3章 4
「なんとかセーフ」
教室までたどり着いてホッと一息つく。時間にしてあと五分ほど遅かったら玲たちよりも先に教師が教室にいたことだろう。
「ごめんなさい玲さん。先に行っていても良かったんですよ?」
走るまではいかないものの早歩きで来たせいで、一緒に教室まで来た留美の息はあがっている。胸を抑えて呼吸を繰り返す彼女に
「待つって決めたのはボクだから。そこは気にしなくていいよ」
落ち着かせるために口にしたのだろうが、逆効果になっていた。
「う、うん」
先程よりも胸の鼓動を早くさせ、そそくさと自分の席へと向かって留美がイスに座る。玲も座ると、前の席の女子が振り返ってきて
「なんかあったの二人」
質問の意図がわからずに
「なにが?」
問い返すと
「いやだって二人って付き合っているんでしょ?
なんか二人の雰囲気変わった気がしてさ」
上半身を机に乗り出してきて耳打ちするように
「もしかして……一線超えちゃったとか?」
大声を出しての反応とそれを抑えようとする理性が瞬時にぶつかり合って
「なっ!」
一言だけ反応が勝ってしまった。
クラス中の視線を浴びながら女子へとこちらも小声で
「別にボクと留美さんは付き合っているとかそういう関係じゃなくて」
「えっ、そうなの?
だってこのあいだ本人に聞いたら恥ずかしそうに頷いていたよ?」
「留美さんが?」
頷く前の席の女子。
「うん。すっごく恥ずかしそうにして、実は……って教えてくれたんだけど、あれ違ったの?」
「はい。純粋な友だちの関係です」
そう断言して留美の方へと向かおうと腰を上げた所で、タイミングが悪く教師が教室へと入ってきてしまったので、上げた腰を下ろした。視線を投げて問いかけるが目を合わそうとしないまま授業が始まって終わる。
小休止の時間帯になって教師が出て行って、即座に立ち上がって彼女のもとへと。
「どうかしたんですか玲さん?」
玲が眉をひそめた表情で向かってきたことに、なんの思い当たるフシもないように涼しい顔で訊ねてくる。
「どうかしたもないですよ。どういうことですか留美さん」
「なにが、ですか?」
首を傾げる彼女に小声で
「ボクと留美さんが付き合っているというウソをどうしてついてんですか?」
「えっ?」
目を見開いて次には潤ませる。
「もしかして私とはお遊びだったんですか?」
この反応は予想していなかった玲。
焦りだすと留美は小さく舌を出してみせて
「なーんて冗談を言ってみたかっただけでして」
何かを言おうとして何も言えない。そんな顔を浮かべる玲に
「ちょっとした仕返しです。
今もそうですけど私の夢に勝手に入ってきて色々してくれたことの、お返しです」
「仕返しって……心臓に悪いですよ」
胸を抑えてその場にしゃがみ込む。
「でも私はそれでもいいかなって思っていますよ」
「……え?」
見上げる玲は逆光のなか薄く微笑んでいて、ドキリとした胸の鼓動が収まるよりも早くに次の授業の始まりを知らせる鐘が鳴った。
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