3章 3
学校が終わって放課後。
まるで玲の行動を予測していたかのように校舎の玄関口には留美の姿があった。
「一緒に帰りましょうか」
すでに靴を履き替えて待っている彼女の姿に、脳裏に一瞬でも引き返してしまうべきかという思いが浮かんだが
「帰りましょうか」
そのまま彼女と一緒に帰路を共にすることに。
靴を履き替えて二人一緒に校舎を後にする。
「おや?
でもボクはどうやら寮住まいのようなのでこのまま寮へと帰宅するんだけど、留美さんはどうするんです?」
歩いている途中、いつの間にか留美の手が玲の指先を軽く握ってきたがそのまま歩き続ける。
「私も玲さんと同じ寮ですよ。いやですね。忘れちゃったんですか?」
言われて思い出す。しかもあまり離れていない部屋だったはずだということを。
「今日は玲さんが起きられるのが遅かったので無理でしたが、明日からはちゃんと起きてくれれば朝も一緒に登校できますね」
帰りも一緒で行きも一緒。そうなってしまえば敷地の中、あるいは壁の外を歩き回ることも満足にはできなくなる。それがわかっていたのに
「そうだね」
こう答えた時の彼女の顔を見たくなって、同意の言葉を送った。
予想通りの表情の変化に自然と玲も顔を綻ばせる。
「まぁ、見て回ることなんていつでもできるし、もうすぐ週末でお休みもあるからね」
月曜日がやってきた。
寮の自室のベットで目を覚ました玲は、まず体を起こしてベットから脱出して、カーテンを開けていつものように朝日を室内へと呼び込んだ。朝日を拝めるこの時間であれば室内灯をつけるよりも明るくなる。それから寮の食堂へと降りるために着替えを始める。
もう慣れたものだった。女の子の体で着替えるのも。
女の子の服を着替えるのも。制服へと気が終わって姿見で全身をチェックしてからドアのノブに手をかけて、ドアが半分ほど開いたところでぽつりとつぶやく。
「週末の記憶がない気がする」
朝食を食べ終わって自室に戻り、ベッドに腰を下ろして登校の時間まで深く考え込む。金曜日の記憶はあった。留美が寝坊して二人して時間ぎりぎりに教室にたどり着いて、放課後は急な雨に降られて二人で一つの傘で下校した。雨に濡れて制服が透けてしまい、こういう時は恥ずかしがるものなんですよと顔を真っ赤にした留美のことを思い出せた。
なのに、その次の日の土曜日の記憶がない。
「確か……思い出した。金曜の夜に、明日は休みだから敷地の中を歩き回ろうと思っていたんだ。それで日曜は壁の外に行こうと。
留美さんも誘ったけど断られて……でもどうしてその記憶が無い?」
首を傾げてどれだけ悩み込んでも記憶が見つからない。金曜の夜にベッドに入り込んでいつの間にか寝ていて、次の記憶が今朝の様子。
それはまるで時間が飛ばされたような。
「玲さん、起きていますか?」
ドアをノックする音とともに留美の声が聞こえてくる。
「鍵は開いていますよ」
そう返答するとノブが回されて留美が室内に入ってくる。
「ふはぁ。おはようございます玲さん」
眠たそうな瞳で、あくびを手のひらで隠す。
「おはようございます留美さん。というか、まだ着替えていなかったんですか?」
部屋に訪れた彼女はまだパジャマのままで、寝苦しかったのだろうか、上着のボタンが半分ほど外されて下着が見えている。
「すみません。昨日ちょっと夜更かしをしてしまったので」
目をこすりながら
「ふぁぁ」
あくびをかみ殺す。
「あー、えっと、着替えてきます」
あくびをして多少眠気を吹き飛ばしたからか、ようやく自分の今の格好に気がついて、上着を押さえて部屋を出ていく。
「まったく留美さんは」
溜息ついて
「ボクがもう少しちゃんと彼女のことを見ている必要がありそうですね。さて」
ベッドから立ち上がって
「そろそろ出たいんですが、留美さんの準備はまだまだ時間がかかりそうですねぇ」
結局、留美の準備が整った頃にはかなりギリギリの時間だった。
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