1章 3
「お昼ご飯、一緒にいいかな?」
昼休みとなって教室が騒がしくなる時間。いつものように神無月の席へお弁当を持って行こうとしていた相良よりも早く、彼女の席には秋山玲がいた。わざわざ自分の席のイスを持ってきて神無月の机の隣に置いて、そこまでしてからの問いかけなので、彼女も断るに断れない。遅れてくる格好になった相良の顔色を伺ってきているが
「そういえば転校生くんとちゃんと話したことなかったし、ちょうどいい機会じゃないかな」
了承してくれたようで神無月もほっと一息つく。
「転校して一週間以上経つっていうのにそれはちょっとひどいんじゃないかなぁ、相良さん」
「仕方ないでしょ。転校生くんは大人気だったんですもの。
って、あたし自己紹介したことあったっけ?」
前の席のイスを借りて、反転させて腰掛けて弁当箱を机の上に展開する。
「クラスメイトなんだから当然のことでしょ? 相良さんに神無月さん」
二人へと順番に手のひらを向けて
「キミたちだけじゃないよ? クラスのみんなの名前はもう覚えたよ」
「へぇ、それはすごい。で、そんな転校生くんが本日あたしたちううん。留美と一緒に昼ごはんを食べようと提案してきたその意図は?」
行儀悪くハシをマイク代わりに秋山につきつける。
「意図? 一緒に御飯を食べようだから、ごはんを食べるのが目的なんじゃないの?」
すると相良はニヤニヤと薄く笑みを浮かべて
「そう思う? うーん、やっぱりこういう話題になると留美は相変わらずのニブチンだなぁ。それは時として相手に失礼になるぞ」
「え? なに? 私もしかして怒られているの?」
「いやちょっと待ってください。ボクはただお二人と一緒に御飯を食べたいと思ったからお邪魔しただけなんですけど。ほら、お二人ともよく一緒に楽しそうに食べているじゃないですか。それに混ざってみようかと……、もしかしてボク、邪魔者でしたか?」
「……おやや?」
突きつけていたマイク代わりのハシを引っ込めて、指先で頬を掻く。
「あたしの思い違いだったのかな……」
神無月と秋山を交互に眺めて、首を傾げた。
「まっ、いいか。それはおいおい見極めるとして」
箸を両手で持って
「それでは、いただきます」
広げたお弁当へ向けて軽く会釈。遅れて二人も昼ごはんに手を付けた。
「お二人はいつから仲がいいんです?」
ご飯を食べながらタイミングを見て問いかける秋山。
「うーんと、確か中学に入ってからだったよね?」
「うんうんそうそう。あたしが教室までどう行くか悩んでいたら留美が声をかけてきてくれたの」
懐かしそうにその時の情景を思い浮かべて、その後の展開も一緒に思い出して笑みをこぼす。
「てっきり案内をしてくれるのかと思ったら留美も迷子になりかけでさ、結局二人して先生捕まえて案内してもらったってオチ」
「ちょ、ちょっと理恵子! そこまで話さなくてもいいじゃない!」
慌てて止めにかかるがもう遅い。自分を掴んでこようとする神無月の手を逆に掴んで
「しかも迷ったのはこの一回だけじゃなくてね、学校になれるまで複数……5回くらい? 迷ったのよねこの子」
「5回じゃないよ……4回だよ」
涙目になりながら否定するが
「あんまり変わってないですね」
この言葉に箸を落としそうになった。
「と、まぁ。そんな感じであたしたちはこんな仲なの」
「ちょ、変な感じに締めないでよー」
「仲の良さはよくわかりました」
見事に神無月の言葉がスルーされて、えぐえぐと泣く真似をするがこれもまた、スルーされた。
空になった弁当箱をしまって、昼休みももうすぐ終了の時間。一番最後に食べ終わった神無月が弁当箱を姉妹終わった頃に、机の側面に座っていた秋山が口を開く。
「そうだ。ひとつ聞いてもいいですか?」
同じ側面、秋山とは机挟んで反対側に座っている相良は、自分に声をかけられたかと浮かした腰を一旦下ろして、しかし彼の視線が神無月へ向けられていることに気がついてもう一度腰を上げて、自分の席へと弁当箱を置きに戻った。
「ん? なんですか?」
彼女自身も弁当をしまいながら耳を傾ける。
「えぇ、実は最初にお会いした時からどうしても聞いておきたいことがありまして」
もったいぶった口調で、秋山自身は弁当箱はまだ机の上に展開したまま。
「どうしてこんな日常を繰り返しているのかを聞きたいんですよ」
秋山の問いかけの意味がすぐには理解できずに、首を傾げて
「学校生活ってこと?」
「いいえ。でも半分は合っていますね。つまり、どうして創られた世界の中で学校生活を続けているのかと、それを聞きたいんですよ」
一瞬の静寂。
「え? ごめんなさい。ちょっと意味がわからないんだけど……」
ますます首を傾ける。その頃には相良も戻ってきて
「なになに? なに二人して話していたの? あたしも混ぜてくれない?」
イスに腰掛けて首を傾げている少女のリアクションに彼女も首を傾げる。
「どしたの?」
けれども神無月はなにも答えない。秋山も薄く笑顔を浮かべたまま、やがて午後の授業がもうすぐ始まることを知らせるベルが一度鳴った。
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