#44 カジノ

≪ゴーラク島≫


 ゴーラク島……娯楽島、相変わらずの単純なネーミングセンスである。まあ覚えやすいからいいんだけどさ。


 ぱっと見た感じ、ヤシの木とか生えていて南国を思わせるような島だった。そして、船から降りてすぐに分かるほど派手に装飾されたカジノの建物。こういうのを見る度、電気代とかどうなってんだろうとか考えてしまう。まあVR世界なのでタダですよね。



 カジノの中に入ると、ナイスバデーなバニーガールNPCが出迎えてくれた。うわスゲー谷間。あれに挟まれて死ねるなら地獄に行ってもいいね。だからと言ってお触りをしたもんなら黒服NPCに無理矢理地下室へと連れて行かれ、長い説教を聞かされた後に2週間ほどのアカウント停止処分を食らってしまう。とっしーがその一人だった。地獄に行くのはいいが、アカ停は勘弁だ。


「しっかし、バニーガールって巨乳ばかりだなぁ……」


 もちこが呟く。ロリっ子アバターには羨ましく見えるのだろう。


「シエルさん、鼻の下を伸ばさないでください!」


 ユリアに注意された。やべ、俺はそんな顔をしていたのか……。


「わー、またシエロが出たぞ~!」


 モフモフが俺をおちょくってくる。けど文句は言えない。カジノで遊ぶ金はモフモフが用意してくれたのだ。


 てか、俺ってこのメンバーではおもちゃにされることが多いよね。みんなが笑顔になってくれるからいいんだけどさ、復讐のビーストの名も落ちたものだよ。


「じゃあ何のゲームで遊ぶ?」


「せっかくだし、色々遊んでみようぜ」


 DOMのカジノではNPCのカジノディーラーがゲームごとに設置されており、プレイヤーがそれに加わって遊ぶという形になっている。


 まず向かったのは王道のルーレット。持ち金に余裕があるのでフラワーベットで賭けることにした。ディーラーが玉を放ち、くるくるーっと回る玉を目で追い、見事にみんな外れる。悔しいので、負けたら前回の倍お金を賭けるというマーチンゲール法を試してみたのだが、またしても全員外れる。マーチンゲール法は一見有効に見えるのだけど、賭け金が無限にあるわけではないので、外れが続けば賭け金がなくなってしまい、気が付けば損失がとんでもなく膨れ上がっているという危険性を孕んでいる。


「なんだか一生当たらないような気がしてきたわ……」


 もちこが額に手をやりながらつぶやく。俺もそんな気がしてきて、他のみんなもいい加減ルーレットは飽き飽きとしている様子だったので今度は別のゲームに移ることにした。


 カジノを回っていると、ポーカーのエリアで見覚えのあるプレイヤーが座っていた。


 ――フィロソフィ。


 あいつ、金策はカジノで行っているのか。


 しばらく遠くから見ていたのだけど、わざと全交換に出して負けている? どうしてそんなことを……。


「シエルさん、行きますよ?」


「あ、ああ……」


 話しかけるか迷ったが、ユリアたちとも一緒だし、わざわざ自分から嫌な思いをする必要もないなってことで、ここから移動することにした。


 ブラックジャック、スロット、ダイス、負ける度に点々と移動し、最後に向かったのはポーカー。フィロソフィの姿はもう無かった。


 ポーカーはトランプを使ったゲームで5枚の手持ちからスタートし、どれを残し、どれを交換するかをプレイヤーが決めることが出来る。そうして、出来た役に応じて賭け金に対する配当が与えられるのだ。プレイヤー同士で戦うポーカーもあるようだが、今回はフィロソフィが先ほど遊んでいた一人でも遊べるものに挑戦することにした。


「運が悪いとなかなか勝てなさそうですね」


「うーん、俺は運以外にも何かあると思うけどなあ」


「うわ、見事にバラバラだよ」


 結果はまたしても全員敗北。運が無いのかどうなのか分からないけど、ツーペアや、スリーカードがたまに来るくらいで、それ以上の役は一向に揃わない。これはイカサマなんじゃないかと疑いたくなってくる。


 そういや、ここは現実の世界ではないんだった。ここは仮想世界であり全てが人の手によって作られた物なのだ。DOMはインフレを恐れていることもあり、カジノで大儲けさせる気はないんじゃないのかな。


 周囲を見回してみると、ハイエンド装備をしたプレイヤーばかりで、金持ちなんだろうなーってのが見るだけで分かる。つまりこのカジノはそんな富裕層から金を吸収ために作られたのではないだろうか。もしそうだとしたら、あのフィロソフィが負け続けるカジノにわざわざ訪れるとも思えない。そう考えたらこのカジノ、何か仕掛けがあるのかもしれないな。


