魔力暴走しました
頃合いを見計らって厨房を脱出したわたしは、さらにフラフラと城の中を探検していた。
すると、妙に立派な、開かれた扉を発見する。
そろーりと覗いてみると、中は巨大なホール状の空間で、何列も背の高い本棚が並んでいた。
本がいっぱいある!
ここ、図書室みたいだ。
もしかしたら、ここにならこの幼女の謎を解決できる本があるかもしれない。
こそこそと中に入ってみる。
けれどこそこそなんてしなくても、中は静かで、誰にもわたしに見向きもしなかった。そのことに少しホッとしてしまう。
カウンターには、メガネをかけた藍色の髪の女性が座っていた。
耳が長いので、きっとエルフ族なのだろう。
ここの司書さんなのかな。
彼女に聞けば、何か分かるかもしれない。
「お姉さん」
「……はい」
本を読んでいたのだろうか。
俯いた司書さんが顔を上げる。
涼しげな目がこちらを見て、少し驚いたように開かれた。
「あのね、本を探してるんだけど」
「……どのような本でしょうか? 探すのをお手伝いいたしましょう」
「ありがとー!」
うーん、どう説明したらいいのかな。
「なんかね、魔法を探してるんだけど」
「はい。魔法にも様々なカテゴリーがあります。どのカテゴリーに当てはまる魔法なのかは分かりますか?」
「カテゴリー?」
「生活魔法、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、補助魔法、召喚魔法、精霊魔法、時空間魔法……分からなければ、火や水などの要素でも検索することができます」
む、難しそう……。
どうしたものかと悩んだ末、わたしは正直に打ち明けることにした。
「あのね、体が若返るような魔法ってある?」
ぴく、と司書さんの眉が一瞬だけわずかに動いた。
「肉体変化……人体に影響のある魔法ですね」
「そうそう! そういうの、どうやって調べたらいいの?」
「少々お待ちくださいませ」
お姉さんは手元にあったうすいガラス板のようなものに手をかざした
すると、そこに次々と文字が現れては、下から上に流れていく。
うわ、なにこれすごい!
どうなってんの!?
「検索終了しました」
ガラス板の上を、文字がざあっと流れていく。
それを見ながら、お姉さんは静かな声で言う。
「かなり大雑把な絞り込みでしたので、資料は膨大な数に上ります。おそらく余計なものも引っかかっているのかと」
へえ〜、そんなにいろんな本があるんだね。
「おそらくですが……あなたさまのお求めになられている資料は、時空間魔法系になるのではないかと推測されます」
「時空間魔法?」
「はい。しかし時空間魔法については、そのほとんどが限られた上位の魔導師と魔王陛下しか閲覧することのできない、禁書となっております」
「わたしは見ちゃだめってこと?」
司書さんはこくりと頷いた。
「そうなりますね。禁書の閲覧には、魔王陛下の許可が必要となります。許可証はお持ちですか?」
ふるふるふる。
と首を横に振る。
そんなの持ってないです。
言ったらくれるのかなぁ。
司書さんは少し困ったような顔をした。
「それ以外となりますと……そうですね、僭越ながら、私が選定しても?」
「うん! ありがとう、お願いします!」
司書さんはガラス板をいじると、いくつかの本をピックアップし、小さなメモにさらさらと書いて、渡してくれた。
うわ、字、きれーだなぁ。
「魔法からエイジングケアの類まで様々なものがありましたが、おそらく近しい情報はそれらに掲載されているのではないかと」
「へえ〜」
「ただし、核心をつくような情報はないかもしれません」
その時はまた、いらしてください。
司書さんはそう言って、初めて微笑んでくれた。
わあ、綺麗な人だなぁ。
ユキといい、この司書さんといい、エルフ族って美人が多いのかも。
羨ましい。
そんなことを思っていると、廊下の方が騒がしくなってきた。
ああ、まずい。
また見つかっちゃいそう。
「司書さん、ありがとう!」
わたしはぺこっとお辞儀をすると、入ってきた入り口とは反対の方へ駆け出した。
向こう側に、外へつながる扉を見つけたのだ。
せっかく本を探してもらったけれど、借りるのはまた今度にしよう。
「プレセアさま」
