トケルように静寂な図書館
珍しくトケルと一緒でないカタメは久し振りに図書館に来て夏休みの課題テキストなんかを黙々と解いていた。
閉館を告げるサティのジムノペディが館内に静かに流れる。
気がつくと、土砂降り。
駅前のファッションビルの5Fワンフロアーを使った図書館の窓の外に、さあっ、という音がしたのだが、傘を持っていなくてもカタメは意外に冷静な反応だった。
慌てずにゆっくりと勉強道具を片付けて1Fのエントランスに降りる。自動ドアをくぐり、ビルのファサードの下でコンクリートに砕け散る雨粒を前髪でいくつも受け止めた。
「上がるまで待つか・・・」
ふと、隣を見る。
あ、とカタメは息を呑んだ。
トケルが、立っていた。
音符が描かれたトートバッグを掌を重ねてぶら下げて。
そして真横から見るまつげの先に、やっぱり砕け散った雨粒がガラスの結晶のように散りばめられていた。
ぼうっ、と明るい夏の夕立の中の陽光で照らされる頰のうぶ毛までがきらめいて見える。
声を掛けるのがもったいなかった。
ずっとずっと、見知らぬ同士のままだったとしてもいいから、この少女の横顔をただ見つめていたい。
カタメがそういうココロを抱いた時、ほんとうに静かな動きでトケルが顔をカタメの方に向けた。
見つめ合うふたり。
いたの? でも、やあ、でもなく、無言で目を自然に開いたまま相手の瞳を見つめる。
カタメは思い出していた。
見つめる瞳の緑がかった黒をした瞳孔の奥に満月が見えたんだという小説のワンシーンを。
トケルの瞳にもそれが見えるのだろうかと考えるカタメと同じ思考ではないかというくらいにトケルもカタメの瞳の奥を深く射抜く。
雲のズレが静寂を破った。
閃光のように降り下ろされる陽光。
差し込まれた頰のその部分がピンポイントで熱を持つ。
「カタメくん。帰ろっか」
「うん。帰ろう」
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