VOL2

 スカウトマン氏が教えてくれた彼女の携帯電話番号は、何度かけても呼び出し音が続くか、留守番電話に繋がるばかりで、まるで宛てにならなかった。


 次に彼女の名前である。


『里村ミカ』というのだが、どうも偽名臭い。


 あちこち探し回って、やっと彼女の勤め先を見つけた。


 秋葉原にあるコスプレ喫茶で働いていたのだ。


『コスプレ喫茶』・・・・まあ、簡単に言えば、女の子がアニメや漫画のヒロインやヒーロー(男装もありだそうだ)の扮装をしてくれ、お茶や飲み物、食べ物などを運んでくれる。


という催しの際には、ちょっとしたショーの類も披露してくれるという、まあ今時の秋葉原には『良くある店』なんだそうだ。


 その中の一軒で彼女は働いていた。


 ボーイッシュでありながら『』って奴で、随分人気があるという。


 俺はある伝手を使って、その店の副店長と接触をすることが出来た。


 彼によれば、


『里村ミカ』が、店に来たのは今から1年ほど前で、普通なら履歴書を出して面接となるのに、彼女は応募してきたその場で履歴書も確認せず、顔を見ただけで、


『即決』

 

 だったという。


(何しろあのボディにあの顔ですからね、後はどうでも良いと思ったって、別に不思議じゃないでしょ?)

 ヒラメみたいな顔をした副店長氏は、当然だろうという表情で答えた。

 

 さて、外堀は埋まった。


 後は本丸に乗りこみ、自分の目で確認するだけだ。


 俺はそう思い、その翌日、秋葉原では知る人ぞ知るその手の店ばかりが集まっているビルディングに出かけてみた。


 しかし、その日は何となく様子が違う。


(おかしいな?)


 流石の俺でもそのくらいは分かる。


 普通なら、この手の店には開店前から行列が出来ているものだ。


 事実、同じビルに入っている他の店は何処もそんな様子だった。


 だが、今日は何故か店の前には人っ子一人客の姿がない。


 それどころか、何だか場違いな人間の姿があった。


 サングラスにスキンヘッド。ダークスーツ。


 図体だけなら『出来損ないのターミネーター』という手合いの男が二人、腕を後ろに組んで立っている。


 わざと無視して俺が店に入ろうとすると、


『悪いが今日は貸し切りだ』と、巻き舌で妙に訛りの強い日本語で凄みを利かせてくる。


 仕方ない。


 俺は別の入口を探し、店をぐるりと回り、


『従業員通用口』の方へと足を運んでみた。


 するとそこにもゴリラが一匹、腕を組んで立っていた。


 仕方ない。


 俺は携帯電話を出し、あのヒラメ顔の副店長氏を呼び出した。


 待つほどの事もなく、彼はやって来た。


 流石に店の関係者が来ると、話は早いな。


 俺は臨時雇いの従業員ということにして貰い、やっとヒラメ氏と共に入店することが出来た。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る