第2話 視えるもの

その少女は、水溜のなかに確かに見えた。


はっきり言おう。僕の目の錯覚などでは無い。誰かが上にいるとか、そんなんじゃ無い。


「君、迷ったの?」


その声は確かに聞こえた。水溜をとおしてしか見えないが、声だけははっきりと聞こえた。


「え、、、

君、水溜の中にいるの?」


見る限り、水溜は深くはない。入るにしても無理だ。


「あのね、私の身体は、今は此処を通して見えるのよ。雨が降ってる時には外に出られるんだけど、強すぎても見え過ぎて周りの人を驚かせてしまうのよ。だから、今は此処にいるの。」


今でも充分驚いてますけど。


「君、名前は?」


少女が聞いてきた。


「僕は蓮也。この街に住んでるんだ。君は?」


「私は五月雨。5月くらいにしか出れないから、みんなからそう言われてる。」


彼女は笑いながら言った。


—————————————————


雨が降り続く中、2人は木の下にあった、あまり濡れていないベンチに傘を差しながら座った。


すると、彼女がこんな話をしてくれた。


「元々、私は人間だったんだけど、実は学校に行けなくて、家に引きこもってばかりいたのよ。その後、私はこの道で自殺したのよ。だけど、上手く成仏出来なくって。未だにここに居座っているのよ。」


「そういう事なんだね…

人間時代は辛かったよね…」


「大体、虐める人間なんてただの屑よ。人に欠点の一つや二つ位、あったっていいじゃない。」


五月雨は口を尖らせながら話す。


この街での虐め被害は、日本の中でトップクラスらしい。もっとも、街の名前に葛ってついてるし、屑ノ宮なんて言われても違和感は無い。


いつかこんなくだらない街から抜け出せれば、と何度思った事か。


最近でも、5人の少年らが自殺したとかいうニュースもやっていた。教育委員会は何をしているのか。


「兎に角、悩みを言えてスッキリだわ。話に付き合ってくれてありがとうね。」


「なら良かった。」


「私は雨の時に居るから、また何時でも来てね。」


「うん。ありがとう。」


その後、帰り道を教えて貰い、僕は無事に自宅に帰ることが出来た。


既に雨は止んでいた。

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雨の通り道 雪見 @Aria1545

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