第42話 そいつは盲点だ

 二人は地上で合流し俺の気配を探ったが、見つけることができないでいた。

 だけど、俺なら必ずここへ帰還すると信じその場から動かず俺を待っていたと二人は口を揃える。

 

「しかし、あからさまに怪しい巨大な蔦を捨て置くのもと思ってな。私からイルゼに頼んだのだ」

「くあくあに行ってもらったのー」


 それでクアクアが蔦の中にいたのか。

 俺の気配を察知したクアクアがよちよちとあの緑の空間までやって来た。

 ん?

 

「じゃあ、プリシラはどうやって?」

「くあくあはわたしのペットだからー」

「えっと……」

「これで、いつでもくあくあの元に行けるんだよ」


 にまーっと口角を大きく上にあげて、プリシラは手首をぐるんと回す。

 すると、彼女の手に金色のブレスレットが出現した。

 見た所、とても高価な物のように思える。

 金色なのは黄金でできているからだろうし、大粒のルビーも綺麗にカットされていて美しい。


「それは?」

「これはねー。ペットリングっていうんだよー。わたしとくあくあを繋いでいるの」

「要は、その魔道具を持っていたらクアクアのところに転移できるってこと?」

「うんー。くあくあからは飛べないんだけど」

「そっかそっか」


 万が一、クアクアが危機に陥ったりした場合にはプリシラを呼び寄せることができる。

 それなら、クアクアを蔦の中へ行かせたのも頷ける話だ。


「あ、そうだ。クアクアの姿が変わっていたけど、彼もプリシラみたく変化できるのかな?」

「うんー」

「了解。おかげで全て理解できたよ」


 うんうんと頷きを返していると、イルゼが釘を刺すように鋭い目で俺へ目を向けた。

 

「もし、翌日になって、バルトロ殿が戻ってこなければ探しに行くつもりだったが。幸い蔦の中にバルトロ殿がいたがな」

「なるほど。詳しくありがとう。次は俺の番だな」


 転移し、緑の広間で起こった出来事を二人に語る。

 ピピンがアーバインに憑依されていることは説明したけど、アレな感じで俺を誘ってきたことは伏せておいた。

 黙っていたのはもちろん彼女のためだ。俺は紳士なのである。

 

「ピピンのことを『バルトロが見ちゃダメ』だって言っていたの」


 おっと、今のは失言だぞ。プリシラ。

 ほら、イルゼが身を乗り出して俺を睨んできているし……。


 こいつは話すしかなくなったじゃないかよ。

 しばらくお待ちください――。

 

「破廉恥な……と思ったが、事情は理解した。やむにやまれぬ事件だったのだな」

「だからさっきから何度もそう言っているじゃねえか!」


 イルゼに理解を求める説得が終了するまでにかかった時間は二時間。

 ピピンの拘束が解けるまでの時間制限があるってのに、こんなことで無駄に時間を過ごしてしまったよ。

 ブルブルと首を振り、指先でトントンと机を叩く。


「どうしたのだ? やはり破廉恥なことをしようと……」


 イルゼが嫌そうに眉をひそめる。


「んなわけあるかあああ! 見りゃわかるだろ……俺の焦っている様子が手に取るように……」

「そうだったのか。何か問題があるのか?」

「ピピンの拘束時間だよ。トリニティバインドは連続使用ができないんだよ」


 トリニティバインドは強力な拘束魔法で、拘束された者は三日間飲まず食わずでも平気な体になる。

 全く動けなくはなるけど、外的要因が無ければ拘束された者の健康は保証されるんだ。

 強力な効果を持つが、制約もある。それが、一度使用した者に対して、三十日間は再使用することができないこと。

 いや、効果が解けた直後にトリニティバインドを再びかけることはできるけど、その場合、対象者の意識は永続的に失われるんだ。

 

「どうしてダメなのー?」


 プリシラがつぶらなお目目で俺を見上げてきて、口元に人差し指を当てる。


「トリニティバインドはだな……」

 

 全く……自分でかけた魔法じゃないか。

 魔法の効果を説明しようとし始めた俺にプリシラが言葉を重ねた。

 

「魔法を使えなくすればいいんだよね? だったらー、他の魔法でもいいんじゃない?」

「あ……」

 

 確かにプリシラの言う通りだ。


「確かに……。アーバインの奴が暴れるかもしれないけど、拘束し魔法を使えなくすればなんとかなるよな」

「うふふ。バルトロくん。そんなものなのかねー」


 プリシラにポンと肩を叩かれる。そ、その顔おお。ち、ちきしょう。

 他の魔法のことを考えなかった俺が抜けていたことは認めよう。

 しかし、彼女らしくないにまあっとした顔が俺の心を乱す。

 ぺったんこの癖に態度が大きんだから。

 

「バルトロ殿、一体どこを見ているのだ?」


 ぺったんことか考えていたから、プリシラとは対照的に立派なものをお持ちのイルゼに目が行ってしまった。

 彼女はプリシラほどに無軌道には動かない。だけど、破壊的な行動を行う確率はプリシラとどっこいどっこいだけどな。

 壁ドンとかさ……。


「あ、いや……」

「やーらしー。そんなにイルゼのおっぱいが見たいのー?」

「見たくないと言えば嘘になるから見たくないとは言わないけど、ついつい目がいってしまっただけだ」


 嘘をついてたどたどしくなるよりは、堂々と本音を言うことにした。

 取り繕ったら余計に怪しくなっちゃうからさ。


「バ、バルトロ殿……」


 しかし、冗談めかした俺の言葉を本気で受け取ったのだろうイルゼが頬を染めて後ろを向いてしまう。

 いかん。このままでは、せっかく作成したばかりのログハウスが壁ドン被害にあってしまうじゃないか。

 

 ここは……なんとかこの流れを変えねばならぬ。

 

「じゃああ。みんなの状況報告が終わったところで、分析タイムをはじめよう」

「おー」

「分かった」


 ふふふ。

 こういった単純なところは嫌いじゃないぜ。

 

「最初に俺の目標と優先順位を話してもいいか?」

「うん!」


 元気よく右手をあげるプリシラと黙って頷きを返すイルゼ。

 

「第一はピピンをアーバインの魔の手から救い出すこと。第二は巨大な緑の蔦をぶった切ることだ」

「第二はともかく、第一目標は私も同じだ」

「わたしもー」


 ふむ。

 反対意見は無しってことでいいのかな。

 イルゼとプリシラには協力してもらわないと、この難関を乗り切ることは難しいと思っている。

 だからこそ、俺の目標とすり合わせをしたかったんだ。

 いや、わざわざ確認しなくても、二人は俺に協力してくれると思っている。

 でも、優先順位を決めておかないと肝心なところで取り逃がしかねないからな。


 では、一つ一つ検証していくとしよう。

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