トケル DE バスケ

 バスケをしようなどと言うから話がややこしくなった。ただ今回の発端はトケルではなく女子バスケ部キャプテンの遠藤だったということが余計にややこしさを増幅させていた。


『動画撮りたいからバスケ付き合って〜』


 そう言って昨日の夜クラスの不特定多数に遠藤から電話連絡があったのだ。

 集合場所は市営体育館。因みにトケルたちの通う県立 八夕はちゆう高校のバスケ部は例年市の予選で敗退している。


「いやー、夏休みおくつろぎのところ、みんなありがとねー」

「暇だからいーけど」

「遠藤さん、動画ってバスケ部の練習をわたしたちがサポートするってこと? それを動画に撮ってフォームとかフォーメーションのチェックしたりとか?」

「ねえねえ。そこに置いてあるパイプ椅子って何に使うの? もしかして踏み台にしてダンクの練習とか?」

「違う違う。ごめん、みんな勘違いしてるよ。今日やるのはバスケはバスケでも・・・」


 遠藤が微妙な競技名を告げた。


「フルーツ・バスケ」


「・・・・・・・・・・え?」

「いやだから、フルーツ・バスケ」

「遠藤さん。それってもしかして『フルーツ・バスケット』って言いたいの?」

「あ、そうそうそれ! さすがトケルさん、学識あるぅ〜!」


 いわゆる椅子取りゲームの一種類だ。


「なんで?」

「ん? 『大会』に出たいから。そして、ジャン! これよ!」


 遠藤がスマホを掲げるとみんなが輪になって集まってきた。


『青春フルーツバスケット大会開催!』


「でね。予選の代わりに参加グループでデモ動画撮影して投稿するの。身体能力はもちろんのことルックスとか・・・」

「ルックス?」

「そうだよ、カタメくん。決勝ラウンドはテレビ番組の1コーナーで放映されるから。で、1グループ5人。実際にイス取りするのが5人でサブメンバーは何人いてもいいんだけどね」

「今12人いるけど」

「うん。一応全員で参加して優勝を勝ち取ろー! その前に予選通過しよー!」


 かなり強引だが青春ぽい思い出が夏にはいくつあってもいいだろう。だが思わぬ難問に行き当たった。


「では、フルーツの種類を決めます」

「遠藤さん。いちご、ブドウ、バナナって決まってるんじゃないの?」

「はあ? ロカビー何言ってんの。桃、イチジク、スイカ、だろ?」

「ネロータさん、のいのい。キウイ、みかん、ドラゴンフルーツだおいおい。スイカは野菜だおいおい」

「ちょっと待って、カタギリーくん。ドラゴンフルーツ? ニッチすぎでしょ? せめてドリアンとか」

「うわ。匂いが独特すぎるよ、トケルさん。ていうか、俺、トケルさんの好きなフルーツ知りたいんだけど」

「え」


 カタメの手によって突如ラブコメがぶっ込まれた。


「えと。木苺、さくらんぼ、アンズ、かな・・・」

『ト、トケルさん、かわいい・・・』


 とにかくもフルーツを決めてスタートすることになった。


「えーと、ブドウ!」

「はいぃ!」


 ガタガタガタ。


「じゃあ・・・・メロン、スイカ!」

「わーわー!」


 ドタドタドタ。


「アンズ、スモモ、ライチ、ドリアン、トロピカルフルーツ、ドラゴンフルーツ、パパイヤ!」

「う・・・えと」


 ガタ・・・? ガタ、カタタ・・・


「台湾バナナ、モンキーバナナ、モラード、チキータバナナ、ジャイアントキャンべディッシュ、セニョリータバナナ、パナップル、三尺バナナ!」


 カタ・・・・・・・・


「フルーツバスケット!」


「・・・帰る」

「わたしも」

「俺も」

「じゃあね、遠藤さん。楽しかったよ」

「え! ちょっちょっとぉっ!!」


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