あなたのラブコメは小説派? 漫画派? アニメ派? それともトケル派?
「えへん」
トケルがカタメに示したのはスマホの日記アプリ。躊躇しながらカタメはトケルに訊く。
「読んで、いいの?」
「どうぞどうぞ」
アプリのカレンダーをタップする。
・・・・・
7月x日
カタメくんと海へ。
飛び込んだらタンカーが。
カタメくんがわたしの足首ニギニギしてブースト。
うーん、ラブコメ。
・・・・・
7月x日
クマ違いでカタメくんにぎゅう、ってされた。
いやはやラブコメ。
・・・・・・
7月x日
台風でカタメくんが初お泊り。
ペンギンさんとイルカさんとカタメくんならやっぱりカタメくんかな。
ラブコメラブコメ。
・・・・・・・
カタメはカフェの窓際カウンター席でトケルと並んで座っていたのだが、スマホの画面が他人に見えるはずはないのに思わず周囲をキョロキョロ見渡して赤面した。
『トケルさんはやっぱり俺のこと・・・』
だがトケルが微妙なコール&レスポンスを始める。
「どう? わたしの『ラブコメ日記』」
「え」
「ラブコメ日記」
「どう・・・って。え?」
「ほらあ。みんなで夏を楽しんでるライブ感をね、後で振り返りたいじゃない? だからラブコメ日記でみんなとの思い出を残しておこうと思って」
「みんなとの・・・?」
カタメは自分を落ち着かせた。
そして夏の記憶を辿る。
「ちょ、ちょっと、別の日の日記見せて!」
「どうぞどうぞ」
・・・・・・
7月x日
カタメくん、初のわが家来訪。ほかにロカビーちゃん、ネロータちゃん、カタギリーくんも初来訪。
全員でアイスコーヒーのグラスに顔を近づけ合ってわたしが溶かした。
ああ・・・みんななんてラブコメっぽいの。
・・・・・
7月x日
みんなでフルーツバスケット。
ロカビーちゃん:いちご、ぶどう、バナナ
ネロータちゃん:桃、イチヂク、スイカ
カタギリーくん:キウイ、みかん、ドラゴンフルーツ(!)
わたし:木苺、さくらんぼ、アンズ
うーん、ラブコメここに極まれり!・・・・
そこまで読んでカタメは頭を抱えた。再度トケルに確認する。
「あの・・・この日記の意図は?」
「みんなとの夏の思い出」
「みんなとの?」
「うん。そう」
「どうして『ラブコメ』?」
「えー。だってカタメくん、見て見て?」
トケルはスマホをスワイプして、ト・ト・トといくつものアカウントを見せる。
「ほらあ。アニメ、映画、漫画、小説。わたし『青春』てタグで検索してみたんだけどそしたらさあ。『昭和の青春』とか『あなたが乙女だった時代の青春』とかそんなんばっかりでさ」
「う・・・うん?」
「アニメとか漫画のコンテンツは青春を通り越していきなり『ダンジョン』とか『魔王』とか『勇者』まで分類が飛んじゃうし。小説にしてもね、ほら見て?」
カタメは小説のジャンル分けを、ざっ、と一覧する。
・異世界ファンタジー
・異世界転生
・現代ファンタジー
・SF
・ホラー
・ミステリ
「確かに、『青春』がない・・・」
「でしょ? だから一番近い概念が『恋愛』か『ラブコメ』なんだけど、まさか『恋愛』に分類するわけにもいかないから消去法で『ラブコメ』かな、と」
「ごめん。じゃあトケルさんの『ラブコメ』の定義って?」
「みんなで楽しくワイワイ思い出づくり」
「ええと・・・みんなで?」
「うん。ワイワイ」
ああ・・・、とカタメは絶望した。
『俺とトケルさんのラブコメは成立してない!』
「じゃあ・・・」
「どうしたの? 元気ないよ、カタメくん?」
「ちょっと夏バテかな・・・」
「ダメだよー若いんだから。元気出して。はい!」
別れ際、ぱあん、とカタメの背中をはたくトケル。
状況はラブコメ。
でもそこにラブはないのか。
単なるコメディなのか、俺たちは。
そう落ち込みながらカタメは帰った。
・・・・・ただ、フルーツバスケットの日の日記には最後にこう書かれていた。
『カタメくんの好きな果物訊き忘れちゃった! せっかく『フルーツ恋愛占い』でわたしとの相性診断しようと思ったのに・・・残念!♡』
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