第3話




 放課後を告げるチャイムが鳴り、私はんーっと伸びをした。ホームルームが終わった直後の教室は、一日の拘束から解き放たれた安堵で満たされていて、騒がしさの中にもゆるやかな気楽さがある。

 私は鏡を取り出して化粧崩れをチェックしがてら、髪型を見直してみた。朝のつのつのは中途半端にへにゃへにゃになっていて、何だかもりもりしている。

「うーん、やっぱ一日はもたないか」

 私が整髪料で髪型を直していると、佐藤と鈴木が近くに寄ってきた。

「ありゃ、牛やめたん?」

「んー。飽きた」

「残念。面白かったのに。じゃあ明日はゆるふわウェーブにしてみてよ。可愛い感じに」

「オッケー。ジミヘンかロッキーのアポロか具志堅用高みたいな頭にしてくればいいのねん」

「それアフロじゃん! 全部アフロじゃーん!!」

 ひとしきり笑い合い、何てことのない話に花を咲かせ、ふたりと校門でじゃあねと別れた。

 私たちは三人とも部活や委員会には入っておらず、学校が終わればあとは帰るだけだ。

 それでも私たちは学校帰りに三人で寄り道をしたことはない。パフェやタピオカを食べに行ったことも、コスメショップやブティックへ行ったことも、カラオケや映画館に寄ったことも、一度としてない。私から誘ったことも、ふたりから誘われたこともない。

 けれどそれくらいの距離感でいいのだろうと思う。私たちは『クラスの友達』ではあっても、根っこの部分で本質的に違うのだ。ふたりはそう思っているだろうし、私もまた同感なのだから。

 「あ、そういえば二人にンガポコのこと聞いてみるの忘れてた」

 ……まいっか。


 その後家に帰り、父親も仕事から帰ってきて、三人で夕食を食べながら『宇宙人はあなたの隣にいる!』というテレビの超常現象特番をみんなで観た。

 私は「ほー」と感心し、父は「ほほーぅ」と驚き、母は「ほほへー」と冷やかす。ほほへーって何だ。

 ゲストのコメンテーターによれば、宇宙人(金星人だか水星人だか)は人間のふりをして生活に溶け込み、我々人類に密やかにメッセージを送り続けているらしい。

 その話の流れから今朝のンガポコを思い出した私は、ふたりにも聞いてみることにした。

「ねえ、ンガポコって何か分かる?」

「何それ? アフリカのどこかにある国?」

 ぽいな。違うけど。

「テトリスみたいなボードゲーム?」

 それはウボンゴ!

「違うよ、母さん。昔『ボンボン坂高校演劇部』っていう漫画があって、そこに女性からモテモテの春日春というキャラがいて(以下聞いてなかった)」

 私がブログを見せて事情を話すと、結局ンガポコはお定まりのイタズラということで落ち着き、それがどういう意味を持つのかはあまり考えられることもなく、番組の終わりごろに父親が冗談半分に言った「案外宇宙人からのメッセージだったりして」というセリフがまとめのように響いて、この話題は終わった。

 父親の言葉がのちにどれほど重要な意味を持つのか、このときの私にはまだ知るよしもなかった。



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