 先ほど、フィロソフィがわざとポーカーでわざと負けているのを思い出す。


「なあ、みんな……ツーペアやスリーカードが揃いそうでも、わざと全て交換に出してみないか?」


「? どうして?」


 怪訝そうな表情を浮かべるもちこ。他のみんなもきょとんとした顔を浮かべている。


「……俺の予想なんだが、ここはゲームの世界なんだし、何らかの仕掛けがあってもおかしくないと思わないか? 多分だけど、このカジノは負け続けたらなんらかの救済措置が用意されていると思うんだよ」


「救済措置?」


 もちこが首をかしげる。


「ほら、よくデパートなんかでさ、棒を穴に突っ込むことが出来ればゲーム機とか高額な商品がもらえるUFOキャッチャーみたいなゲームあるじゃん? あれって、1発じゃ絶対穴に入らないようになっているんだよ。わざと負けさせて、一定の金額までいって、ようやく穴に入ってくれるように設計されてあるんだ」


「そうなの?」


「知らなかったです」


「じゃあ、わざと負けるやつやってみよう!」


 みんなからOKを貰えたので、俺たちはポーカーで負ける為に全交換を繰り返すことにした。わざと負けてお金を無駄にするというのはなかなか心苦しいもので、100万ヴィルが無くなりそうになって、ああ、もうダメだ。おしまいだぁって思い始めてきた時、もちこがロイヤルストレートフラッシュを完成させた。


全てのカードを交換に出したのにも関わらず、一番確率の低いロイヤルストレートフラッシュを完成させたのだ。それは不自然な完成の仕方だった。


「やった! ようやく勝てたー!」


 もちこはガッツポーズを決め、大喜びする。それでも負けで失ったお金の方が多く、勝ったところで逆転というわけには行かなかった。


「ここまで来るのに負けた回数は何回だっけ?」


「えっと、50回くらいだったと思います」


 さすがユリア、しっかりと数えていてくれたようだ。


「なるほど50回か、その辺で確定当たりようやく来てくれる。しかも同じテーブルで一人だけ……」


「多分、これで当たりが来るまでの回数がリセットされるんじゃないかな?」


「念のため45回まではMINBETで、それ以降はMAXBETでいこう。これでプラスになるはずだ」



 結果、俺の予想は当たった。


 50回目で必ず同じテーブルに居る誰か一人がロイヤルストレートフラッシュを完成させる。テーブル単位で見れば50×4で200回負ける必要があるってことだ。今回はMINBETで回数を稼いだため、テーブル単位で見てもお金はプラスになった。


「すごい、こんなカラクリが……」


「シエルさん、よく分かりましたね!」


「……まあ、勘ってやつだ」


 実際にはフィロソフィの怪しい行動を見てそう思ったからなんだけどね。

 これがカジノ必勝法か。意外と単純なものだったな。しかし、こんな単純なもの他に発見している人が居ても良いような気がするのだけど、全然話題になっていないことをみると、知っているのは俺たちとフィロソフィくらいかもしれない。


「みんな、これを他の人に漏らすなよ。話題になったら絶対に修正が入ると思うぞ」


「言うわけないじゃん。今の内に稼げるだけ稼いじゃおうよ!」


 ああ、もちこの言う通りだ。いつ修正されるかも分からない、これは金を稼ぐ絶好のチャンスだ。


「みんな時間は大丈夫か?」


「明日は日曜だしへーきへーき!」


「オールできます!」


「私も大丈夫!」


「よおし、朝まで回すぞ!」


 俺たちは時間を忘れてカジノに入浸った。最初は喜々として取り組んでいたのだが、時間が経つにつれて単純作業に飽き飽きとしてきた。やっぱりギャンブルというのは勝つか負けるかでハラハラするのが楽しいのであって、勝ちが確定しているとどうもマンネリ化してしまうものだね。


 ともかく、金は稼げた。所持金を見ると670万になっている。一晩でこれだけ稼げるのだからかなり効率の良い金策だ。


 こんなのがプレイヤー間に知れ渡ったらDOM経済はハイパーインフレを引き起こしてしまうだろうな。もしかしたらRMTなんかよりヤバイやつじゃないのかね。


 まあ、これは運営の設計ミスだし、流石に垢BANされることはないはずだよね。しかし、お金は没収される可能性があるので、早いところ使ってしまった方がいいかもしれない。


 俺は知っている。この世界、金があれば何でもできるということを。

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