模試で脳がトケル〜!
異性の家への家庭訪問、愛の鐘(和鐘ですが)、海、タンカー(?)、クマ、カフェ、バスケ、フリマ、図書館で雨宿り、お泊り、再度クマ、愛のブレスト、納涼祭、ソーメン・・・
数々のラブコメと夏のアイテムを制覇してきたトケルとカタメたちに教師は冷徹に言い放った。
「君たちは学生です」
「はい」
某予備校とタイアップして開催される全国一斉模試。今その解答用紙がトケルとカタメの教室に配布された。
「では・・・始め!」
一斉に回答用紙に書き込んでいく生徒たち。だが1分としない内に不平不満が口をついて出た。
「先生・・・暑いです」
「そうだな」
「なんでエアコンが故障してるんですか?」
「寿命だろうな」
「先生、扇風機は?」
「ない」
「じゃあせめて扇子を」
「ダメだ。去年の模試で化学式全てを書き込んだ扇子を持ち込んで『デザインなんです』と卒業まで主張し続けた生徒がいたので禁止された」
「う、団扇なら・・・」
「同じことだ」
「こ、氷の持込を認めていただけませんか?」
「ダメだ。某社は原稿の持込も受け付けないからな」
「先生、何言ってるんですか?」
「す、すまん。こっちの話だ」
教室の空気が険悪を極めた。暑さも加速した。
「溶かしましょうか」
「!」
「!」
「!」
「!!」
「トケルくん、是非頼む!」
「でも先生。代償は高くつくかもしれませんよ」
「構わない! この暑さを溶かしてくれるのならみんなトケルくんに感謝するだろう!」
トケルの異能力は数々の実績がある。
ただ、カタメは心配していた。
『天然のトケルさんだ・・・溶かし方があさっての方向か、溶かす対象があさってのものだったりしたら、どうする?』
カタメは更に懸念する。
『教室は殺気だっている。もしここでトケルさんが失敗したら・・・苛立ちの矛先がトケルさんに向かうだろう』
「トケルさん、大丈夫?」
「ありがとうカタメくん。わたしを信じて?」
カタメはトケルの異能力や人格や誠実さを当然に信じていた。ただ問題なのは、まるで二重人格のように飛び出してくる天然トケルの方だ。
「さ。問題を解く時間が惜しいから今すぐやります。みんな、ココロに念じて」
トケルは全員に瞑想するよう命じた。
「「「溶けろ!」」」
全員の声が心の中で揃った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ええと・・・何が溶けたのかな?」
「先生、あのですね・・・」
トケルが答えようとすると、
「待った! 今当てるから!」
「・・・はあ?」
全員で教室を見渡し『間違い探し』のような推理が始まる。
「うーん。暑いと思う精神!」
「心頭滅却・・・違います」
「アイスコーヒーにガムシロップが溶けた!」
「甘くなるだけ・・・違います」
「南極の氷山の一角!」
「わたしはサイキック戦士ではありません。しかも氷が溶けるのは温度が上がるから。違います」
様々な回答が繰り出された。
だがどれも決め手がなかった。
「カタメ」
「そうだ、カタメだよ」
「うん、カタメくんがいるよ」
教室のあちこちからカタメに対する静かなコールが始まる。
ネロータが言った。
「カタメ。お前が一番トケルを理解してる。キメてくれ!」
トケルもカタメに語り掛ける。
「カタメくん」
「う、うん」
「カタメくんは夏の間ずっとわたしと一緒にいてくれた」
「うん・・・」
「お願い。言い当てて」
「・・・・・・分かった。トケルさんが溶かしたのは・・・」
カタメは静寂に浸る。
カタメの静けさに合わせて教室中がピン1本落としただけでも気づくぐらいの無音になる(なぜ『ピン1本』の比喩をするのか不明だが)。
閉じていた目をそっと開けるカタメ。
静かに、丁寧に、発音した。
「僕の、ココロ」
トケルが目を見開く。
そしてゆっくりと唇を動かした。
「正解!」
「ちょ、ちょっとちょっと!」
ロカビーが待ったをかける。
「カタメくんがトケルちゃんを深く理解してるのはよく分かったよ。それに『僕の、ココロ』なんてラブコメの最終回近くで一番盛り上がるステキなセリフだとも思うよ。だけど」
視線、一閃。
「だからなんなの?」
ロカビーの静かな問いにトケルが感情を揺らさずに冷静に答える。
「恥ずかしくて寒くなったでしょ?」
「逆! 照れくさくて顔が火照って熱いわよっ!」
そしてこのタイミングで教師は言わざるを得なかった。
「終わりだ」
「え・・・先生、何がですか」
「試験時間が、たった今、終了した。全員解答不能だ」
「そ、そんな・・・なんとかしてください!」
「無理だ」
「どうしてですか!」
「全国一斉だからな。この教室だけ全員無得点に終わった」
いやはや・・・ラブコメラブコメ。
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