久しぶりの音

 私は走った、ひたすらに、脇目も振らずに、他人からの視線なんて気にならないくらいに。そして、ようやく先程のゲームセンターに着いた、が、そこに彼の姿はなく何事も無かったかのように店内が賑わっているだけだった。


「(…………どこ? どこにいるの?)」


 連れていかれそうになった路地裏を覗いても姿は見えず、音もしない。まさかどこか遠くに連れていかれたのだろうか? もしそうだとしたら何に頼ればいいのだろう? 警察? それとも先生? 不安と焦りだけが頭の中を回っているが、止めることは出来ない。いいや、してはいけない。今まで人を突き放してきた私をそれでも、と手を差し伸べてくれた人を蔑ろにしてはならない。どこかに何か痕跡でもないものだろうか、ほんの少しの痕跡でいい、どんなに苦労しても彼の安否が分かるのなら――――


「いてて………あ、藤城さんだ、大丈夫だった?」


 普通にいた。どこから沸いたのか分からないくらい唐突に現れた。おかげで、心の中で渦巻いていた感情は消えてなくなってしまった。


「あ、藤城さんだ、大丈夫だった? じゃないでしょ!? 怪我は? どこか殴られてない? お金は盗られた? ねぇ!?」


 代わりに込み上げてきたのは無駄な心配をしてしまったことによる怒りと一人だけで危険な行為に及んだことに対する怒りだった。


「わぁ!? そ、そんなに怒らないでよ何せ無計画だったんだから綺麗に助けることは出来なかったけどさ」


「そうじゃなぁい!! あぁもう! 怪我はどうなの!?」


「え、えぇっと腕に擦り傷が一つと――――」


「ちょっと付き合ってもらうわよ! 行き先は私の家! することは怪我の手当! いい!?」


「これくらいの怪我だったら自分でも………いや、お言葉に甘えさせて戴きます、はい」


 そうして、私は人生で初めて男の子を我が家にあげることになったのだった。

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