　この世界はお金の価値がとんでもなく高い。それはお金が貯まりづらいにも関わらず、キャラクターのステータスはお金で買える装備品でほとんど決まってしまうからだ。だからこそDOMのプレイヤーは必至になって金を稼ごうと努力をする。

　その努力が大変なようで、ネット上ではリアルマネーよりも稼ぎづらいという声が上がっているくらいだ。

　金が全てのこの世界、なんて分かりやすい世界なんだろう。

≪帝都アルケディア・広場≫

「ハロー、ヤミキンTVです。えー、今回は今最高に熱いギルド、ディアボロスのギルドマスター、シエルさんにお越しいただきました～」

　俺は今、DOM内の生放送に出演をしていた。この放送は、DOM内の酒場の電子モニター、そして現実世界の動画サイトにもアップされている。

　放送主は配信業界でも有名な“ヤミキン”というプレイヤーだ。この人の投稿する動画はどれも100万再生を超えており、彼がすること全てに注目が集まるカリスマ生主ってやつだ。

　そんなカリスマ生主と、何故無名の俺がコラボしているのかというと、そう、“金のチカラ”である。

　カジノで荒稼ぎした俺は、金を積み、ヤミキンの動画に出演させてもらえるように頼み込んだのだ。動画のコメントには『誰？』『なかなかイケメンじゃない？』といったどうでも良いようなコメントが流れてきている。

　そんな俺がこの放送に出演することを決めた理由、それはフィロソフィに対する宣戦布告、そして弱体化が目的だ。

「――今回はそんなシエルさんからビッグニュースの発表があるみたいです！　よろしくお願いします！」

　ヤミキンからマイクを受け取る。

　よし、言うぞ。この言葉でDOM内はオセロのコマが一気にひっくり返るように、俺はこの放送でDOM界に大きな波紋を起こす！

　……ゴクリ。

「えー、みなさんは、RMTという言葉を知っていますか？　略さずに言うとリアルマネートレード。現実のお金を業者に支払い、DOM内の通貨を受け取ることで自らのステータスを強化することが出来るという利用規約でも禁止されている行為です」

　『知ってる～』　『それギルドと関係がある？ｗ』　　　

　　『RMTするやつは総じてクズだ！』

「私たち一般プレイヤーはモンスターを倒し、コツコツとお金を稼いでいるというのに、RMT行為をして楽に稼ぐなんて許せませんよね？」

　『せやな』　『ホント金ってたまらねえよなー』

　『百理ある』　『俺が貧乏なのはRMTerのせいだ』　　　　

「そんなRMTを行っているプレイヤーが、あの強豪ギルドの中にも居るのです。掲示板でも【預言者】というコテハンが度々話題にしていたので知っている人もいるのではないでしょうか？」

　『預言者って聞いたことあるぞ』『まさかセレスティアス？』

　　『いいから早く言えよｗｗｗｗｗｗ』

「――RMTを行っているトッププレイヤー、それは……セレスティアスのギルドマスター、フィロソフィです！」

　『え？……え？ｗ』　『神回キタ━(゜∀゜)━!』

　　『マジでセレスティアスじゃねーか！』

　『言っちゃっていいの？ｗ』　『これマジ？』

「少し前までスカイというプレイヤーがランキングに載っていたのを知っていますか？　そのスカイとフィロソフィは同じギルド、セレスティアスに所属していました。でも、今は知っての通りスカイという名前は消えてしまっています。そして、消えたスカイの順位の場所にフィロソフィが来た。これがどういう意味だか分かりますか？」

　――生放送でこんなことを言ったものなら放送事故として即中断されそうなものだが、事前にヤミキンには口出ししないように言ってあるし、コメント欄には工作員も雇っておいた。これで、俺の演説にも効果が倍増されるってもんよ。そして、事実だけではなく、ちょっとした脚色もしておくことにした。ふふ、これがメディアの実態だよ。

「勘の良い方は気づいているかもしれません。フィロソフィはスカイに嫉妬したことからRMT業者を雇い、スカイがRMTしているように見せかけて垢BANさせたのです！　自分がランキング上位に来るために！　それだけではありません。フィロソフィはRMT常習犯で、装備などもRMTで稼いだ金で揃えているのです。そんな偽りの力で強豪ギルドのギルドマスターに居座っているんですよ。こんなの、許せますか！？」

　『マジかよ、あのフィロソフィが……』　『幻滅しました』

　『RMTとか許せん』　『昔から疑っていたんだよね』　　

「私は、みなさんが苦労して稼いでいるお金をRMTで楽に稼ごうなんて考え許せません。真面目にやっている方が馬鹿みたいじゃないですか」

　『そうだそうだ！』　『あのヤミキンが止めないことを見るとガチっぽいな……』

　　『セレスティアス丸ごと垢BANクルー？ｗｗｗｗ』

「私はそんなRMTerを野放しにしているのを許せず、セレスティアに対抗するギルド《ディアボロス》を作りました！　今こそ立ち上がりましょう。そして、私と共に正義を勝ち取るのです。RMTを行う悪に正義の鉄槌を！　同意してくれる者は拍手をお願いします！」

　『８８８８８８８８８８８８８８８８』　『うおおおおおおおおおおおおお！』

　『ふぉおおおおおおおお！』　『888888888888』

　　　　　　　　『８８８８８８８８８８８』

　ものすごい勢いで弾幕が流れていく。最初は上手く行くか不安だったけど、自分でも驚くくらいの結果だった。

　金が貯まりづらいという不満と、トッププレイヤーに対する妬みを利用することで、ヘイトをフィロソフィに向けさせる。人気者が崩れていく瞬間に直接関われるなんて、視聴者にとっても絶好の餌になるだろう。他人の不幸は蜜の味っていうしね。

「――はい。シエルさん、ありがとうございました。いやぁ、あのセレスティアスのギルドマスター、フィロソフィさんがRMTをしているっていうのは驚きですねぇ～。みなさん、RMTは絶対ダメですよ～！」

　『フィロソフィまじ許せん』　『ヤミキンさんも言ってるってことはガチじゃね？』　

　『俺ディアボロスに入ろうかな』　『RMTは悪ってはっきりわかんだね』

　雇った工作員の数をはるかに上回るほどの反応を見られた。やはり人っていうのは周りの空気に流されやすいものだな。退屈していたプレイヤーに刺激的なニュースを与え、工作員の陽動コメントと、ヤミキンの放送というお墨付きですっかり視聴者は信じてしまっている。いや、真実なんてどうでもいいのかもな。面白いことがあればとりあえず乗り込む、そしてお祭り騒ぎが出来ればそれでいいんだろうね。そんな視聴者と俺の求めているものが一致したことで、俺は洗脳、フィロソフィは炎上、視聴者はエンジョイで完璧ってワケだ。

　さあ、俺は世論を味方に付けたぞ。フィロソフィはどう動く？