VOL4
彼女はリズムに乗って歌い、踊っている。
この曲はクライマックスに来ると、怪盗が拳銃を構えて『バキューン!』とやるのがお約束になっているらしい。
副店長氏によれば、当然あれはただの小道具で、拳銃を構えたところでSEで発射音が出るだけになっている。とのことだ。
しかし、俺は見ぬいていた。
あのルガーは明らかに『モノホン』である。
俺は舞台ソデ幕の壁に配電盤をまで移動すると、彼女が拳銃を構え、サビの部分に差し掛かり、拳銃を構えるのと同時に、全ての灯りを落とすスイッチをオフにした。
たちまち会場が真っ暗になる。
客席からざわつく声が聞こえたが、どうやら誰もがこれを演出の一環だと思っているようだ。
速足で俺は舞台中央に立つ彼女の後ろに、小走りで駈け寄った。
灯りを消す直前、彼女の位置を確認しておいたからな。
陸自で真っ暗闇の中で敵を発見する訓練は何度もやってきたのが、ここで役立つとはな。
俺は自分の拳銃を抜き、彼女の背中に突き付けた。
(引き
彼女は黙って銃口を下ろした。
俺は彼女の手を握り締めるとルガーをむしり取り、そのまま又ソデへと下がった。
瞬間、また灯りがぱっとつく。
係員がスイッチを上げたのだ。
彼女は、大声で、
『ごめんなさい。驚かせちゃって!でも怪盗〇〇(名前は忘れた。本当なんだ)は
負けないわ!』
と、決め台詞を叫び、そしてまた拍手に包まれた。
結局『特別イベント』は無事に終了し、ご令息氏もいたくご満足の様子だったという。
御一行がお帰りになった後、従業員たちが後片付けに追われていた時、帰り支度をしていた彼女を呼び止めた。
『忘れもんだぜ』
俺は一旦銃を渡しかけるしぐさをして、再びそれをポケットに突っ込んだ。
『あんた・・・・一体何者?』
不審げな目で俺を見ながら彼女が言う。
俺は懐からバッジとライセンスを出して彼女の目の前に突き付けた。
『探偵?私を逮捕するの?』
『そうしたいのは山々だがね。それは俺の仕事じゃあない。俺はある人に頼まれてあんたに聞きたいことがあっただけさ』
俺は里村ミカに、例のスカウトマン氏のこと、彼女を芸能界に引っ張りたい。ついては話し合いのテーブルに来るかどうか確かめてくること。それだけを告げた。
彼女は唇の端で微笑みながら答えた。
『うれしいわ・・・・なんて飛びつくと思った?ノーよ。残念だけど』
『そういうと思った』
俺も笑い返した。
『このルガーはお巡りに渡さなきゃならない。悪く思うなよ。免許持ちの探偵の義務ってやつさ』
『分かってるわ』
彼女はそういって
俺は拳銃を近くの交番に預けた。お巡りの方は何かいいたげだったが、俺が免許を示して、
『俺は落とし物を届けに来ただけだぜ。不審な点があるなら、後でオフィスにかけてくれ』というと、それ以上何も聞かなかった。
そしてオフィスに帰ると、今度は依頼人に電話を掛け、事の次第を全部伝えた。
向こうさんは結構落胆していたが、仕方がない。俺はやるだけの仕事は済ませたんだからな。
え?これで終わりかって?
終わりだよ。
しかしまあ、俺も満足な仕事をしたとは言えないから、一日分の探偵料と、実費だけで済ませておいた。
ああ?
まだ何かあるのか?
(彼女は何者か?)だって、
めんどくせぇな。
彼女はコードネームを『orihime』というテロリスト・・・・いや、フリーの殺し屋だった・・・・七夕の日、彼女は
しかし、悪いことは出来ないもんだ。
羽田から出国しようとした時、空港警察に引っかかって敢えなく逮捕となったらしい。
何でも偽造パスポートがバレたという、極めて初歩的なドジだったそうだ。
さあて・・・・今晩も一杯いこう。一年ぶりのランデブーが出来なかった哀れな
終わり
*)この物語はフィクションです。登場人物、設定その他全ては作者の想像の産物であります。
コードネームは『orihime』 冷門 風之助 @yamato2673nippon
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