ。持ち前の剣技に、スピード。そして魔法もお手の物と手が付けられん。」
「へえ。でもその人でもランクAじゃないんだ?」
「ああ。Aに上がるには、実力だけじゃなく、物凄い功績が必要らしいからな。戦凶の道化師が何をしたかは知らないが、相当な事をしたんだろう。」
「ふうん。」
事実エリアスと呼ばれる男は、負けなしといっていい程強かった。
この町では、戦凶の道化師を除けば、最強とさえ言われていた。
むしろ、姿を全く現さない戦凶の道化師より強いとさえ、噂されていた。
「それでその人は、何をしているの?」
「ここ数日は、どっかの娘に会うために、出掛けているそうだ。」
「ふうん?」
こんな大事な時に……と小声で文句を言うクレア。
実際エリアスがいれば、わざわざクレア達が赤き猛獣を倒す事はなかったろう。
だがランクBの者に、文句を言える者は少ない。
しかも最強とさえ、言われているのだ。
数日いなくなろうが、誰も何も言わなかった。
ハドリーだけ苦言を呈したが、この町を完全に出て行くと脅されれば、承諾せざるを得なかった。
「ちなみにグラント以外、ランクCっているの?」
「ああ。彼等は今も、周辺の魔獣や魔物退治に忙しいだろう。グラント殿はランクCでも、パーティも組まずソロで、一番強いから、依頼をこなすにしても、町からすぐにして、なるべく町に残る様にしているんだ。」
「へえ。町の守り人って事?」
「そうだ。」
「わかった。色々教えてくれてありがとう!」
「構わん。これからも聞くといい。」
「うん!」
実際実力テストとはいえ、そのグラントに勝った、シリル殿はとんでもないんだけどな……と心の中で呟くクレア。
ある程度説明を終え、掲示板に向き直る二人。
クレア自身はランクDだが、パーティはランクGだった。
Gは基本的に簡単なお手伝いといった物が多い。
普段なら、薬草採取もあるのだが、今は外が危険なため、本当に町中の依頼しかなかった。
「ん……。パーティランクが低いから、どの依頼もシリル殿を退屈させてしまいそうな物しかないな。」
「俺達はランクGだよね?このカラリダ退治とか?」
「ああ。そうだ。下水や、ゴミが溜まった汚い場所を好む、猟犬くらいの虫だな。」
「……虫はやだ。」
「だが、町中だと虫退治が多いんだ。しかもカラリダもそうだが、基本鍛えていない者だと、退治が困難な種類ばかりな。」
「…………絶対にやだ。」
「………そうか。」
シリルは百蜘蛛のせいで、虫にかなりのトラウマがある。
元々嫌いだった上に、一斉に襲われたのだ。
しょうがないと言えば、しょうがなかった。
そうしてしばらく見てみるも、ランクG自体の依頼が少なかった。
普段であれば、低ランクになればなるほど多いのだが、現在の異常事態が招いた事だった。
だからハドリーは、シリルのランクを本当は上にしたかったのだ。
しばらくああでもない、こうでもないと二人で言い合っていると、受付で何やら揉めている様だった。
「だから頼むって!お願いだって!」
「だから依頼料が足りません!ただでさえ、今は厳戒態勢が敷かれているので、町の外に出るだけでも、最低でもランクE以上の仕事になっています!更にその先、何があるのか分からないんでしょう!?そんな所に、安い報酬では、同行させられません!」
「分かってるって!だからこんなに頼んでんだろ!!金はねえんだ!でも行かなきゃなんねえんだ!頼むって!」
「無理です!信頼の問題なんです!自警団なり騎士団なりにでも頼めばいいじゃないですか!」
「はあ!?おめえらよく知ってんだろ!!あいつらは、ほんっっっとうに動かねえことを!!馬鹿か!?」
「とにかく無理なんです!いい加減にして下さい!!」
一人の若い青年が、受付の青年に食って掛かっていた。
見た目は20代前半。髪の色から判断するに、グラントと同じローティアであろう。
その青年は、無造作に切られた髪の毛、うっすら生えた無精髭、しかも着ている服は汚れ、靴までボロボロだった。
ただその服が特徴的で、土木関係に従事する者達が好んで着る、安くて軽くて丈夫な服だった。
クレアは、彼を見てなんとなくだが、事情が読めた。
土木関係に従事する者は、大概がある程度の金は持っているはずだった。
道を作り、建物を作り、城を作り、城壁を作り、何かあれば整備をする。
彼らは、国の中でも重要な職種だ。
しかも先程も出てきた、カラリダに始まり、魔物や魔獣に襲われる危険性まである。
そのため常に人手不足により、奴隷がメインで働かされるが、自分からやる者達は、しっかりとした報酬を得られる。
知識と経験を得れば、一般人よりもいい暮らしをしている者が多いくらいだ。
しかし彼は、薄汚れた格好なのに、奴隷の首輪はしていない。
クレアは、大方田舎から出てきた出稼ぎだろう、と思ったのだ。
そしてきっと、何かしらの事情があるんだろうなと。
クレアはそう考え、二人の会話に割って入っていった。
「すまないが、少しよろしいか?」
「ああ!?なんだ!?」
