あまぞら

津久美 とら

令和元年

 紺色に浸っていました。

 紺色には、たくさんの色が散りばめられていました。白、青、緑、桃、赤、黄。本当はもっとたくさんの色があるのですが、今回はこの色たちでした。

 私はそこで、一年眠り続けました。今日この日のために、すやすやと眠り続けました。紺色に浸り、たくさんの色を纏い、一年眠っていました。紺色もほかの色たちも、甘く優しく温かく、安心して一年眠ることができました。


 目が覚めたのはついさっきです。おはようございます。さあ、急いで仕度をしなければいけません。

 一年ぶりに目を覚ました私の慌てぶりを見兼ねてか、色たちが手助けをしてくれます。実はこれは毎年のことです。


 ますは青色でからだを清めます。せっかちな青色は丁寧に、でも手早く私を清めてくれます。あまりにせっかちなものだから、私のからだには少しだけ青色が残ってしまいました。けれど程よく温かく冷たい青色は、とても心地の良いものです。


 次は白色。ぽんぽん、ぱたぱたと私のからだを走りまわって、青色の残りを連れて行ってくれました。白色の走ったあとにはは小さなきらきらが残ります。細かな細かな粒のそれは、私のおしろいになりました。


 髪の毛は緑色の十八番です。かかとより長い私の真っ黒な髪の毛を、丁寧に美しく、そしてやっぱり手早く結ってくれました。緑色の手にかかれば、つやつやとした結い髪があっという間にでき上がるのです。


 着物は桃色と赤色と黄色が手助けしてくれました。桃色の着物に赤色の帯。黄色は羽衣です。それぞれに淡く薄く、私が動くとしゅるしゅると小気味いい声を返してくれます。


 赤色と桃色は、お化粧の手助けもしてくれます。赤色が目尻と唇をするりと滑り、桃色が瞼と頬をふわふわと跳ねました。


 もうすぐ日の入りです。待ち合わせ場所はすぐそこです。私はわくわくしてしまって、歩くのが少しだけ早くなります。実はこれも、毎年のことです。

 待ち合わせ場所に着いたのは、ちょっと息が切れてきたころでした。


 今年もその川は銀色にごうごうと美しく、その向こうにはあの方が立っていました。一年ぶりのその川もあの方も、何一つ変わっていませんでした。

 そのことに私はほっとして、とても嬉しくなるのです。嬉しい気持ちのままだから、嬉しい声が跳ねました。


「こんばんは」


 こんばんは、彦星さま。

 跳ねる声と舞う足取りで、天の川を渡るのです。

 七月七日。今日は一年に一度だけ、私とあの方が会える日です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あまぞら 津久美 とら @t_tora_t

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