角砂糖・白と茶とトケル色と

 甘いフレーバーの入ったオリジナルブレンドに更に角砂糖を入れる。

 角の取れたダイスのような白と茶の角砂糖が2個ずつ、計4個、小さな木のトレーに乗せられていて、やっぱり木製のスプーンで掬って少し大きめのマグカップに淹れられたブレンドに、ほんのちょっとだけ温度が下がったところで全部入れる。


 トケルはそれをくるくるとかき混ぜる。


「全部トけないぐらいがおいしんだよ、カタメくん」


 ファッションビルの最上階にある書店に併設されたカフェで同じフレーバーの香りを嗅ぎながら、ほうっ、と吐息を同じように吐くふたり。


 絵に描いたような恋人たちのひと時。

 今日は午前中授業を休んでカタメの母親から仰せつかった用事をふたりで終えて、昼食をこのカフェで楽しんでいるのだ。


「トケルさん。トーストだけで足りる?」

「うん。充分。バターと柚子ジャムを乗っけて食べれば体も脳も満たされるよ」


 カタメも満足だった。

 思いがけず平日の朝からトケルと一緒にお出かけしてカフェでくつろいでいるのだから。カタメはこうも言ってみた。


「午後も休みにしたいなあ」

「チチチチ。カタメく〜ん。わたしたちは学生だよ? 勉強が本分ですから」

「うん・・・でも、今日はありがとうね。母さんの用事に付き合ってもらって」

「いいよ、お母さんのためだもん。でも、大丈夫なの?」

「ずっと前も行ったことあるから大丈夫だと思うけど・・・」


 カタメとトケルがこのファッションビルに来たのはパスポートの更新センターがあり、海外生活支援のショップがいくつかあるからだった。カタメの父親の出張が長期化するという連絡が入り、母親が現地へ行くことにしたのだ。母親は今日も国際免許の手続き等慌ただしく準備をしているので、トケルとカタメが母親の用事を代わりに同時並行でやっている。


 そしてカタメは当然のことと分かっていながら、けれども自分からその話題をトケルに切り出すのはやっぱり恥ずかしかった。

 だがその恥ずかしさを打ち破るようにトケルの方から振ってきた。


「カタメくん。ふたりになっちゃうね」

「う、うん・・・」


 即座にカタメは分かった。同時に軽く失望した。


 トケルの言った『ふたり』は2人きりになることのときめきの意味ではなくて、ふたりで寂しい生活になってしまうねという色恋沙汰のニュアンスが排除された言い回しだった。


 だから、カタメは改めて切り出そうと思った。


「ふ、2人きりだね・・・」

「ん? そうだね。2人きりだね」


 そのセリフの後に、「だから?」とは言われなかったのでまだカタメは救われた思いだったが、本当にトケルがそういう意識がないのかあるのか全く読めなかった。


「お母さん、出発はいつ?」

「来週の月曜」

「そっか・・・じゃあ送別会しないとね」

「う、うん・・・ト、トケルさん」

「なあに?」

「その・・・男と2人きりで暮らすのって、平気なの?」

「? 平気って?」

「いや・・・だって。俺、男だよ?」

「??? 当然だよね」

「いいの?」

「???カタメくん、男の子やめるの?」

「いやっ! そうじゃなくて・・・ああ、なんて言えばいいんだ・・・」

「もしかしてカタメくん、何か悩み事?」


 トケルさんのそういう所が悩みなんだ、などとはカタメは言い出せなかった。


 ただ、トケルの方から言ってきた。


「もしかして、わたしと何かしたいの?」


 カタメは背中に、ガン、という衝撃が走った。

 トケルは合点しているのか・・・


 そう思ってカタメはストレートに言った。


「したい」


 トケルはまっすぐにカタメを見つめた。


 そしてカタメに訊いた。


「それって、何を?」


 天、然・・・・

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