禁じられたトケル

 家族会議が招集された。

 参加者はカタメの父、カタメの母、カタメ、そしてトケルである。

 場所は八夕町はちゆうちょう唯一のミシュランラン五つ星レストラン、『ポキポキ』。


「ちょっと、あなた。そのT-ボーンステーキ、わたしにも切り分けてくださいな」

「母さん、自分の分注文すればよかったのに」

「あ、カタメくん、お母さん、このグリーンピースのスープ、最高においしいよ!」

「おまえらなあ・・・」


 カタメの父親はさすがに海外の文化にも触れる商社勤めの社会人でいい大人なのでレストランでちゃぶ台をひっくり返すようなマネは決してしなかったが、はらわたはおそらく煮えくり返っていただろう。


「まずはふたりの関係を今一度説明してもらおうか」

「彼氏・彼女です」

「・・・・・」

「カタメ。無言だということは同意しているとみなすが、いいのか?」

「・・・はい、父さん」

「そうか・・・で? 問題はなぜふたりが恋人同士になったかだ」


 その時突然店内にスティービー・ワンダーの『迷信』が流れはじめた。


「あら、これってずっと昔の『お笑い花月劇場』のテレビ放送の時開幕前に流れるテーマ曲ね」

「母さん!」


 カタメの父親が初めて大きい声を出した。


「母さんも母さんだ。僕の海外出張先にやってくるってことはこのふたりがふたりっきりになって暮らすことだと分かりきってだだろう。つまり同棲だと!」

「異議あり!・・・ます」


 トケルも突然大声を出し、店のスタッフから嫌な目で見られた。トケルはまったく気遣いもせずに異議を述べ続ける。


「わたしとカタメくんは愛し合ってる!・・・んです。だからふたりきりで過ごしたってなにが悪い!・・・と思います。ガタガタ言うなっ!・・・いえ、おっしゃらないでください。頭カタいぞっ!・・・いえいえ、随分とお考えがお堅いようでございます」

「トケルさんと言ったね?です、ます、ございますを語尾につければなんでも許されるってもんじゃないよ!」

「わかってる!・・・のでございます」

「あんたなあ・・・」


 呆れるカタメの父にカタメはけれどもトケルの援護射撃をする。


「父さん、俺は本気なんだ。決していい加減な気持ちでトケルさんと付き合ってるんじゃないんだ」

「付き合うことがダメとは言わない。ただ、あまりにもふざけてて『クソが!』という気分だ。あ、私の情緒が不安定な訳では、決してない!」


 カタメの父親は言い訳をしながらTボーンステーキを器用に切り分けながら、咀嚼し呑み込み、それからワインも飲んでその上に、タン、とワイングラスをテーブルに音を立てて置いた。


「ということで、トケルさん。悪いが出て行ってくれないか」

「あなた!」

「父さん!」

「お義父とうさん!」

「キミの義父さんじゃない!」


 カタメもトケルをなんとかフォローしようとはするのだがトケルがそれを超える反応をするので効果は薄かった。


 カタメの母親が言った。


「あなた。トケルさんはマンションがもう耐震工事を開始しているのよ。行き場がないのよ」

「ならば、家庭内別居だ」

「え?」

「え?」

「ふむう・・・追い出されるよりはマシですね」


 トケルは丸い俵型のハンバーグにナイフを入れた。

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