#02 不吉な予兆

 ギルドマスターは“フィロソフィ”という名前のエルフ娘だ。関西風の口調の美少女で、中身もきっと可愛い子なのだろうなと思っていたのだが、メンバーに聞くと中身はネカマのおっさんらしく、俺の幻想は瞬く間砕け散ったのであった。


 ギルドマスターという面子もあり、フィロソフィはあからさまに俺を嫌っている態度を取ることは無かったが、チャットではどこか棘を含んだ言葉や、ギルド内での募集では俺をなるべく省くようにしていることを当事者の俺は何となく気が付いていた。


 それでも、ギルドメンバーとの関係は良好だし、俺はそんな態度を取るギルドマスターのことをそれほど気にすることも無かった。



 ここからアリサと俺の恋仲は更に発展していくぞ! なんて胸を躍らせていたのだが……。


 どうも俺がログインして、フレンドリストからパーティ状況と現在位置を確認すると、アリサとフィロソフィが2人でパーティを組んで、フィロソフィの家にいるのを見かけることが多くなってきていた。


 最初はたまたまかなって軽く思っていたのだが、こう何日も続くと明らかに意識して2人組んでいるように思えてきてしまう。


 学校は彼女の方が帰るのが早いので、いつから一緒にいるのか分からない。だが、不安の種は早いうちに取り去っておいた方がいいだろう。俺は思い切って彼女に尋ねてみることにした。


『なあアリサ。最近ギルドマスターと一緒にいること多くないか?』


『そうかな。でも、よく手伝いとかに誘われるんだよね。新入りだし断れなくって』


『……そうか、それなら仕方がないよな』


 頼み込んで入れてもらったわけだし、仕方がないよな……。俺はこれ以上追求することは止め、不安を胸に抱えたままその日を過ごした。


 次の日、メンテナンスでログインが出来ないため、暇をしていた俺はなんとなくスマホでSNSを見ていると、ギルドマスター、フィロソフィのアカウントを見つけた。


 フォローするか悩んだけれど、俺の愚痴とか呟いていると気まずいのでちょっと中身を見てみることにした。大体はレアアイテムをドロップしたとか、新しい武器を購入したなど、ゲーム内の自慢が多かったが、ひとつだけリアルのことを写真付きで呟いているものがあった。


 自分の顔にはモザイクが掛かっていたが、おっさんだということはモザイク越しでも確認出来る。


「ははは、フィロソフィってマジでおっさんじゃねーか」


 なんて笑っている自分の顔はすぐに凍り付いた。隣に居たのは見覚えのある顔の少女。その少女とベッドの上に座り、2人の手は恋人握り。その奥には大きく0.03と書かれた箱が置いてあった。


 おい、これって……。


 頭がクラクラする。睡眠不足の時になるようなアレだ。力が抜け、手が滑ってスマホが床に落ちそうになったのを慌てて受け止める。


「あぶねっ」


 受け止めたスマホの画面を見て背筋が凍る。


 『いいね』ボタンを間違えて押してしまっていたのだ。急いで取り消したけど、そんなことは無駄だって知っている。


「やべえ、これ相手に通知行くんだよな……」


 俺は頭を抱える。ああ、もう。一体どうなっているんだよ。


 いや、まだあの女の子がアリサだって決まった訳じゃない。きっと違う女の子だ。そう自分に言い聞かせる。そうじゃないと死ぬ。


 直接アリサに確かめれば早いのだけど、もし人違いだってことになったら俺は小さい男って思われるかもしれない。疑われるアリサだっていい気分はしないだろう。


 こうなれば俺が帰ってくる前に、2人が何をしているのかこの目で確かめればいい。そう決めた俺は、こっそり確かめるために使えそうなアイテムが無いか考えを巡らせてみる。


  ふと思いついた一つのアイテム、“ゴーストキャンディ”。


 使うと一定時間プレイヤーの姿を消すことが出来るという効果のアイテム。元々はハロウィンの時のイベントアイテムだが、こういうアイテムはケチって使わない性分なので、まだ残っているはず。


 これを使って、来週の午前授業の日にフィロソフィの家に忍び込み、確かめてみようと思う。

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