3章 2
昼休みになって玲は一人で敷地の中を歩いていた。
小中高一貫のエスカレーターの学園。それら3つがひとつの敷地の中にある。それはわかっていたが実際に歩くと膨大な敷地にいま自分がどこにいるのか、ところどころに立っている案内板がなければ完全に迷子になっていたことだろう。それでも足は疲れる。
ベンチに腰を下ろして玲は空を見上げた。
「これなら、はじめから、バスを利用すればよかったかも、しれないですね」
まだ息が整えられない。敷地内には移動のためのバスが走っていた。そしてそれらがを敷地ごと取り囲むように背の高い壁がそびえ立っている。
この外を見たかったのだが
「どうもこんな短時間じゃ無理のようで」
腕時計を確認するとそろそろ戻らないと午後の授業に遅れてしまう時間。
「じゃあ帰りますか」
息もようやく整った所でベンチから腰を上げて歩いてきた道へと振り返って、そこに人が立っていることをしる。
「……留美さん?」
うつむいている少女の姿に見覚えがある。
顔を上げた少女は少し寂しそうに、数歩近づいてきて
「一緒にお昼ごはん食べようと思っていたのに」
「え?」
聞き返すとキッと表情が険しくなって
「一緒にご飯食べようと思っていたんですよ!
それなのにトイレから戻ってきたらいなくなっているなんてひどいじゃないですか」
「えっと、そんな約束していましたっけ?」
「それは……していなかったですけど! でもでも!」
うるんだ瞳に見つめられて息を飲む玲。謝るべきだろうか、いや謝った所で許してくれるだろうか。そもそも約束があってそれを破ったのなら速攻頭を下げていただろうが、約束はしていないしそんな素振りもなかった。そんな状況で彼女の考えを予測しろという方が無理な話だろうと、いろいろ考えながら
「じゃあ、今日はもうちょっと無理だから明日は一緒に、でどう?」
提案を口にした。すると目の前の少女の顔が晴れて
「はい!」
元気のいい返事が返ってくる。
「絶対ですよ。今度は約束したんですから守ってくださいね」
「それはもちろん。大丈夫だよ」
敷地内の探検そして壁の向こう側の探索はなにも、この昼休みの間しかできないわけじゃない。学校が終わってからのほうが時間を気にせずに歩き回れるじゃないかと
「じゃあそろそろ戻りましょうか」
「うん、そうだね」
留美の言葉に頷いて歩き出そうとして、進行方向に留美の腕が伸びる。
「えっと、これは……」
腕を差し出してきた意図を、なんとなくだがわかっていたがあえて本人に問いかける。
「玲さんはまたいつの間にかどこかに行ってしまう気がするので、どこにも行かせないようにするためにその……」
伸ばされた腕の先の拳を握ったり開いたり。
「その……手をつないで帰ります」
「そ、それはちょっと……」
腕を避けて進もうとすると
「嫌ってことはやっぱり私を巻こうとしているってことですよね!」
ガシッと腕をつかむ。
「もうこれで離れさせませんから!」
最初は両手でがっしりと玲の腕を掴んで、体の向きを変えるときに右手だけに握り変える。
「さぁ教室に戻りましょう!」
先程から彼女のテンションが高い理由を隣の玲は知っている。彼女自身も無理をして今の行動をしている。それを証明するように留美の顔は真っ赤に染まっていた。
「わかりましたよ」
小さくため息を吐いて
「帰りましょうか、留美さん」
彼女の歩幅に合わせて二人して、教室へと戻っていった。校舎が近くなって人の目が増える頃になって、留美の方から恥ずかしさのあまり手を離そうとするが、今度は玲から手を握って教室まで、手が離れることはなかった。
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