VOL3

 店内はそれほど広くはなかった。


 客席は凡そ50席ほどだったが、今日はそこが殆ど埋まっている。


 そこにいたのは表に立っていたのと同じ服装、同じ体格のゴリラばかりだった。


 副店長氏の説明によれば、南米の某国(特に名を秘す)の大統領が現在国賓として来日中なのだが、彼は夫人の外、何と今年20はたちになる息子まで連れて来ているという。


 何でもその息子がアニメ・・・・それも日本のアニメの大ファンと来ていて、ネットでこの店の情報を聞きつけ、


『どうしても来店したい』といって聞かなかったそうだ。


 そこで政府のお偉いさんが何とか店のオーナーに渡りをつけ、貸し切りでのご来店となったのである。


 何故こんなお忍びで、しかも貸し切りとなったかというと、某国は現在政府軍と麻薬カルテルが血で血を洗う激戦を繰り広げている真っ最中であり、組織側が大統領の来日に合わせて殺し屋を差し向けた


 本来ならば警視庁さくらだもんが警護に当たるところなのだろうが、VIPとはいえ大統領の家族だからというのでそれも出来かねる。


 そこで私的なボディーガードをつけての来店と相成ったわけである。


 大統領閣下の息子は最前列に座っていた。


 肌の色は浅黒く、アフリカ系の血が入っていると思われるが、しかし痩せていて背も低い。周りにいるボディーガード諸君の中にすっぽり埋まっているような感じだ。


 もっとも、何かあった時にはこの方が守りやすいのは事実だが・・・・。


 正面にはちょっとした舞台がしつらえてあり、今日はそこで『特別ショー』が催される。


 店の女の子たちが代わる代わる、アニメのヒロインや登場人物に扮して、主題歌や挿入歌を歌いながらパフォーマンスを披露するというわけだ。


 30分ほどして、大統領ご令息とその取り巻きがご来場になった。


 なるほど、周囲は護衛ゴリラで固められていて、日本人らしいのは、この店のオーナーらしい人物が一人いるきりだ。


 俺は舞台のすぐ下の壁にそって立った。


 間もなく音楽が鳴り、女の子たちが次から次へと登場し、アニメの曲に合わせて歌ったり踊ったりのショーを繰り広げた。


 俺はアニメや漫画、特に最近のものについては、殆ど基礎的な知識しか持ち合わせていないから、正直言ってこれが何故そんなに支持されるのかさっぱり分からない。


 だから見ていても、さほど熱中は出来ない。女の子たちのダンスや歌も、学芸会に毛が生えたようなものにしか感じられない。


 何曲か見ていると、いい加減欠伸あくびが出た。


 どれくらい経ったか分からないが、遂にあの、


『里村ミカ』嬢が舞台に上がった。


 彼女は何とかいう『怪盗者』のテレビアニメのヒロインに扮している


 そのアニメは、司会者の説明によればここ十年で一番の人気を博したとかで、男装の麗人が悪者(怪盗が?)をばったばったとなぎ倒すという、まあ、あの怪盗ルパンをパクったような、そんなストーリーらしい。


 あの御子息氏のお目当てもどうやらこれだったみたいだ。


 ビートに乗った音楽に乗り、黒いボンデージ風の衣装コスチュームをまとった彼女が歌いだす。

 

 彼女は右手に何かを握っている。


 拳銃、それも銀色に光るルガーP-08だった。浮彫の飾りが施してある、凝ったデザインだ。


 泥棒が拳銃を小道具で持っていても、そりゃ不思議ではない。


 俺はその拳銃を見定めると、直ぐに舞台横の通用口から上手側のソデに上がった。




  

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