第三話 報復
そこには上級生らしきヤンキーが十人ほど立っていた。その中にさっき私が撃退した九十年代後半ヤンキー達もいた。もの凄い表情で体育館の中を見まわしている。
まずいな……やはり報復に来てしまった。しかも入学式の最中に乗り込んで来るなんて、かなり危険な奴らだ。
「な、なんだっぺ君達は。今入学式やってる最中だべさ」
一人の先生がヤンキー達に駆けより、恐る恐る言った。
「うっせえよ、すぐ終っから黙ってろ」
一番前に立っていたひときわ体の大きいヤンキーが先生を黙らせた。
「おい、おめーらをやったっつー女はどいつだ」
「は、はい! えーと……」
「このボケが、早く見つけろよ! リゲルさんにブチまわされっぞ!」
「す、すいません、
梶山と呼ばれた長身の男がさっき撃退したヤンキー達にどなっていた。どうやらこいつがボスらしい。それにしてもリゲルって誰だろう……この学校は外国人もいるのか。
「紅葉……」
箕輪が震えながらぎゅっと私の手を握ってきた。
「大丈夫、必ず守るから」
そう言って私は箕輪の手を強く握り返した。とにかく箕輪が巻き込まれないようにしなければ……
「顔を伏せよう」
私は箕輪とともに顔を伏せた。だが、ヤンキー比率が高いのでどうしても普通な見た目の私達は目立ってしまう。
「あ、こいつらです! 梶山さん、見っけました!」
しまった、やはり見つかってしまった。さっき箕輪を追いかけまわしていたギャルメイク女が私と箕輪を指差しながら声高に叫ぶと、梶山や他のヤンキー達がこちらに近づいて来た。もう、逃げられない。
「本当にこいつか? どう見ても強そうには見えねーな」
梶山が私をじろじろ見ながらバカにするように吐き捨てた。
「い、いや、間違いねーっす。おい、おめー! さっきはよくもやってくれたなコラ!」
虎の威を借る狐とはこのことか。ギャルメイク女が強い口調で私に喚いた。
だが、見つかってしまった以上しょうがない。ここは何とか穏便に済まさないと箕輪に危害が及ぶ可能性もある。
「おい、ちっと来いよおめー」
梶山が語気を強めて言った。
「さっきはすいませんでした。先輩方とモメる気は無いんで勘弁して下さい」
私は立ち上がって頭を下げた。その瞬間、ギャルメイク女が私の髪を掴んでぐいと顔を持ち上げた。
「謝ってすむと思ったら大間違いだど、このボケが!」
「なんだ、全然抵抗しねーじゃねーか。お前ら本当にこいつにやられたのか」
「いや、間違いねーっす。おい、さっきはずいぶんと世話になったっぺなあ」
ギャルメイク女が私を引っ張った。このまま私が連れて行かれれば、とりあえず箕輪は大丈夫だろう、そう考えていた時――
「や、やめて下さい! 大勢で卑怯だっぺが!」
箕輪が立ち上がって叫んだ。やばい。
「うっせーんだよコラ! おめーも一緒に来い!」
男のヤンキーが箕輪の手を掴んだ。
「いっ、痛っ!」
「ガキが勘違いしやがってこの! ボッコボコにして――」
「ぐぎゃああああ!」
ギャルメイク女の絶叫が体育館にこだました。私はギャルメイク女の手を掴んでいた。ギャルメイク女はヒザをついてブサイクな顔で悲鳴を上げている。だが、私は掴んだ手を離さず、さらに力を込めた。
「いっ、いでええええ! 離してぐれえええ!」
その顔があまりにもブスだったので、私は手を離した。ギャルメイク女は泣きながら倒れて足をバタつかせている。
「てめえ、もう冗談じゃすまねーぞ」
梶山が睨みつけてきた。私も冗談のつもりはない。
「ごっ」
私は箕輪の腕を掴んでいたヤンキーの顔面に体重を乗せてハイキックをぶち込んだ。ヤンキーは三メートルほど吹き飛んで床に転がり白目をむいている。
「コラァてめー! ぶちまわさぶっ」
後ろから殴りかかって来たヤンキーの鼻にバックブローを叩き込んだ。噴水のように鼻血を出しながら倒れるそいつを見て他のヤンキー達がたじろいだ。
「な、なんだっぺこいつ……」
「や、やべー奴なんじゃ……」
私はヤンキー達を見まわした。
「ひっ」
すると、ヤンキー達は一目散に逃げ出した。
「どけ、おめーら!」
梶山が大声で叫びながら逃げるヤンキー達を押しのけて私の前に出てきた。
「ずいぶんなことしてくれたっぺなぁ。どうなっか分かってんのかコラ」
「関係ねー子まで巻き込もうとするからだっぺよ」
「紅葉……」
箕輪が胸の前で手を組みながらつぶやいた。心なしか目がハートになっているような気がする。
「病院のベッドで後悔すんだな!」
私が一瞬箕輪の方を見た瞬間、梶山が踏み込んでストレートを放ってきた。
「おごっ」
だが、私はかわしざまに梶山のみぞおちにストレートを叩き込んだ。梶山は二、三歩後ずさり膝をついた。
「ぐ……」
相当効いたらしく、梶山は立ち上がれない。
「もうその子には手を出さないと約束して下さい。それとも、まだやりますか」
私は声を低くして言った。
梶山はぜいぜいと荒い息をついていたが、よろめきながら立ち上がり
「ふざけんなぁ! おめーみたいなガキにやられてたまっかぁああ!!」
と、喚きながら殴りかかって来た。
「このうすらバカ!」
私はローキックで梶山の足を止め、顔面に右フックを放った。
「ぐぶっ」
梶山はうめき声を上げながら仰向けに倒れた。どうやら気絶したっぽい。
本当はここまでやるつもりはなかったのだが、成り行き上仕方ない。ドルナルドは人を助ける為にこの力を私に授けてくれたのだ。
「紅葉っ、大丈夫!?」
箕輪が駆け寄って来て私に抱きついた。目には涙を浮かべている。
「何てことねーよ。それより箕輪の方こそ大丈夫? ヤンキーに手を掴まれたっぺ」
「私は平気。ごめんね、私が余計な事言ったばっかりに……」
「確かにびっくりしたけんども……箕輪、意外と勇気あるんだっぺなぁ。ますます好きになっちったよ」
「そんな……私の方こそ、また守ってもらったんだもの。私のセリフだよそれ」
箕輪がまた抱きついて来た。やばい、マジでキュンキュンしてしまう。
私はハンカチを取り出し、箕輪の涙を拭こうとした。
その時、箕輪がはっと声を上げた――
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