第46話 俺に任せておけ
両の拳を胸の前で打ち合わせ、目を瞑る。
「発動せよ。『手加減』スキル」
対象はピピンに憑依しているアーバインだ。
ちゃんとアーバインに手加減をかけることができたかまずはチェックしよう。
『名前:バルトロメウ・シモン
種族:人間
レベル:108
状態:手加減』
よっし。アーバインのレベルは確か103だったからこれで問題無だな。うまく手加減スキルをかけることができたようだ。
「ちょっと集中するから、一応周囲を警戒しておいてくれ」
「うんー」
「俺に張り付かなくていいからな」
背中にぺたーっとしてきたプリシラへ釘を刺すと、すぐにイルゼが彼女を引っぺがしてくれた。
お邪魔虫が離れたところで、目を瞑り脳内に問いかける。
おおおお。
アーバインもプリシラやイルゼと同じく使える魔法や技が多すぎる。
全ての魔法と技を理解しながら、読み解くには時間がかかり過ぎるし俺の脳みそが追いつかない。
憑依に関することに絞って脳内の情報を整理しなければ……数日かかっても理解が進まない気がする。
いや、俺の頭が相当弱いっていう理由じゃあなくてだな。いや、確かに俺はそれほど理解力がある方ではない。
だけど、魔法や技ってのは「前提となる魔法や知識」が大量にあるんだよ。
大量に分岐した魔法や技を脳内だけで追いかけていくと、どれを見ていたのか分からなくなってくるんだよな。
憑依、憑依……憑依っと……。
憑依の逆となれば何になるんだろう?
解呪? 浄化? その辺かな。
なるほど……。
うむうむ。
「ねーねー」
うーん。これかこれだな。
「うおお。近!」
「あ、目を開いちゃったー」
「……集中するって言っただろ。保護者のイルゼ?」
全く、ちゃんと監視してくれないといけないじゃないか。
イルゼに目を向けると、ブツブツと何事か呟きつつうつむいている。
「す、すまぬ。バルトロ殿。プリシラが変なことを言うものだから」
「変なことなんて言ってないもんー」
「分かった。ちょうど当てがついたところだ。警戒ありがとう。二人とも」
「おー」
「うむ」
プリシラがイルゼに何を言ったかを言及するつもりはない。
触れたらいけない気がプンプンするんだ。主にこの小屋の壁的な意味で。
このまま何も触れずにおけば、何事も起こらない。それが最善だからな。
「して、バルトロ殿。何か妙案が浮かんだのか?」
「おう。恐らく。問題はその後だ。少し相談したい」
「分かった」
アーバインをピピンからはぎ取る。
その後、アーバインをどうやって滅するかも考えておかないといけないんだ。
また別の人に憑依されてしまったら、いたちごっこになってしまうからな。
厄介なことにアーバインが本性を表さずに黙ったままだと憑依されているかどうかの判別がつかない。
なので、チャンスはこの時を置いて他にはない!
「何をすればいいのー?」
「とりあえず、俺から顔を離すのだ」
いちいちプリシラの息が俺の頬に当たっていたら、気になって仕方がない。
「はあい」
「ちょ、そこかよ……まあいいか」
プリシラはちょこんとあぐらをかく俺の上に乗っかった。
「イルゼ、プリシラ。君達にも協力を頼みたい」
「私にできることなら。私とて彼女を救いたいのだからな」
「わたしもー」
「はいはいー」と手をあげるプリシラと、腕を組み「うむ」と頷きを返すイルゼ。
「上手くいくかは分からない。いいか――」
二人に俺の作戦を説明する。
非常に単純な作戦だったから、プリシラも「わかったー」とすぐにバンザイのポーズで理解を示す。
「んじゃ、さっそく状況開始だ!」
勢いよく立ち上がると、プリシラが前のめりに床に転がった。
彼女は「ぶー」とか言って頬を膨らませているけど、見て見ぬフリを決め込む俺であった。
◇◇◇
巨大な蔦から少し離れた上空に来ている。
クアクアの背にピピンと俺、イルゼが乗り、プリシラがクアクアと並ぶように宙に浮かんでいた。
クアクアはホバリング状態で移動をせず、停止している。
「よし、空に浮かぶ大きな生物はいないな。始めるとしよう」
左右を見渡した後、両目を閉じた。
行くぞ。
「オーバードライブマジック 対なる者よ、あるべき姿に戻れ セイクリッド・ディ・キャピテート!」
憑依というのは、毒や呪いと同じく「状態異常」の一種ととらえることができる。
状態異常を起こす魔法があるのなら、それを元に戻す魔法があるのも当然のこと。
俺の手加減スキルは相手を倒すことはできないが、術を相殺することが可能。
両手から青く澄んだ光が顕現し、ピピンを包み込む。
「よくもよくもよくもおおおおお」
呪詛の言葉を呟きながら、血の涙を流した零体がピピンの体から出て来た。
こいつがアーバイン。
彼女の体から離れたアーバインはみるみるうちに空へと登って行く。
「今だ。頼む!」
近すぎても遠すぎてもダメだ。近いとピピンやクアクアに被害が及ぶ。遠いと魔法の威力が減じすぎてしまう。
「オーバードライブ。降臨せよ。絶対聖域ザナドゥ」
「マキシマムマジック。無に帰せ。
イルゼとプリシラの声が重なる。
ザナドゥはどのような空間でも「ゼロ」に戻す絶対聖域魔法。対する
「消し去る」という意味では同じ。
決して雑草を抜くためにある魔法じゃあない。
威力も同様なのだが、このままでは少し問題だ。
プリシラの方が若干魔力が高いからな。
「オーバードライブマジック。浄化せよ。ターン・アンデッド!」
少しばかり足りない聖属性を俺が補う。
白い閃光と黒い閃光、そして、暖かな光がアーバインを包み込む。
次の瞬間、聖と魔が対消滅し爆発的に魔法の威力が増す。
――ギイイイイイイイアアアアアアアア。
ガラスをひっかいたような絶叫が響き渡った。
いかな、高位のアンデッドと言えどもこれに耐えることはできないはずだ。
聖と魔の対消滅は遺跡の深層で出会った、レベルが化けているモンスターでさえ消滅させたのだから。
「や、やはり。聖魔の融合は素晴らしいいいいいいいい」
その言葉を最後に、アーバインの気配が消失する。
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