突然、司書さんに名を呼ばれた。
「はい?」
「館内では走らないでください」
「はーい!」
「あとお静かに」
「はーい(小声)」
そう返事をして、わたしは外へ飛び出した。
◆
外にでると、そこには美しい庭園があった。
「うわ、きれーい!」
色とりどりの花が咲き乱れる、よく手入れされた庭だ。
お日様の下で、花びらをめいいっぱい広げている。
わたしは見つからないように少し壁際にしゃがみこみつつ、庭園を見ながら休憩することにした。
「それにしてもやっぱ魔法って、体系みたいなものがあるんだなぁ」
魔法は、イメージだ。
想像することで、その不思議な技が使えるようになる……とわたしは勝手に思っていた。けれど本当のところはどうなのか、わたしは全く知らない。
人間界では、魔法が発達していない。
そのため、学問として学ぶことができなかったのだ。
こうして魔法のことを聞いてみると、わたしは少し、興味が湧いてきた。
わたしにだって魔力があるのだ。
もっといろんなことをしてみたい。
「でも、飛ぶ以外のことって、うまくできるかなぁ」
自分の手を見て、首をかしげる。
炎や水を生み出したりすることはできるかもしれないけど、多分コントロールがきかない。飛行魔法だって、練習してこれなんだもん。なんというか、出力が調整できなくて、四苦八苦している感じ。
特に炎だと、燃えちゃったりしたら大変だから、あまり練習したことはない。事実、孤児院で暮らしていた頃、火事になりかけたことがあって、あれ以来使ったことはなかった。
ふと、目の前を見れば、花が咲き乱れる庭園がある。
「……そうだ」
ここは広いし、試してみてもいいかもしれない。
「よーし、お花に水でもやりますか」
水の魔法なら、危なくもないだろう。
もし失敗しても、ここは広いし、今は人がいないし、大丈夫なはず。
「お水でてこーい」
目をつぶって、手を空にかざす。
すると、宙の一点が歪むように、ぎゅるぎゅると回転しながら小さな水の玉が出てきた。
おお、いい感じいい感じ。
もう少しだけ大きくして、弾けさせてみよう。
「よいしょ……」
玉はぐんぐん大きくなっていく。
こんくらいでいいかな、と思ったところで、体から力を抜く。
しかし予想外なことが起こった。
「あ、あれ?」
いつまでぎゅるぎゅるやってるの……?
水の勢い、全然止められないんだけど。
水の玉は次第に渦を巻き始め、風をびゅうびゅうと起こし始めた。
回転が激しくなり、花びらがバラバラと水の渦に吸い込まれていく。
いつの間にか、わたしの生み出した水の玉は玉ではなくなり、竜巻のように空高く水柱をあげていた。
「な、なにこれ!?」
花や葉や、スコップやバケツが、水柱の中に吸い込まれていく。
「も、もういいって! 花に水やるどころか、全部巻き込まれてぐしゃぐしゃになってるよ!」
それでも水の勢いは止まらない。
「ストップ、ストップだってばー!」
──魔法はイメージだ。
自分で生み出した言葉を思い出して、ハッとする。
わたしはぱんっと手を合わせると、水柱を握りつぶすように手を握った。
もういいから、消えて!
そう願った瞬間、ドゴーン!!! と音を立てて、水柱が爆発する。
「ひえっ」
空に水の竜巻が弾けた。
ザアア、と雨のごとく水が降ってくる。
青い空のした、水が太陽の光に反射して、キラキラと輝いた。
うっすらと、綺麗な虹もかかっているではないか。
うわ、きれい……なんて思っていたけれど、庭園を見て、わたしは絶句してしまった。
そこはまるで嵐が過ぎ去った後のように、ぐちゃぐちゃになっていたからだ。
「あ、れ……」
冷や汗だらだらと湧いてくる。
「あーっ!? プレセアさま!?」
ティアラの悲鳴のような声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!!」
なんだなんだと人がいっぱい集まってくる。
みんなぽかんと庭とわたしを見ていた。
気まずくなって、もじもじと指をくむ。
「っくしゅん!」
盛大なくしゃみが出て、はっとしたようにティアラがかけてきた。
いやほんと、すみません……。
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