2章 2

 少女は、リーダー格の男性の言葉にホッとしつつも気を抜かずに、辺りを確認しながら帰投を始めた仲間と一緒に歩き出そうとして、建物の影から覗いてくる顔に、二度見してからため息をついた。深く深くため息をついた後に

「木村さん、ちょっといいですか?」

 リーダー格の男に声をかける。

「すぐに戻りますので先に行っていてください」

 しかしこれを彼は却下した。

「いや、ここで待つ。すぐに戻るんだろう?」

「えっ、あっ、はい。すみません」

 頭を下げて背中を向けて建物の影へと走る。角を曲がった先には先ほど見かけたとおりに少年の姿が。

「やぁ」とスマイルを浮かべて挨拶をしてくる少年に、額に手を当てて深くため息をつく。

「やっぱり知っている人に出会うと思った以上に安心するね。

 キミもそうじゃない、水無月さん」

「私はどちらかといえばこの状況にあきれていたりするんですが」

 目を細めて睨みつけるような瞳で

「大体どうしてここにも秋山くんがいるんですか。

 そもそも、あなたはなんなんですか?」

「それはボクもちょっとわからないかな。でも約束するよ。この間のように水無月さんを泣かせたりはしないよ」

「なっ! ちょ、それは……」

 みるみるうちに顔が赤くなる水無月。


「そろそろいいかー?」

 リーダーからの声に

「い、いま行きます!」

 若干裏声になりながら返答する。

「こ、この間のことは忘れてもらえると助かります。

 私も……ちょっとおかしかったかもしれないから」

 まだ真っ赤な顔を隠すために背中を向ける。背中越しでも彼女が深呼吸をしているのが、秋山からでも見て取れる。

「ところで、この間とは口調が少し違うようだけど、こっちが本当の水無月さんなのかな?」

 少し間があって頷く彼女。


「この間のは私の夢です。本当の、夢です……」

 静かに呟く。

「じゃあ私は戻りますけど、その……秋山くんはどうします?

 どうせここからいなくなってって言ってもいるつもりなんですよね?」

「うん、そのつもり」

「即答……」

 顔だけを背後に向けて浮かべる顔は呆れ顔。

「じゃあ私についてきてください。あの人たちなら一緒でも大丈夫ですから」

 そう告げると水無月は先に一人で走って行ってしまった。


 元の人たちと合流して、一度だけ秋山へと振り返るとそのまま一緒に歩き出してしまう。静けさが戻りつつある町中に背筋をゾクリとさせて、慌てて後を追いかける秋山。追いついて、追いついたことにかすかな笑みを浮かべる水無月に嬉しそうに笑顔を浮かべて、当の彼女にはそっぽを向かれてしまう。

 それでも笑顔を浮かばせて

「ところでここは東京みたいだけど、どうしてこんなに廃墟になっているの」

「昔にいろいろあったので廃墟になりました」

「そこのところを詳しく教えてくれると助かるかな?」

「詳しくと言われても、私にも詳細はわからないです」

「でも水無月さんが作った世界なんでしょ?」

「そんなメタ発言は言わないでください!」

 つい声を荒げてしまって口元を抑えるが、先を歩く集団の耳に入ってしまって

「どうしたんだ水無月。なにかあったか」

 リーダー格の男は訊ねるような口調だったが、他の仲間たちは一瞬にして戦闘状態になっていた。


「い、いえ。なんでもないです、すみません」

 頭を下げて謝ると緊張が解けて、再び歩き出す。それ以降は、秋山が話しかけても水無月はなにも答えずに無視し続けていた。

「ところでさ、水無月さんって猿が出てくる映画って、好き?」

 めげずに声をかけ続ける秋山。しかしこの問いかけも彼女は無視を決め込んだ。

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