少女の告白

 私は今とてつもないピンチを迎えている。何故ピンチになっているのか、その理由を説明するのはとても簡単だ。

 人生で初めて男の子を部屋にあげてしまった。

 いくら怪我をしていたからって流石に焦りすぎた、思い返したらそれほど大きな傷があったようにも見えなかったしもし手当てをするとしても軽い怪我程度なら玄関でも出来ただろうに。やってしまった、かんっぜんに失敗した。


 羞恥心から溢れ出る叫び声をどうにか胸に抑えこみながら、ようやく自分の部屋の前に着く。普段なら下着姿でお菓子でも持ってだらしなく通れる扉だが、今は門番としての役割を十二分に発揮していた。自分の部屋の扉がこんなに重く感じるのは過去も未来もこれっきりの経験になるだろう。正直言ってこのまま開けずに放置したいが客人を放っておくわけにもいかない。小さく深呼吸をして決意を固めて勢い良くドアを開ける。


「お、お待たせ、ごめんね、中々消毒液が見つからなくて」


 ぎこちない笑顔で部屋に入るとあからさまに緊張してカチコチになっている男子がいた。

 先程までの勇敢な姿とは打って変わった様子に気が抜けた。なんて言うか、こっちの方が海原くんらしい、彼には失礼だがそう思ってしまった。


「いや、全然っ! むしろ手当てをしてもらってその、本当に申し訳ないっていうか、ありがたいっていうか…………」


「助けてもらったんだから手当てくらい当然でしょ? それにお礼をちゃんとしてなかったから……ってどうしたの?」


 今度は何かに驚いたように目を丸くしている彼に質問を投げかける。すると、彼は少し言いづらそうに、


「いや、何か思ってたより明るいなって思って、いつもクラスではクールに振舞ってたから、その……ギャップって言うのかな、驚いちゃって」


「そ、そうなんだ」


 明るい。その言葉に今度はこちらが目を丸くすることになった。私が明るいだなんて言われたのは何年ぶりだろうか。もしかしたら、彼の前いる私は音を気にせず素の私になれるのかもしれない。そんなあくまで可能性の話に少しだけ心をときめかせていた私に、海原くんはとある質問をした。


「こんなこと聞いていいのか分からないけど、さっきナンパされたときに助けを求めなかったのって……なにか理由があるの? その、答えたくないならそれでもいいんだけど………」


 普通の人なら何とでも答えられるのだろうが、私にとってはどう答えればいいのか悩みどころな質問だった。もしここで、


 私は人の心の音が聞こえるんだ。なんてほざこうものなら完全にヤバい奴だと思われてしまう。かと言って、人と接するのは嫌い。とか言ったら今後会話してもらえなくなる。折角音を気にせず会話出来る人を見つけられたのにそれは勿体ない。何か上手いこと核心に触れることなく回避することは出来ないものか。そう思い始めて約五分、何も言わなくなった私に慌て始めた海原くん、それでも沈黙を続ける私。

 えぇい、悩んでいても仕方がない。思ったことを話そう、そう、もしそれで引かれたとしても仕方がない。本日二度目の決意を固めて私は口を開いた。


「も、もし私が人の心の音が聞こえるって言って信じられる?」

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