#45 闇への誘い
俺たちはギルド戦に明け暮れていた。カジノで稼いだ金で高級装備を揃え、ガッチガチにその身を固めた俺たちに敵なんて居なかった。金とチームワーク、そして戦術があれば人数不利なんて大した問題ではなかったのさ!
いや、嘘ですよ。実際には人数が少ないという餌で相手を呼び寄せて、弱いギルドばかりと戦っていたからなんです。はい。
そのため、A帯から抜け出すには何戦か行う必要があったのだけど、コツコツと勝利を重ね、ついにSランク帯まで昇り詰めることが出来た。客観的に見ても短期間でここまで来れたギルドはまず無いと思う。
これは祝うしかないでしょ! っていうモフモフの提案で、わたあめハウスに集まりパーティを開くことになった。家の中は派手な装飾とでっかいケーキ、そして何故だか知らないけど、季節外れのクリスマスツリーなんかも置いてある。これって去年のイベントで販売されてたやつだよね。とにかく置ける物を置いてあるって感じだ。
「……うーむ、カオス」
まあ、これはこれで俺たちらしいかな。
「シエルさん、クラッカーを一緒に鳴らしましょう!」
パーティーグッズの髭メガネを付けたユリアからクラッカーを渡される。おいおい、せっかくの美少女が台無しですぜ。
「いっせーのっ!」
パンッ!
軽い4つ爆発音とともに、紙吹雪やらリボンが前方に飛び散る。それだけでなく、音符や星といったエフェクトも表示されるのはゲームの中ならではだろう。
「うわぁ、毛に絡まっちゃったよ~」
クラッカーから飛び出したものがモフモフの毛に絡まっている。どこに向けて打ったらそうなるのか……。
「な? もちこ、俺の言った通り強豪ギルドにすることが出来ただろう?」
「ふん、私の力があったからだよ」
おいおい、ツンデレかよ。そんなこと言っているけど顔がほころんでいるぞ。
だが、強豪ギルドになることや、有名になること、そんなのは俺にはどうでも良かった。真の目的はその先にある。
それから俺たちは馬鹿でかいケーキを食べたり、ケーキを食べたり、ケーキを食べたりしながら夜が更けていった。……もうケーキはしばらく食べたくない。
≪ウェスタンベル平原≫
パーティーも終わり、俺は休憩するために夜空に輝く星空の下、一人で寝転がることにした。草がクッションのように柔らかく、夜の風が涼しくて心地良い。空を見上げると、俺がシエルで始めた時の夜と同じ月が見えた。
フィロソフィを打ち倒す。そのために今までやって来たんだ。
だが、ここからはそう甘くはない。向こうには最強プレイヤーランキング3位のフィロソフィとアリサ、そしてその他大勢のギルドメンバーが居る。今の俺たち4人がセレスティアスに真っ向から挑んだところで勝てる見込みは無い。
じゃあどうするのか。こちらの力に限界があるのであれば、相手を弱体化させるしかないよな。
その為には少々手荒な手段が必要だ。……しかし、そう考えたときにある問題を抱えていることに気が付く。
ユリア、モフモフ、もちこといったディアボロスのメンバーの存在である。相手を弱体化させるために過激な手段を取れば、ユリアたちから反感を買ってしまうかもしれない……。ユリアには一応「セレスティアスを打ち倒す」ということを言ってあるけど、モフモフやもちこに至っては、俺の目的というものをこれっぽっちも話していないのだ。
部活動に燃える青春球児のように〇〇高を倒す! みたいな感じでフィロソフィを倒す! って健全な感じに言えるならいいのだけど、今回は復讐が目的であり、全然健全な感じではなく、不自然に思われてしまう。
俺がこれから取る行動を光か闇で分けるとすれば間違いなく“闇”に属すると思う。それに対してユリアたち、俺のギルドメンバーは“光”だ。
そんな光に包まれている俺が復讐を遂げるためには当然、闇に染まらなければならない。そんな闇に染まった俺をユリアたちは受け入れてくれるのだろうか。
「フィロソフィって未成年者に手を出す悪い奴なんだよねー、だから俺が天に変わってフィロソフィを誅してやるのさ!」って俺が言ったところで、どうして直接関係のないシエルがそんなことをするの? と思われるのがオチである。
これは諸刃の剣だ。相手にも大ダメージを与えられるが、こちらの関係にもヒビが入ってしまう可能性が高い。
ここに来て悩むことになるとは思わなかった。どうにかしてユリアたちに納得してもらえるような、正当化できるような理由は無いだろうか。
ひと際大きな風が俺の髪を揺らしたことで我に返る。俺は大きな丸い月を見つめていた。
随分と長く考えていたような気がするけど、考えは何も思い浮かばない。こういうときに限って頭が働かないんだよな、俺って……。
「シエルさん、ここに居たんですね」
声のした方に顔を向けると、そこにはユリアが居た。
そして目が合う。ユリアは俺の隣に腰を下ろした。
「また何か一人で抱えているような顔をしていました。初めて会った時にもそんな顔でした」
俺は思わず、自分の顔を手で触れる。手で触れたからと言って表情が分かるわけじゃないけどね。
「初めて会った時?」
「私がシエルさんと初めて会った時のこと、覚えていますか? 私がギルド内のチャットで呼びかけて、反応してくれたのがシエルさんだけだったんです。パーティに誘ってくれて、なんでもパキパキとこなしていくその姿を見ていたらカッコいいなって思って……。実はあれが初パーティプレイだったんですよ? シエルさんは色んなことを知っていて、私を新しい世界に連れて行ってくれたんです」
へえ、そんなことを思ってくれていたんだ。でもさ、それは俺が2周目プレイだから色々知っていたり、余裕があっただけだって。それにユリアって可愛い見た目しているじゃない? 俺じゃなくてもきっと他の人がユリアを拾ってくれてもっと楽しませてくれていると思うな。
口には出さなかったけど、俺はそんなことを考えていた。ユリアからすれば少々長い沈黙の時間だったと思う。
「……でも、時折見せるその表情。その意味をずっと考えていました。一人で全てを背負い込んで、苦しんでいるような、そんな表情です。そんなシエルさんの表情を見ていると、私も何故だか胸が苦しくなるんです。私に手伝えることなら何でもするって言ったこと、今も忘れていません……もしよければ、私に話してくれませんか?」
一人で背負い込んでいる、ね……確かにそうかもしれない。でも、そんなの言える内容じゃないよ。ユリアは俺のことをやけに慕ってくれているようだけど、言ったらシエルの存在自体を否定することになるんだ。せめて彼女から見る俺は理想の像でいてやりたい。それに俺には垢BANのリスクもあるしね。言わないでおいた方がお互いの為なんだ。
「シエルさん……」
ああ、どうしてユリアはそんな悲しそうな声を出すんだろう。
これ以上沈黙を続けるわけにはいかない。でも俺はもう後戻りできないところまで来ているんだ。急上昇ギルドとして注目されている今、行動に移さなければもうチャンスは無いと思う。こういうのは優先順位というものがあって、目的の為なら思い切った覚悟も必要になるはずだ。
俺は立ち上がり、ユリアに背を向けて話す。
「……全てが終わったら話すよ。その代わり、これから俺のすることに疑問を感じたり、俺らしくないって思うかもしれない。それでも俺について来てほしい」
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