音が聞こえる女の子は気難しい

アイスティー

憂鬱、そして隣の彼

 昼休みに隣のクラスの男子に呼び出される。あぁ、言わなくても大体分かる。そんなにウキウキとした曲を流されたら誰だって分かる。全く………こっちの気分も知らないで………。


「音波さん、好きです! 付き合って下さい!!」


 曲が消えない、まるでフラれることを考えていないようだ。まぁ、大勢の人が見ている中で堂々と「ごめんなさい」が出来る女子は少ないだろう。果たしてそれを狙ったゲス野郎なのかはさて置き……


「ごめんなさい、私はあなたと付き合うつもりはありません」


 ―――ガガーン!!!


 ピアノの鍵盤を乱暴に叩いたような音がした。聞き慣れた音だし、直接耳から聞こえている訳でもないけれど、爆音とも言い換えられるほどの騒音に思わず耳を塞いでしまう。そんな私を傍目に、告白した当の本人はへたり、と床に崩れて泣き始めていた。


 ま、まずい……



 ――――再び別の曲が流れ始める、今度は弦楽器だろうか? とにかくそれらの何かで弾いた短調の曲だ。それに合わせてクラスメイトの性格を表したような曲が流れる、同情するかのような短調、フラれたのが面白かったのか陰湿な長調、それぞれの個性が出ていて本当にうるさい。


「それじゃ」


 そろそろ耳と視線が痛くなってきたので、素っ気ない挨拶をしてから立ち去ることにした。


 そんなこんなで一日が終わり、部活動が盛んになる放課後に時間が移り変わる。ここで一度、私の自己紹介をしておこう。


 名前は藤城とうじょう 音波おとは、自分で言うのもアレだがスタイルは良いし顔も悪くはないと思っている。○○県△△市にある渡辺わたべ高校に通う二年生、部活動には入っていない、大抵の成績は平均より上だが、音楽と体育は例外だ。音楽の授業は耳から入ってくる曲と頭に響く音が混ざり雑音にしか聞こえないせいで欠席がち。体育はとにかく男子がうるさい、女子に良いところを見せたいのか、仲間同士で戯れるのがそんなに楽しいのかは知らないが情熱的な音楽がワチャワチャと聞こえてくるのが嫌だ。あぁ、決して運動が苦手だからではない。


 さて、ここまで話して一体何を抜かしているんだ? コイツは? と思っている人が大多数だろう、私もそう思う。でも聞こえてくるのだからしょうがない。

 私は頭の中で気分に合った音楽や効果音が聞こえる。だが、私の気分ではなく、私に対して何らかの感情を持った人、及びその周りにいる人の感情に合わせた音だ。だから私の気分は関係なく、無遠慮に雑音をかき鳴らされる。こんな性質が発生したのは中学の二年生辺りだったか、最初は訳も分からず聞こえてくる騒音で体調を崩して一週間学校を休み、相手の感情に合った音が聞こえると分かって、ショックの大きさから再び一週間学校を休んだ。幼稚園からの親友だと思っていた女子とは縁を切り、優しかった担任の先生の本心を知り、失望という感情を覚えた。


 ………悪い点しか挙げていないが、良かったこともある。例えば下心丸出しの男子に気づくことが出来たり、仲良くするつもりが微塵もない女子から離れることが出来る。勿論、下心がない純粋な男子もいるし、ただ仲良くしようとしてくれる女子もいる。だが、ひたすらにうるさい。もし私が人を好きになるのなら、それはきっと感情がない人だろう。常に頭の中で騒音が鳴り続けるなんて想像しただけでも吐き気がする。


 さて、話を現在に戻そう。私は今、リュックサックを背負って校門前である人を待っていた。


「やぁ、藤城さん」


 控えめな音楽と共に眼鏡をかけた少しハネたセミロングが特徴的な男子が現れた。


 相も変わらず小さい音だ。これでは聞こえていないのも同義だろう。まぁ、仲良く出来ているわけだが。


 彼は海原かいばら たける、中学校からの付き合いで、名前に似合わず良い意味でも悪い意味でも慎重な男子だ。その性格のせいか、話したりしても気にするほど大きな音は流れない。私との会話が弾む人数少ない一人だ。そんな猛とは彼の部活がないときに一緒に帰っている。約束したわけではないがいつからかそうなっていた。ちなみに猛の所属する部活とはゲーム部である。不定期に部活動があり、その度に申し訳なさそうに連絡してくる。


 さて、今日は何を話そうか。また告白された話でもいいし、この前の休日に見つけたオシャレなカフェの話でもいいかも知れない。

 彼の隣を歩く私の頭には小さく、そして控えめに楽しげな音楽が流れていた。


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