第43話 俺に案がある
「イルゼ。聖魔法でアーバインを浄化することってできそうかな?」
肉体が消滅し、ゴーストのような存在になったアーバインを滅すとなれば聖魔法の出番だろう。
ここは聖属性のスペシャリストたるイルゼにまず聞いてみることにした。
「ターンアンデッドのような浄化魔法があるにはあるが、アーバインほどの高位存在に効果を及ぼすかはやってみないと分からない」
「そうか。この後、試しにピピンへ浄化魔法をかけてもらってもいいか?」
「もちろんだ。今すぐにでもやるぞ」
「おう、ありがとう。その前にもう一つも聞いておきたい」
アーバインの問題は、浄化魔法の結果がどうなるかを見てからだな。
これでアーバインが消え去ってくれれば良し。ダメなら別の手を考えるってことで。
「あの憎き蔦をどうやって切り倒すかだ」
「んー。アレはものすごーくいっぱい魔力が詰まっているよー」
首をコテンとかしげ、プリシラがバンザイのポーズで自らの考えを述べる。
「やっぱそうだよなあ。あれだけの大きさだものな」
天にも昇るほど天高くそびえ立つ緑の蔦は、天文学的な魔力が込められているはずだ。
規格外の大きさを誇る蔦を生み出すには、同じく想像を絶する魔力が必要だろうから。
「いかなバルトロ殿とはいえ、あの蔦を力技で破壊することは難しいのではないか?」
腕を組み、真剣な顔でイルゼが俺に諭すように言葉を投げかける。
「確かにアレを真正面からぶっ潰すのは難しいだろう。だけど、アレは何としても消滅させる。絶対に、絶対にだ」
あの蔦は不倶戴天の敵なのだ。
俺の、俺のおおお。農場と我が家を破壊しやがって。
絶対に消滅させ、元の農場を取り戻す。
俺は拳を痛いほどに握りしめ、ふつふつと闘志を燃やす。
怒りに何もかもを忘れそうになるが、今は抑えねばならない。
先にピピンのことからやる。これは変わらない。だが、彼女のことが終わったら……待っていろよ。蔦め。
「して、先にピピンのことからでよいのだったな?」
俺の話が終わったと見たイルゼが問いかけてくる。
「うん。まずターンアンデッドを試してもらっていいかな?」
ピピンの事に関しては、どうやってアーバインの憑依を解くか皆目見当がつかない。
イルゼ自身、懐疑的だけどひょっとしたらうまくいくかもしれないし、当たって砕けろだ。
「もちろんだ」
イルゼの手をギュッと握りしめたら、プリシラが俺の手に自分の手を重ねてきた。
「がんばろー」
「おう!」
「そうだな」
プリシラの掛け声に俺とイルゼが応じる。
◇◇◇
イルゼにターンアンデッドをピピンにかけてもらったが、アーバインの気配がピピンから消失することはなかった。
彼女の懸念通り、アーバインは高位の
「うーん。どうしたものかな……」
即席の雑草ブレンドティーを傾けながら、頭を捻る。
自宅がぶっ壊れてしまったことで、秘蔵の雑草ブレンドティーも全ておじゃんになってしまったんだ。
しかし、これがなければ俺の生活が始まらねえ。
仕方なく、ため池の周辺に生えていた草をブレンドし煎じたってわけなのだよ。
うーん。こいつを飲むと脳髄に染みわたるぜ……。
「一つ案があるのだが」
何故か嫌そうに眉間に皺を寄せているイルゼがおずおずと手をあげる。
「おお。何か思いついたのか?」
「思いついたというほどではないのだが、バルトロ殿が私とプリシラに助言したことと同じようなものだ」
「んん?」
「あれだよ。聖属性と魔属性を同時に使用し爆発的な破壊力を生み出したことと」
「お。おお。そういうことか」
「うむ。ターンアンデッド等の『浄化』とリムーブカース等の『解呪』を組み合わせてみてはどうだろうか?」
「素晴らしいアイデアだ! ちょっと検討してみる」
雑草ブレンドティーを一息に飲み干し、頭をクリアにする。
モンスターの中でも特にスペクター等のアンデッドは「チリング」等の人を恐慌状態に陥らせる魔法を使う。
リッチといった高位のアンデッドだと「カース」を使う奴らもいて、こっちは永続的に四肢の自由を奪ったりとえげつない。
これらの魔法を解除するのがリムーブカース等の「解呪」だ。確か……高位の聖職者なら使いこなすとか聞いたことがある気が……。
アーバインが呪い……というと微妙だけど、「解呪」はアンデッドに対し効果がある魔法だとも聞く。
なら、浄化も解呪、どっちの魔法もアーバインに効果がありそうだと推測できる。
しかし、イルゼほどの聖魔法の使い手でも「ターンアンデッド」でアーバインを消滅させることは難しいという。
同じ威力に調整してぶつければ……いや、今回の場合は反発する力を破壊力に変える必要はない。
同系統の聖属性なのだから。
「むにー」
「うお」
考えにふけっていたら、プリシラが俺の頬っぺたをむにゅーと両側から引っ張ってきた。
「うーんうーんって唸っていたけど、大丈夫ー?」
「おう。だいたい考えがまとまったぞ。三つ、試してみたいことがある」
「すごーい。三つも浮かんだんだー」
「へへへ」
プリシラとハイタッチを交わしているところで、イルゼが口を挟む。
「聖職者殿を迎え入れに行くのではないのか?」
「それも一つの手だ。もう一つはプリシラに頼んでカースとか毒々しい魔法が使える魔族を呼ぶこと」
「逆じゃないのか……今回必要なのは対アンデッドだろう?」
「そうだ。だからこそだよ」
そろそろ腹を割って、二人に俺の「手加減スキル」について説明しようと思っている。
自分のスキルがネタバレすることで、自分の身に危険が及んだり彼女らが俺の実力を勘違いしていることが分かってしまう。
だけど、いつまでも隠すことは心から協力してくれている彼女達への裏切りじゃないかと思うんだ。
だから、話す。
正直に。全てを。
もし、「手加減スキル」のことを彼女らが知って、俺の元を離れて行くのならそれでも構わない。
このまま隠すよりよほどいいからな。
「イルゼ。そしてプリシラ。魔族を呼ぶことへの疑問の前に俺のスキルについて聞いて欲しい」
「うんー」
「いいのか。特殊なスキルなら、みだりに人へ知らせぬ方がよいとは思うが」
「構わない。俺のスキル名は『手加減スキル』だ。スキル名と表向きの効果ならが、冒険者ギルドも知っている」
「少し待て、バルトロ殿。貴君が話すというのなら、先に私に語らせてくれ」
手加減スキルについて説明をはじめようとしたところで、イルゼが片手をあげ待ったをかける。
実直な彼女らしい。俺はクスリと小さく声を出し、口を開く。
「分かった。じゃあ、先にイルゼから」
「うむ」
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