6

「え? いけるんじゃない?」


「えっ」


なんでもないようなニュアンスで零れた予想外の返答に、僕とこずえは硬直した。みづきはみづきで、教科書を鞄から出す手を止め、こちらを不審そうに見上げ、「!?」びくりと身を固める。鞄から取り出しかけていた教科書が彼の手から落ちた。


固まっている僕とこずえを交互に見て、「えっ、な、何……? どうしたの……」本気で怯え始めたみづき。僕はこずえと顔を見合せて「ごめん、昨日きりことも話して、無理そうだねって結論になったから……」僕が取り繕うように告げる。


ホームルームが始まる少し前で、教室はまばらに席が埋まっているーー廊下側最後尾のみづきの席を二人で囲っていると、傍目からは何か穏やかでない状況であるようにも見えそうだ。


昨日遅くまで三人で話してーーというよりも駄弁ってーー結局結論が出ないままなのだった。そもそもなぜ物理的に廊下がないような場所に、廊下のARがあるのか。誰が、どういう目的で作ったのか、単なるシステムの不具合なのか。色々と好奇心が刺激されるところもあるし、折角なのでもし可能ならなんとかして入ってみたいも、入る手段がないーー。


みづきに昨日送った情報のうえに、そんな説明を重ねた上で、今日の放課後にでも、またみづきも加えて四人で話したい、そう彼に提案しようと思い、こずえと二人でみづきの机に訪れたのだがーー意外なところに取っ掛かりが見えたかもしれない。


「み、みづき、してその、みづきならどうやって入るの?」


僕とこずえときりこ、昨日三人で遅くまで話しても結局見えなかった結論。僕の問いに、みづきは「ん、えーっと、あれだよ、なんていうんだっけ」急に答えを求められて口ごもる。


「なんだっけ、てれ、てれ……」


うーん、と考え込んでしまった。てれ、てれ、と謎の言葉を発し始める彼に、「てれ……?」ってなんだ? 僕も困ってしまい、再びこずえの方を見る。とーー。


ーーあ。


ーーの形にちょうど彼の口が開いていくところだった。


「あーー!!」


続いてようやくこずえの口から感嘆の声が漏れる。


「ーーあ~~!! なるほど、あ~~そうか……」


しきりに感嘆の声を漏らしながら、こずえは背後の空席にどかりと腰を下ろした。「思い付かなかった~~!!」本気で悔しそうな声。対するみづきも、そうそう、それ、と、僕だけが一人困惑するままに取り残されてしまう。「おぉい、な、なんだよ……?」困惑している僕に、こずえは悔しそうな表情のまま「テレワークだよ」と答えを口にする。


「テレワーク?……あっ」


なるほど。みづきが言わんとしていることにようやく得心がいって、それから今イメージしている手順が問題ないかどうかを数秒考えて、確かにこれならいけるかもしれない……。


「いや、いける……か……?」


僕がなんとなく不安になって呟くと「いけるだろ、ちょうどほら、テレワーク申請受理されてる奴もいるじゃん。とりあえず試してみようぜ」こずえの言に、二人の視線がこちらに集まる。


――僕か。

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