変わった音
放課後、僕は急いで校門へ向かう。今日は部活がなかったから……というか普段からそんなにないんだけどね。まぁ、それは置いておいて、最近の僕はある人と帰るのが日課となっていた。その人………もとい彼女はとても不思議な人で、中学の二年生辺りの頃に一週間だったか二週間だったか……、とにかく長い間欠席をしたかと思うと突然周りの人を引き離すように避け始めた。いや、避けるというのはまだマシな方だと思う。突き放す、と言った方が正しいかもしれない。ずっと仲が良かった女子にも容赦がなかった、むしろその女子には他の人より辛辣だったようにすら見えた。
当時から僕は人と話すのが苦手で特定の人としか話をしなかった。いわゆるコミュ障というやつだ。だから、挨拶はもちろん必要以上の会話をすることも無かった。きっと向こうからしてもその頃は記憶の片隅にも残らないような存在だっただろう。
そして時は変わって高校生、陰で僕を馬鹿にしていた奴らを見返すために僕は猛勉強して難関校に合格していた。
なんてことは一切なかった。そもそも僕を陰で馬鹿にしてくるようなやつはいなかったし、むしろクラスの輪に入れてくれるような人が多かったまである。
そんな感じで特別成績が良かったわけでもないので、同じ中学校の奴らも数人通うような可もなく不可もなくと言った学校へ入学した。そこで同じクラスになったのが藤城さんだ。高校でキャラを入れ替えようと一念発起して、多少―――本当に僅かに自分から喋れるようになった僕だったが、一方その頃藤城さんはというと彼女の美人で静かな雰囲気が男子達の心にストライクど真ん中だったらしく、彼女の周りにはちょっとした人だかりが出来ていた。我先にお知り合いになろうと集う男子、それを片っ端から切り捨てる藤城さん。そんな光景を見ながら新しく出来た友達と会話しているとちょっとしたことが分かってきた。それは行動が激しい、もとい感情が昂っている感じの人に対しては目に見えて不快な顔をする、ということだ。だからどうした、という話だし当時のボクも発見しただけで何か変わるわけでもなかった。というかあの時の僕ってキモくないか………?
時は更に移り変わり入学式から数日後。僕はゲームセンターにいた、欲しいフィギュアがあったとかやりたいゲームがあるだとか、そういう訳ではなく友達に着いてきただけだった。それが幸運だったのか、はたまた悪運だったのか、ゲームセンターの入口辺りで不良っぽい感じの人に絡まれている藤城さんを見つけた。あからさまにヤバい見た目をしている不良と容姿端麗な藤城さん。どこからどう見てもナンパで済みそうにはない。だが、多少明るくなったとはいえ相変わらず気の弱い僕は眺めるだけで行動しようと思わなかった。
―――どうせ誰かが助けるだろうし、
―――もし何かあってもきっと警察とかが来て解決するだろうし、
―――だって僕みたいな奴に助けられても迷惑だろうし、
どうせ、きっと、だって。
軟弱な否定に塗れながら気づく。
藤城さんは誰にも視線を向けていないことに、
声を出して助けを求めていないことに、
まるで――――
誰かに助けられることを望んでいないかのように。
ダメだろ、そんなの。何があったのかは知らないし、助けられることが嫌なのかもしれない。それに友達でもない僕が助ける義理も義務もない。
でも、
だけど、
それなら、
助けちゃいけないなんて道理だってないハズだ。
そう思った時には自然と足が入口に向かっていた。
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