「事情を聞かして欲しい。内容次第では、私達がその依頼を受けよう。」
「はあ!?」
「ええ!?」
受付と依頼をしていた二人の青年は、同時に驚く。
受付の青年は、クレアがDランクなのは分かっていたが、最近金獅子の牙のメンバーが亡くなっている事も知っていたため、心配になり大分食い下がったが、クレアの硬い意思に折れ、話が終わったらまた来てくださいとだけ言った。
依頼を頼もうとしていた青年は、依頼を受けてくれそうだが、若い女と仮面を被った怪しいチビだったため、あまり期待はしていないようだった。
とりあえず、ロビーにある椅子に座り、事情を聞くクレア。
「ふん!おめえらと一緒じゃ、どっちみち死んじまうんじゃねえか?」
「これでも私はランクDだ。そして、この子は私よりも強い。」
「っは!どうだか。」
「ふむ……。別に嫌ならこちらとしても、無理に聞く必要はないからな。シリル殿、すまない時間を取らせた。行こう。」
「ん?事情聞かなくていいの?」
「あ!いやいや!待て待て!」
あっさりその場を離れようとするクレアに、慌てる青年。
クレアの手を取ろうとするが、避けられ、頭をかるく叩かれる。
「まず人に物を頼むなら、憎まれ口を叩くな。それと、本当に行きたいなら、きっちり頭を下げて、下手に出ろ。そんなんじゃ、報酬があっても行く気を失くすぞ。」
「………いやあ。おれあ別に――」
「ああ。じゃあ分かった。さよな――」
「ああ!すまん!すいません!ごめんなさい!話を聞いてください!」
はぁ……。とため息をつくクレア。
もっと素直なら、周りの冒険者達の中にも、話を聞いた者がいるかもしれないのに……と考えていた。
「……じゃあ、改めて話を聞こうか。」
「えと、俺………じゃなくて私は【ロキシ村】出身の【レスター】ってもんだ。……じゃねえ、者です。ここには出稼ぎに来てい……ます。」
一回一回詰まるので、口調はもういいと言うクレア。
すまんと平謝りする、レスター。
「私はクレアだ。こちらは、シリル殿。」
「よろしくね!」
「そ……その声。本当にガキかよ?大丈夫か?」
「さっきも言ったが、私より強い。まだ疑うようなら、聞くのを辞めるが?」
「いや、すまん。ただ、心配になっちまってな。」
シリルは別にいいよー。と、特に気にしていなかった。
クレアとしては、シリルが下に見られているのが不服なのだが、どう見ても仮面をした変な子供なので、それはしょうがない事だった。
「まあいい。それで?」
「あ……ああ。村にはな、家族がいるんだが、実は、村が魔獣に襲われたって話があったんだ。」
「ふむ。」
レスターは、先程とは打って変わり、最近起こったことを丁寧に説明した。
村が魔獣に襲われ、かなりの被害が出た。
なんとか全滅はしなかったが、連絡手段がなくなり、村の若い者三人でクアガットまで、なんとか討伐依頼を出しに来ていた。
その時に、その者達から話を聞け、家族は無事、今は皆村の緊急避難場所で、なんとか凌いでいるから多分大丈夫だろう、と言っていた。
その三人は、依頼を受けてくれた冒険者と一緒に、村に帰ったそうで、冒険者達も依頼を達成し、戻って来たとの事だった。
村は基本的に、精霊の加護がある土地に作られることが多く、普段は魔獣や魔物は出ない。
それなのに、魔獣が出た時点で異常事態なので、討伐達成されたとはいえ、不安なのは分かっていた。
「だが、なぜ君が行く必要がある?討伐は終わったんだろう?」
「討伐達成を聞いたのは、もう5日前の話なんだが、今家族と、いや村の者達と連絡が取れねえ。」
「連絡手段がないんじゃなかったのか?」
「討伐達成済みと言われても、不安だったから、俺は
「ソケルが3日も返って来ない……?」
「ああ。それでおかしいと思ってな。最初は調べて欲しい、と言ったんだ。そしたら、一応ギルマスには報告してみるが、まず依頼料が足りない。ただもし調べるとなったとしても、今はそういう調査が出来る冒険者達は出払っていて、数日はかかるだろうと言われた。だから、護衛をお願いして、自分で行こうと思ったんだ。まあ、依頼料は足りなかったんだが。」
「なるほど……。役所にも聞いたのか?」
「聞いたさ!被害報告もなんもねえとこには、行けねえってよ!」
速達鳥は、ソケルという飛ぶのが速く、頭が良い鳥を訓練し、手紙を括り付けた連絡手段だ。
一般人が使える連絡手段の中で、最速だった。
割高ではあるので、普段は金がある者以外は、あまり利用しないのだが、こういった場合に、特に村などだと緊急だと分かり、重宝されている。
場所次第だがこの周辺ならば、大体ソケルはその日か翌日には帰って来るとされる。
だから、今回が異常事態なのだ。
ロキシ村程度なら、下手すれば半日とかからず帰って来るだろう。
それが今日で3日目。
何かあったと考えるのが普通だと思い、しばらく思案するクレア。
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